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幻獣チルドレン  作者: 葵尉
第1章 アース編
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17話 3VS3閉幕① 

17話 3VS3閉幕①

 


 「どうしたレイユ!?」


 毎秒のようにカインに放たれていたレイユの矢が急に止んだ。


 矢のおかげで自分が優勢でいられたことを知っているロイトは後ろを振り返ってしまった。


 矢と目の前の敵が止まったこのチャンスを、棍棒を(ムチ)のように操るカインは見逃さない。


 「例え味方が倒れても後ろを振り向くな──って、班長に教わらなかったのか!」


 「しまっ──」


 ロイトがカインの方を振り返るよりも早く、振るった棍棒はロイトの頭に当たっていた。

 

 カインはそれで止まらない。

 すぐに矢を構えているレイユの方へ走り出す。


 「そんで援護をする奴は! 援護する対象がやられたら即時撤退だろ!」


 「カイン……てめえはなんでそんなに速いんだ!」


 少年は矢を1本放ったが虫を叩くように簡単に棍棒で防がれる。


 すぐに2本目をつがえようとしたが標的は既に目の前に来ていた。


 「お前らの飴の効果が切れたんだろ?」


 「そ、そんなに時間が……」


 少年は矢を手から落として、膝から崩れ落ちた。


 飴の効果が切れたことにより、先ほどまでの動きの疲れを感じているのもあるだろう。


 それでもレイユが膝を崩した理由は疲労ではなく──目の前にいる相手に2人でも敵わないという、自信を喪失させる力の差の方だった。


 カインは戦意を喪失している相手の頭を棍棒で優しく撫でた。


 「はい、2人とも脱落っと。後は、ドーサだけか・・・悪いなエイド。俺、もう、立て、ない」


 2人の少年を連続で倒したカインはすぐに仲間の元へ向かおうとした。

 

 けれど彼は自分たちの勝利を確信した安心感に包まれ、脱力してしまった。そのままゆっくりと倒れて横になる。


 1つの戦局が終わると、バモンは再びエイドたちの方を見た。


 (レイユ・シテソ。ロイト・フェブ。カイン・ビレントの3人が脱落。


 あそこの3人の戦いの結果がこの戦闘訓練の結果につながると思ってはいたが、2人を倒したカインが脱落するとは思っていなかった。その点あの2人は賞賛に値する。


 もし仮にカインが動けていれば戦力、数的有利でニアース班が圧勝するだろう。


 しかし今残っているのはニアース・レミとエイド・レリフの2人。


 彼らの相手はシウダー・ドーサ1人と数的には2対1で有利。


 だが戦力的にはほぼ互角だろう。

 しかしニアース・レミは戦える状況にない。


 つまり実質一騎打ち。


 エイド・レリフ。

 お前は指示がなくても、頼もしい仲間がいなくても戦えるか?)


 「ドーサさん! どうしてあなたはそんなに僕たちを嫌っているのです!」


 激しくふりかかる2本の棍棒を、少年は2本のナイフで軌道をずらして防衛していた。

 

 時には回避したりとその時、その時で柔軟な対応を見せた。


 それに引き換え棍棒はがむしゃらに振られているだけ。


 「お前はどうやってジズに入った!」


 「僕は、生存者としてここに運ばれて──」


 「それだよ! 俺がお前らを嫌ってる理由はそれだ! お前は試験を受けていない! なのになんでここにいる!」


 なんでここにいる? なんでって言われても僕は生存者としてここに運ばれて来て、気がついたら兵士になってたんだ。


 「……僕は」


 「なんだ! 言ってみろよ!」


 棍棒は止まった。

 攻撃がこなくなったのでナイフも止まる。


 汗を拭う少年たちは、初めてちゃんと話をする姿勢になった。


 「僕は! 来たくてジズに来たわけじゃないんだ!」


 「なんだと!?」


 エイドはそう言うと、ドーサにナイフを振り上げた。


 ドーサはとっさに棍棒で防いだが、ナイフの連続した突きがエイドの想いと共にドーサを襲う。


 「いきなり連れてこられて、体を傷つける儀式を受けて! 武器を持たされて気がついたら兵士だ! 今だってあなたを傷つけたくないのに! 僕は戦っているんだ!」


 「じゃあなおさらここを出て行けば良いだろ!」


 防戦一方だったドーサはナイフが当たるのを覚悟で攻めに出る。


 ナイフを避けつつ棍棒で防ぎつつ蹴りで少年を牽制。


 それでもエイドは引くことなく、ナイフでドーサの顔や体を狙い続ける。


 「その通りだと思います。でも僕はここに来て嫌なことばかりじゃない!それに、外に行ったところでこの世界は変わらない!僕は生活区の人たちを見て、この世界を変えたいと思ったんです!」


