52話 デザインされた命①
52話 デザインされた命①
────現代
ゲーツ・ローツ財団ギリシャ支部 ピタゴラス跡地
マダー・ステダリーの昔話を聞いていたエイド達。
彼らは用意されたご馳走に手をつけなかった。
「あなただったんですね。あなたがこの世界の元凶。ポルムを作ってドミーを生んで世界を滅茶苦茶にした!顔も見たくない、名前も呼びたくない最低な人間だ!」
この人の話をもう聞きたくなかった。
聞かなくても重要なことが分かった。
この人はやっぱり僕らの味方じゃない、敵なんだ。
「おや、もう昔話は良いんですか? 料理は残っていますよ?」
「食べなくても腹一杯だよ。あんたのそのクソみたいな考えで食欲も失せた。バカなことを言って笑って食う食堂の飯の方が、何億倍も美味い!」
「おかしいですね~。料理は創り慣れているんですが」
「マダー・ステダリーさん──いえ、世界の敵。あなたがここで私たちを待っていた理由をさっさと言ってください」
カインさんもニアースさんも武器を構えていた。
はっきりとした僕らの意思表示。
でも護衛役のパンは動けない。
奴はコペルトさん1人を抑えるのに必死。
だから僕らは3対1。
圧倒的に優位に立っているはずなのに僕は怖い。
相手にはどんなものを創る力がある。
僕らにだって幻獣の力がある。だけど怖い。
だってあの人、全然怯えていないんだ。
「今日。いよいよ私は永遠の命を手にして神になるのです」
「永遠の命!?」
この不利な状況の中でパンもマダー・ステダリーも冷静だったのはそのためか!
でもあの言い方だとまだそれを手に入れてはないんだよな。
そ、そもそも永遠の命なんてそんなもの。
「私はパンとの取引で寿命を失いました。あの時はそれでも構わないと思っていました。ですがやはり人間の欲望は尽きない!こんな力を手にしたなら、いつまでも生きて神になろうと思うのが自然ですよね~?」
「でもいくらあなたでも永遠の命を創り出すことは……」
「そう。出来ません。パンもその願いは叶えられないと言います。さてどうしましょう。考えますよね?考えました。3秒ほど」
「あるっていうのかよ! 永遠に生きられる方法が!」
「君たちの持っているそのアースには様々な幻獣が宿っています。それぞれの特徴は?」
アースが関係しているのか?2人もそう思ったんだろう。
言われた通りにニアースさんから自分の武器に埋め込まれた石を見ながら特徴を言い出した。
「私は液体を操れて、液体を発生させられて、感覚器が研ぎ澄まされる」
「俺は大地を操れる。力が湧いて岩だって片手で持てる。そんで、体が頑丈になる」
「僕は・・・」
僕のアースオブジズの特徴ってなんだ?
紅ノ心を見てみた。
赤い刀身には血の池に浮かぶように自分の顔が映る。
空を飛べること?
でもそれはコペルトさんも出来る。
炎を操ること?
確かにそうだけれど炎を操る幻獣は他にいるし、ジズだけの特徴ってなんだろう。
「エイド・レリフ。君が自分のアースオブジズ最大の特徴を知らないのは無理もありません。なので教えてあげましょう」
何を!?──と思った時。
胸の辺りに生まれて初めての感覚を感じた。
体の中に外から何かを押し込まれた違和感。
そして息を吸えなくなって地上にいるのに溺れそうになる。
「っぁ、え、ど、どう、して・・・」
違和感を感じる胸には金属製の棒が刺さっていた。
背中側がすうすうする。
手を回してゾッとした。か、貫通してる。
正面のマダー・ステダリーを見ると彼の周りには槍が数本出現していた。
それは僕の胸を刺す槍と同じもの。
奴はそれを浮かべて操っていた。
「エイド!!」
ニアースさん。カインさん。2人がもやもやして煙のように揺れる。
「まあ皆さん落ち着いて。彼は死んでいません」
意識が消える。ああ、僕は死ぬのか。
死ぬってこんな一瞬なんだ。もっと苦しいのかと・・・
「嘘でしょ、何よこれ!」
ニアースさんが僕から離れてそう言ったのが聞こえた。
聞こえた? 意識が戻っていく? 景色がはっきりと──
──僕の体は燃えていた。
胸を貫通しているはずの槍が消えて、傷口はなかったものになっていた。
「エイド・レリフ。君のアースオブジズ最大の特徴は」
なるほど。
教えるって、そういう意味か。
「完全なる不死ですよ」