3VS3開幕③
3VS3開幕③
────3年前
「マダーさん。今回のジズクラス候補生試験合格者は──シウダー・ドーサ。ロイト・フェブ。レイユ・シテソの3名です」
長髪の男は椅子に座る髭を生やした男に書類を手渡した。
「……全員孤児ですか」
「対ポルム・ドミー戦争で親を亡くし、子供だけで生活しているグループは未だに多いようです。おそらく生きるために試験を仕方なく受けたのだと思います」
「でも合格なら問題ありません。我々も戦力を選んでいる余裕はありませんからね」
────現在 訓練室
「どうだニアレミ! なんとか言ってみろよ!」
ニアース・レミに攻撃を続けるシウダー・ドーサは昔のことを思い出していた。
──あの日まで、俺は地獄のような日々を地上で過ごしていた。
助けてくれる大人はいねえ。
むしろ俺らから物を奪う悪い大人ばかりだ。
犯罪が罪にならない。そんな世界だ。
食い物、飲み物に毎日困った。
虫、草、土。食えそうな物は何でも口にした。
濁った水を何度も飲んだ。
一緒に暮らしていた16人の仲間は気がついたら俺を入れて4人になってた。
何とか生きていたある日、こんな時代に外を車で移動している奴らを見た。
近づいて来たから「何をしているんだ?」と聞いたらそいつらは「ドミーを倒している」と言った。
バカだなって思った。
あんな化け物に敵うわけがないんだ。
俺たち人間は逃げるしかない。
俺は何度もドミーに食われる仲間の悲鳴を聞いた。
何度も何度も俺の名を呼ばれた。
「ルーカス! 助けてよルーカス!」って。
けど決して振り返らなかった。
耳を塞いでただ走った。
そうして仲間を見殺しにして生きてきたんだ。
そうしないと自分が生きていけないんだ。
でもあの兵士が言ったことが嘘じゃねえってのはすぐに分かった。
その日、兵士たちが俺たちを安全地帯まで運ぶ途中にドミーから助けてくれた。
その兵士を見て俺はそうなりたいと思った。
そうすれば仲間を助けられる。
けれどそれは簡単じゃなかった。
あの兵士がいるところには簡単には入れねえ。
兵士になりたいと言ってもダメだった。
兵士が暮している場所の近くの村に運んでくれるだけで、あの洞窟の中には行かせてくれなかった。
入り口が見えるのに、それより先に進めないのが悔しかった。
なんとなく暮らしていたある日「試験をクリアすれば入れる」と兵士に言われた。
俺たちは試験の内容を聞かないですぐにそれを受けた。
試験は全て体力系のもの。
毎日ドミーから死に物狂いで逃げてきた俺たちにとっては簡単な試験だった。
やっと入れたジズの世界は楽園だった。
食い物にも飲み物に困らず、寝る場所、着る物まである。
訓練は厳しかったが楽しめた。
入って暫く経ってから俺は例の儀式をクリアし、ジズクラスに入った。
初めて訓練室に入った時、そこにいた先客を見て驚いた。
あの訓練を耐えた中に女がいるとは思わなかったからだ。
だから俺はそいつに言った。
「よくジズクラスに入れたな」って。
そしたらそいつはこう言ってきた。
「大したことない」って。
初めは冗談かと思った。
けどそいつの目はマジの目だった。
まるでそう聞いた俺がバカだと言われているような目だった。
だからそいつは実力もすごい奴なんだと思った。
けどいざ一緒に訓練をしたらなんてことないと分かった。
力は全然ないし、すぐに息切れをする。
今も外でドミーに怯えて生きてる奴の方が、この女よりもここにいるべきだってすぐに思った。
だから、俺に試験の話を言ったあの兵士に「なんであんな奴がここにいるんだ!」って、言ってやった。
で、兵士にその理由を言われて、あることを初めて知った。
なんの試験もせずにここに入ってる奴がいるってことを。そして生活区の存在も。
......ニアース。ニアース・レミはたまたまここにいて、たまたまアースに適合したからジズクラスだった。
アースに適合したのはたまたまだろう。
けど!ここにいたのは偶然じゃなかった。
あいつは自慢気に「両親は科学者と連合軍の士官だった」と言った。
だからあの戦争が終わる前、ジズができた頃からここにいたんだ。
......俺はそれが許せなかった。
運の違いなのかもしれない。
けどその運の違いが許せない。
運の違いで「死ぬ側」と「生きる側」に分かれるのかよ!
「待ってよルーカス!」
「置いていかないで! いやだ!死にたくない!」
「助けてよルーカス!」
って……叫んで食われていった奴らは!
