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「さて 君の名から聞かせてもらいたい」
社長と呼ばれた初老の男がにこやかに斜め前に座っている男に語り掛けた。
「・・俺は 田川と言う、社長さんはこの街の出身かい?」
田川と名乗った男に軽く頷いた社長である。
「出来るなら 其方の名前と年齢も聞きたいのだが?」
その男の問いに軽く笑いながら 鬼島だ 今年65になる と答えた。
・・鬼 島?? 65歳か・・。
急に田川が何やら考え込み始めた、それを専務が焦れて口を出そうとしたが社長が目で制する。
「なぁ あんた〇〇地区の出身では?」
突然言い始めた言葉に、今度は社長が少し驚いた顔で頷きながら・・
「どうして それを?」
少し疑いの目で静かに問いかけた。
「いや あの地区に多い名だからな、、半分推測だ」
ほう・・ ならばあんたもこの街の出身なのか?
「ああ △〇地区の出身だ」
「・・確か 高台地区だったような」
「正解だ 〇〇地区ならそうは遠くない場所だ」
意外と二人は近い場所での生まれであった。
「・・あの地区は現在 過疎化が進んでいる地区だな」
中心部から外れて高台にあり、道路も昔と変わらぬ道でいつの間にか若者は麓に降りて、老人達が主に暮らす地区になっていた。
「65歳か・・ならば 20歳になったばかりの時を思い出してもらいたいが・・・」
突然に田川と名乗る男が昔について語りだした。
何事かと鬼島が眉を顰めて田川の話を聞き入る。
彼から話された話は、かなり昔の若き時代の変わった思い出話であった。
あの高台地区から下に降りたところに小さな古い神社がある、そこにお参りしていた数人の若者がいたが、突然光が現れ若者3名の内2人がその光に突然包まれて、残された1人が呆然と見つめる中その二人が消えうせていく そんな話を当時聞いた事はないかと 真剣な顔で尋ねてきた。
周りにいた若い者達は 何の作り話をしていると半分呆れた顔で聞いている。
が 社長と呼ばれた男は少し蒼ざめた顔でその話を聞いていた。
社長の様子が可笑しいと 専務が敏感に感じ取っていた。
「・・因みに その残された1名の名は知っているか?」
「・・鬼島 夕子 だ」
その名を聞くと 途端に寡黙になり考え始めた社長である。
「鬼島 夕子 を知っているのか?」
田川と名乗る男が鋭い目で社長を睨んでいた。
「・・・忘れかけた昔話だな、、だがそんな昔話を思い出した。確かに一時そんな噂で地元は大騒ぎをしていたと記憶している」
二人が突然行方不明となり、警察も当時事故と事件の両面から調査され、唯一の目撃者である 鬼島 夕子は殺害の可能性を含めて当時かなり警察の追及を受けていたようだ、警察が注目したのは行方不明の二人は恋仲に近い状態であり、その後の調査で 鬼島 夕子もこの男性を好きだったようだ との情報が持ち込まれていた。
つまり警察は 二人が光の中でかき消えたと言う 鬼島 夕子の証言を殆ど信用しておらずに、誰が話したのか分らぬ 二人の仲に横恋慕した 鬼島 夕子が三角関係のもつれによる殺害及び死体隠匿の疑いに傾き、取り調べは過酷共言える程の連日の結果にようやく保釈された。
当時の警察はかなり横暴であり、決め打ちに近い罪の押し付けであったが、結果的に死体が出てこずに決め手がなくの渋々事件関係なしと保釈となった。
連日による無謀な警察による聞き取り調査と帰宅してからの近所の無責任な中傷が、彼女の心を傷つけてしまい結果的に彼女はノイローゼに陥り、とある夜に突然飛び出すと走る車に自分から飛び込んでしまう。
病院にて必死の治療も甲斐もなく彼女は若い命を自ら散らした結果となってしまった。
なれど世間の噂はそれでも止まらずに、遠慮ない推測を周りにまき散らしていた。
両親はその後家に隠れるような生活を続けて、鬼島 夕子に恨みとも思える想いを抱いて両親二人はやがて亡くなっていく。
そしてこの夕子には当時少しグレかかっていた弟がいた、その事件が結果的にその弟をも人生を変えていく。その弟はその後堅気の世界から裏社会へと活動を変えていった。
鬼島 夕子の一家は皆が不幸の結末へと動いて行ったのだ、全てはあの光の渦から始まった不幸な事件の物語となる。
「済まんが 若い衆はこの部屋から一旦出てくれないか?この中は専務と儂の後ろにいる数名にしてくれ」
突然の言葉に戸惑う若い者達だが、渋々社長の言葉に従い田川の後ろで待機していた者達は座を外す。
改めて社長は田川を睨み問いかける。
「お前何者だ? 何故そんな昔話を知っているのだ」
「その前に そちらはまだ俺の質問に答えていない。 鬼島 夕子をお前は知っているのか?」
共に暫しの睨み合いが続いた。
やがて社長が折れたように小さなため息と共に小声で呟く。
「・・鬼島 夕子は俺の姉だ、、、」
今度は田川が驚いた顔になり固まっていた。
「・・そうか あんたの姉さんか、、、」
何となくそんな気がしていた、田川は何十年前、、いや田川にとっては正確には10年にもたっていない話であるが、鬼島 夕子の面影をこの社長に重ねていたのだ。
「さぁ あんたの番だ、誰からその昔話を聞いたのだ? そしてその意図する目的は何だ?」
社長の目はこれまでにない険しい目と何をこの男は考えて話しているのかと疑惑に包まれていた。
「・・誰からも聞いていない、その事実を知っている者だ」
「・・・それはつまり?」
「二人が消えた その片割れが俺よ」
突然の田川の言葉に一瞬何をこの男が言っているのか理解できなかった。
事件はもう数十年前に発生している、当時姉が好きだったと噂されている男とは面識がないが、確か姉より数歳年上だと聞き及んでいた。
その姉と自分は5歳違う、つまりその男が今現実に現れたとしたら、そう70数歳になっている筈だ、この男はどう見ても40手前の男である。
何が悲しくてそんな嘘に付きあわされなければならない、怒りさえ覚えてくる。
そんな社長の雰囲気を感じてか田川は少し困った表情になる。
「なぁ あんた、神隠しは知っているか?」
「・・それこそ昔話としてな、、」
「現実にそれが起きたとしたら どうする?」
・・言うに事かいて 神隠しだと?
