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幻獣チルドレン  作者: 葵尉
最終章 世界の真実編
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最終話 幻獣チルドレン① 

最終話 幻獣チルドレン① 



 「パン・リニヌ」


 奴がそう唱えると空真っ赤になり強風が吹き始めた。


 幸いにもその大地ごとさらっていくような嵐はすぐに消え去った。


 けれどまだ砂が舞っているせいか、視界がさっきよりも暗くぼやけている。


 今の嵐はドドさんとステダリーを生贄に使って発動させたパンの能力か?


 嵐で僕らを倒そうとした?

 でもそれにしては手加減をしている。


 あいつが本気を出せばもっとスマートに消せるんじゃないか。

 

 「お前たち無事か!?」


 「はい! でもパンは!?」


 コペルトさんもみんなも無事だった。


 けどあいつが、パンがいない。


 「ナゼワレガ アンナオトコニ 


 ツキアッテイタカ 


 ソレハ 


 モクテキガ オナジダッタカラ 


 ダガ 

 

 アイツノヤリカタハ トオマワリスギタ


 セカイヲカエルナラ ニンゲンハ 


 アクマニ ナルベキダ


 ──そう、私のように」


 パンは白い翼を生やして空から僕らを見下ろしていた。


 コペルトさんはすぐに黒い翼を羽ばたかせ奴に迫った。


 「お前は今何をした!」


 「イッタダロウ セカイヲカエルト 


 ドウセカエルナラ 


 イチド 


 コワシタホウガ カンタンダ」


 「パン。もしかしてお前は本当に世界を壊しているのか?」


 「ノウリョクヲ ハツドウシタノヲ ミタダロウ」


 ハッキリとそう言った。

 その声と顔には容赦も慈悲もない。


 止めることの出来ない世界の崩壊という現実に魂が抜けそうだ。


 ──もう、終わりだ。

 あいつがさっき能力を使ったのは嵐を起こすためじゃなくて、世界を壊すためだったんだ。


 空は赤いままで地面がかすかに揺れ続けている。


 パンが世界を壊すというのは本当なんだろう。


 もう無駄なんだ。

 パンを倒しても世界は壊れていく。


 僕らは終わりだ。今までの全てが無駄になる。


 「ブラック。お前が壊して良いものは、俺の腕ぐらいにしておけよ」


 コペルトさん? なんで、なんでまだ戦うんだ?


 「お前たち援護しろ!」


 地上にいた僕らは顔を見合わせた。

 カインさんもニアースさんも顔に生気が無かった。


 きっと僕もこんな魂が抜けた顔をしているんだろう。


 「……戦うわよ。まだ、なんとかなるかもしれないじゃない」


 そんな顔のままだけど、僕らは3つの手を重ねた。

 

 手と手と手が重なった瞬間に熱を感じた。


 さっきまでの自分らが情けなく思えて、笑い飛ばしてやった。

 

 そうだよ。

 ステダリーを倒してポルムを消せたように、能力を発動したパンを倒せば! 


 世界が壊れるのを止められる──かもしれないじゃないか!


 それぞれのアースを手に持ち構え僕らの目はパンを包囲した。


 「サセマセン」


 コペルトさんと殴り合いをしているパンが、隙をついて地上に片手を向ける。


 すると、自らを閉じ込めるように丸い赤色の檻が空中に現れた。


 「まるで鳥籠ね。隙間はあるけどそこにもバリアが張ってあるわ」


 ニアースさんは銃で狙いながらそれを見ていた。


 僕に隙間のバリアは見えなかったが彼女は銃を降ろした。


 それはもう援護が出来ないということ。


 僕らが出来るのはコペルトさんが勝つように祈るだけ。

  

 「決闘。逃げ場のない戦いか。良いぜ、お前とはやりたかったよ」


 「セイゲンジカンハ ホシガホロブマデダ」


 「そんならお前を倒した後に、世界を直す時間がありそうだな!」


 コペルトさんは右腕を首の後ろに回して寝るような仕草をとった。


 僕はそれを特に気にせず眺めていた。が、次の瞬間。


 「黒き視線(メテオ)


 彼は首の後ろに回していた右腕を一瞬で突き出した。


 そこからは速すぎてよく分からないが多分、黒い羽が空間を埋める無数の矢になってパンに放たれた。


 パンはそれを両手と自身の白い翼を使って弾き返し続けている。


 それらを防ぎながらも徐々に後ろへと後退している。


 ただ、放たれ続ける黒い羽には数に限りがある。


 コペルトさんはどうするつもりだろう。こんな攻撃ではパンは倒せない。


 そう思いながら彼を見た時、その無数の黒い羽の中に隠れてパンの目の前に来ていた。パンの反応は完全に遅れた。


 コペルトさんは小さく飛ぶと、空中で回転して(かかと)でパンの顔を右から殴った。


 その時の爆発音はきっとパンの体が砕けた音だろう。


 と同時に、僕らが勝った瞬間──に、なるはずだった。


 パンはコペルトさんの回し蹴りに左腕で反応。


 奴の腕が勝手にパン自身を守った感じだった。


 だがその左腕は肘から先が無くなっていた。


 腕をも吹っ飛ばす黒鳥(ヒクイドリ)の蹴りが炸裂したのだ。

 

 これがもう1発でも当たれば……。


 「次は右腕で守るか?」


 コペルトさんはそのまま回し蹴りをパンの顔めがけて放った。


 だが今度のパンはちゃんと反応した。

 彼の黒い右足を片手でしっかりと受け止めている。


 「コノアシ ジャマデスネ」


 パンはコペルトさんの足首を手で握り始めた。


 彼はそれに対して何もしない。

 パンの手を払おうともしない。


 なんでだ。なんで何も反撃をしないんだ。

 

 「オワリデスネ イーサン・コペルト」


 そう思った。

 でも、コペルトさんは足首を持たれたまま自分の体を高速で回転させた。


 持たれている足を雑巾を絞るように自分から折った。


 「アースで死ね! パン!」


 持たれている足を今度はバネを縮めるようにして砕きパンに急接近。


 右手には光るナイフ。

 パンはそのナイフで額を貫かれた。


 しかしそれは奴にとっても攻撃のチャンス。

 

 山羊は伸びた口で黒鳥の胸を食いちぎる。


 けれどそれが奴の最後の抵抗。

 

 パンはコペルトさんのグチャグチャになった足を離した。

 

 パンは額から血を吹き出して地上に落下、しようとした。


 だが落ちる前にがむしゃらにコペルトさんの足にしがみついた。


 もう、羽ばたけない彼はパンと共に落ちていく。


 そんな彼の体によじ登りパンは馬乗りになった。


 勝利を確信したのだろう。奴はコペルトさんの瞳を凝視する。


 「……オシカッタナ キサマヲ イケニエニ ワレハヨミガエル」 


 「今だやれ! どうせ狙っているんだろ。ニアース(スナイパー)!」

 

 檻を保つ余裕がパンにはなかったのだろう。


 気がつけば2人を囲む鳥籠は消えていた。


 障害物のない射撃場で、ニアースさんが的を外す可能性は100%────ありえない。

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