運がなかったから死んだのか!?
名前をルーカスからシウダーに変えてもあの悲鳴を忘れることができなかった。
どうして全員がジズに入れないんだ!
どうして全員を助けてくれないんだ!
今も外では何人もの人が死に怯えながら生きているのになんで!
試験もせずにいきなりこんな楽園にいれるんだよ!
……そんなことを悩んでも解決できないのは分かる。
でもさ、俺たちも親が親だったらここに入れたんだろ?
死に怯えず、食べ物にも飲み物にも困らずに生きれて、仲間の死の悲鳴も聞かずに済んだ。
でも人間はみんな親を選べない。
生まれる家庭も選べない。それは運で決まる。
だからしょうがないもの……って、納得できないだろ。
そんな行き場のない怒りをいつも訓練で発散してきた。
けれどあの女を見るたびに怒りが生まれる。
あの女だけでもムカついていたある日『生存者』って肩書きであるガキが運ばれてきた。
生存者?俺たちだって生存者だったろ。
なのにあの時車に乗ってた兵士は俺たちをジズに入れてくれなかった。
生存者を見つけた兵士が、俺たちを見つけた兵士とは違うからか?と思った。
でも生存者を運んできた兵士と俺たちに「ジズには入れられない」と言った兵士は同じ人間だった。
その生存者のガキは気がついたら通信クラスってところのクラス長になってた。
俺が来た時に通信クラスなんてものは無かった。
あのガキのために作られたんだ!その時から俺は「運」をもっと恨むようになった。
ニアース・レミとダク・ターリン。
あの2人は俺の怒りの元だ。
だからって殴っていいわけじゃねえのは分かるよ。
殴っても解決しねえのも分かるよでも、その行動に意味がなくとも、やらなきゃいけないことっていうのがあるんだ。
そうしなきゃ変わるかもしれない世界は変わらないままだ。
だから俺は今日、この世界に不公平を生み出している運っていうのを殴りまくる!
「ニアース・レミ! お前は弱い! ここにいる人間にしては弱すぎる! だから出て行け!」
棍棒を振り続ける少年の腕はだんだんと速くなった。
先ほどまでは手加減をしていた少年だったが、今は感情に任せて振り続けるのみで、狙いがとても乱暴。
それでも自分に襲い来る棍棒を少女は回避するのに精一杯。
「なんなのよ!」
「俺はお前のように運でここにいる奴が許せねえ!」
「あんたは私の何を知ってるのよ!」
「──ニアース・サリバン! レミ・サリバン! そんでお前がエンダ・サリバン!両親の名前を俺に教えたことすら忘れたのかよっ!」
少女はナイフを構えたまま体が止まっていた。
目は前を向いていたが物を見ている目ではない。
彼女は遠い昔の記憶を見ていた。
そしてこの好機をドーサは見逃さない。
いや、少年は少女が自分の言葉で止まることを知っていた。
だからしっかりと構えて、棍棒をラケットのように横向きにスイングした。
少女の両手は棍棒に打たれ、握っていたナイフは勢いよく飛んでいった。
「ほら、弱い。お前のように弱い試験パス組は全員、外に行って鍛えられてこいよぉぉ!!」
両手を打たれて我に返った少女の前には、2つの棍棒を振り上げている少年がいた。
少女にはそれを迎え撃つ武器はない。
回避をしようにも足が震えて動かなかった。
ドーサは笑いながら棍棒を鞭のように振り下ろす。
腰を落としたニアースは、迫る棍棒を眺めていることしかできなかった。
棍棒が迫ってくる少女の視界。
そこへ突如、紅い髪が割り込んだ。
「なっ!」
振り下ろした棍棒は確かに物を捉えた。
しかし捉えたのは音もなくやってきた、少年の手のひら。
紅い髪の少年は少女の前に立ち、2つの棍棒を両手でそれぞれ握っている。
ドーサは目の前に現れた彼を死者を見るような目で見ていた。
少年はにこりと彼を見上げる。
「──僕も試験パス組なんですけど、弱いですかね?」
「……赤髪ヤロウ、名前は?」
「エイド・レリフです」
「お前が噂の2番目の生存者か。じゃあお前はザコ3人目だな!」
ジズクラス候補生試験:対ポルム組織ジズによる戦力確保手段の1つ。偵察クラスにより集められた地上の人間によって行われる。参加は自由だが例え試験に落ちても、偵察クラスの兵士として採用されることもあるので断る者はほとんどいない。参加するのに性別は問わないが主に10代の子供たちが多く参加している。