昔の素朴な時代なら信じるかもしれないが、この現代に誰が信じる者がいるか と態度が硬化する。
「信じないよな・・だが現実はそれに匹敵する事が起こりえるんだよ」
田川は深いため息と共に中空を視線が睨んでいた。
・・どうもこの男は取り留めもないが、何故か何かが引っかかる。
互いにどう相手を納得させるか 共に攻め手に欠けていた。
・・鬼島か 確か同姓でもう一人知り合いがいたな と懸命に田川は考えていた。
そんな様子を注意深く見ている相手である。
「なぁ 俺のクラスメイトに鬼島 雄介と言う今なら70過ぎの男がいたけど知っているかい?」
・・鬼島 雄介だと?
自分の遠い親戚筋にあたる人物だと 判断した。
「・・その 雄介氏を知っていたらどうなんだ?」
「うーん、 中学時代のクラスメートなんだが、それほど親しい仲ではないが、その当時のクラスの思い出話なら向こうも覚えているだろう? それで判断の材料にならないか?」
「・・それは残念だ、雄介氏は数年前に亡くなっている」
あちゃ この手もダメか・・・田川は手が無いと落ち込んだ。
「・・一つ思い出した、今出た雄介氏だが確か中学のクラスメイトと結婚したと聞いているが、、」
・・なんだと! 中学時代のクラスメイトと結婚? ならば俺が知っている可能性がある。
「誰だ その相手は? その名前は?」
そこまでは・・待てよ 隣に住んでいる者は俺の知り合いだ。彼なら名を知っているか?
暫く待てと携帯を取り出して彼を呼び出す。
途端に田川が物珍しそうに携帯に目が釘付け状態だ。
変な視線を感じながら社長は知り合いに電話をかけていた、出てきた相手も隣の奥さんの名を知らず、自分の嫁に何だ かんだと尋ねていた。
ようやく連絡が終わり 社長も少しため息を吐いた。
「旧姓は知らないが 奥さんは明子 と言う名だ」
・・明子、、何だか聞き覚えがある。顔は忘れているが・・・
「・・なかむら あきこ かな?」
懸命に思い出す田川であった、恐らくそんな名だと記憶しているが・・・。
もしかして なかだ あきこ かも・・記憶の中で戦っていた田川であった。
「社長 何なら本人に直接電話してみれば? 番号を調べてみますよ」
「「そうだ その手があった」」
色々な情報に混乱して二人してその手を思い出していなかった。
専務が大体の住所と故人の名を念の為に聞いて部下へ指示を出す。
何故だか分らないがいつしかこの男のホラ話を信じこもうとしていた自分がいる事に少し呆れていた専務であったが、それは社長もいつしかそんな気持ちに揺れ動いていた。
電話番号の紹介があるまで 二人はつい昔の地形について語り始めていた、特に池の跡の工場がこの組?が骨を折って売りさばいた物件だと判明して、あの池での子供時代の出来事に盛り上がっていた。
部下により電話番号の確認が終えて、奥さんへ電話連絡を入れる。
挨拶の後に社長が奥さんの旧姓を尋ねると 中田 明子 と判明した。
ついでにクラスメイトの 田川 某氏 を覚えているかとの不躾な言葉にも、名前自体は記憶しているし、あの事件は当時有名な話だから と語っていた。
話の途中に そうそう故人の昔の卒業写真があるから田川本人の顔写真もあると ナイスな助言がある。
アルバムを借りる事に成功して部下が借りに走り出す。
明子と直接話す事も可能だが、考えればかなり大問題にも発展する可能性があると 専務が反対したのだ。
ならば当時のクラスの思い出話の一つや二つ聞いて、ここにいる人物との話を比較すれば良いと専務の提案が採用された。
何故だかいつしかこの事務所内は田川により半分かき回されていたが、社長・専務は何故か少し嬉しそうな気配が漂っていた。
当然与太話との思いもあるが、何故か真実の様な夢話につい現実逃避していたのであろう。
ようやくアルバムと昔話を仕入れた部下が汗を拭きながら帰って来た。




