53話 叶う夢①
53話 叶う夢①
「食べたからって力が手に入るなんて、そんなオカルトみたいなことをしても無駄よ! 適合者ではないのにその人のアースの能力が手に入るわけないわ!」
「適合するかどうかはあくまでも力の発動に関係する。しかし幻獣を体に宿すなら体に取り込めば良い。君たちだってアースを飲んだでしょう?現にパンも私のやろうとしていることは合っていると教えてくれました。でなければね、私はエイド・レリフを創ってもらわなかった」
「いま、なんていいました?」
「これまで生きてきて君は、過去の記憶を取り戻せましたか?」
やめてよ。僕を見て笑うな。
そんなことして何が面白いんだ。
せっかく記憶がないことを忘れていたのに。
せっかくこの世界の一員になれていたのに。
どうして今それを言うんだ!
「嘘だ! 嘘だ嘘だ嘘だ!」
「どうしたんだエイド落ち着けよ!」
触れないでカインさん。
僕はこの世界にいない人だったんだ。僕は本来、存在しない人なんだ。
「君をパンに創ってもらうのにどれだけの生贄を捧げたことか。いや~。あの時は用意するのが大変でしたよ」
「ボクはツクラレタ ボクはツクラレタ ボクはツクラレタ」
こわれる。こわれる。せかいがこわれる。
ぼくがこわれる。ぼくがきえる。
「ニアース! エイドがおかしい!」
「・・・エイド・レリフはあなたにデザインされた人間ってことですか?」
「正解!いつまで経っても現れないアースオブジズの適合者。いつ死ぬかも分からない私は彼を創造してもらったのです。賢いでしょう?」
「そうかしら?よくあることじゃない。そんなこと私の親だってやっていたわ」
「あっー! 君の両親は君を生きるライフル銃にしようと色々遺伝子を合わせたんでしょう?だからニアース・レミお前は──生まれつき目がよく見える」
僕の持っている記憶が全て崩れそうになった時、頬に温度を感じた。熱くはない。目が覚める温度。
見たくない現実を見てみるとニアースさんの顔があった。
今まで見たことないくらいの鋭い目で僕を刺している。
「ニアースさん」
「あんたが創られた人間だからって何? そんなことどうだって良いじゃないの!普段大人しいくせにたまに生意気。でもここぞって時に私よりも頼りになって、みんなを守る優しい人。あなたはそんなエイド・レリフでしょ!エイドがどんな人間だろうと今更何にも変わらないわ」
ぶたれると思った。
怒鳴られると思った。
けれど彼女は涙を流しながら僕の頭を撫でた。
「俺、正直何がどうなっているのか話についていけてないよ。バカだからな。でも俺はエイドと会えた時すっげー嬉しかったんだぜ! やっと班員に男が来たってな! だからお前が化け物だろうがなんだろうがどうでもいいぜ!エイドはエイドだよ」
そうか。創られた人間だからって何も考えることなんてなかったんだ。
この世界は良い世界とは言えない。
けれどそんな世界でも僕は暮らせて良かった。
この2人に出会えただけで十分価値があったんだ。
僕はエイド・レリフ。
マダー・ステダリーの作品ではない。僕は──僕だ。
「2人に言う別れの言葉はそれで良いんですか?私は早く手に入れたいんですよ君を。だって君は私に食べられるために生まれてきたんですから」
「僕は、あなたとパンに感謝している。僕を創ってくれてありがとうって。でも、僕の生き方まで勝手に創るな!」
「ならどうします? 私と戦いますか? 神にも等しい力を持つこの私と?」
マダー・ステダリーは一瞬で6本の槍を生み出して、それを空中に浮かせたまま僕らに向けた。
僕は刀を、ニアースさんは銃を、カインさんは盾を槍に向ける。
「脅しても無駄よ。こっちはニアース班フルメンバーなんだから!」
「私にだってパンがいますよ?」
「でもヤギ頭はコペルトを抑えているから動けない!」
パンは今もコペルトさんを見えない糸で縛っているように動きを止めている。
彼のことはもちろん助けたい。
でも「今がチャンスだ!」と、縛られている彼の目が言っている気がした。
「ああ、あれ?あれは話の邪魔になるからそうしているだけです。今すぐにパンが彼の首を折ることだって出来る」
両手で握っているツバキを落としそうになった。
この人なら本当にそうする。迷わずそうする。
それを知っている僕らは何にも縛られたわけでもないのに、一歩も動けなくなった。
「あなた達に出来ますか?何かを犠牲にして何かを──」
〝ズゴン〟
何の予兆もなしに近くにその轟音が落ちた。
直後、パンの黒い頭から赤い飛沫が上がり奴はその場に倒れた。
何が起きたのかさっぱり分からず呆然とその数秒を見ていた。
「・・・いつか手を噛まれるとは覚悟していましたが。本当に飼い犬に噛まれると悲しいものですね」
「やっとあんたを止められそうだよ。博士」
マダー・ステダリーの背後、瓦礫の陰に男が立っていた。
長髪の男は煙が出ているライフル銃を今も構えている。
「ドドさん!!」
そう呼びかけてもドドさんは僕らの方を見なかった。
僕らのことが見えないなんてことはない。声も聞こえるはず。
「ファイン・ドド。あなたほどの優秀な人間が軍をクビになった理由。今ハッキリと分かりましたよ」