 そうだ。嫌だから逃げたって、腐っても何も変わらない。


 嫌なことの中にも良いことがある。

 腐らずに生きる方がまだ何か起こる可能性がある。


 それに僕は、自分よりも嫌な目に遭っている人を知っている。


 僕はその人たちに会った時から何かを変えたいと思ったんだ。


 だからそう簡単に逃げない! 

 例え自分がやりたくないことをやっていても!


 「そんなこと知らねえ! 俺はとにかくお前たちが許せないんだ!」


 「僕らが出て行っても、あなたの怒りは終わらないと思います!」


 「なんでだよ!」


 「これからまた生存者が運ばれてくるかもしれないからです!」


 「だったら生存者ってのが運ばれくる度に、ここを出て行きたくなるくらいボコしてやるよ!」


 「ドーサさん。あなたは本当にボコす相手を見間違えています!」


 「誰と見間違えているっていうんだ!」


 「ポルムです!」 


 その一声でエイドに迫っていたドーサの棍棒が急停止した。


 彼は棍棒を下ろして後ろへ下がった。

 そのまま、話を続けるエイドのことを見つめる。


 「僕たちはポルムとドミーを倒すことを目的とした仲間じゃないんですか!? ポルムとドミーを倒して平和な世界を取り戻せば! 多くの人が不満的な生活をしなくて済むんですよ!」


 (自分の間違いに気がついてくださいドーサさん!


 僕にはあなたの辛さが分からない。

 だからあなたの気持ちも分からない。


 だけど僕たちを殴るために、あなたはここに入ったわけじゃないのは分かる。


 あなたはもっと、何か強い目的を持っているはず!


 そうでなきゃあなたはこんなにも強くなっていないはずだ!)


 両者息を切らしてその場に立っている。2人とも腕は止まったまま。


 体力を消耗してはいたが彼らは疲れたわけではなかった。


 エイドの言葉に停止ボタンが押されたようにドーサは止まったのだ。


 攻撃のチャンスだったがエイドはドーサを見つめていた。 


 止まっているドーサが何かを考え改めているように見えたのだ。


 (──そうか。そうだったな。


 俺は元々……ドミーを倒したかったんだ。


 もう二度と仲間を見殺しにしないために、強くなりたかったんだ。


 それなのに俺はいつの間にか人を敵にしてた。


 確かにお前が言った通りポルムとドミーを倒せばこんなクソな組織がいらねえ世界になるじゃねえかよ。


 てかよ、そっちの方が人を恨むより全然良いんじゃねえのか?


 まさか生存者にこんなこと言われるとは思わなかったぜ。


 全く、こいつは何なんだ?

 世界を変えるとか変なこと言いやがって。


 格差の象徴の生活区を知ってるのかよ。

 

 あんなところ行く用事ないだろ。ほんと変な奴だな。

 

 でもこいつがやろうとしていることよりも俺のやってることって、すげーバカバカしいな。


 まだこいつの言う世界を変えるとかいう、変なことをやる方がマシに思える。


 俺は何のために力を手に入れたんだよ......)


 「だから──」


 黙っているドーサの様子を見ていたエイドは口を開いた。


 しかし黙っていた少年は彼が言おうとしたことを瞬時に先読みした。


 「だからもう『僕たちを嫌うのをやめてください』ってか?」


 「いいえ、違います」


 しかしそれはすぐに否定された。

 否定をしたエイドはこう続けた。


 「だから、ポルム、ドミーを倒すまでは──僕たちと仲間でいてくれませんか?」


 「・・・はぁ?」


 そう言われたドーサは(つまず)いて、気の抜けた声でエイドを見た。

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