不死の炎③
不死の炎③
────草原 第2地点
三幻鳥クラスが全力で戦った第1地点はまだ砂煙が舞っていた。
そこから少しジズの方へ下がった第2地点には神獣クラスという部隊が居た。
先ほどの戦闘を生き残った2体のニューポルムたちは今度はそこへ姿を現した。
「どうやらあれが噂のニューポルムのようですね。二足で歩き、物を掴む触手のような腕もある。顔の特徴も私たちとそう変わらない」
使い古した服を着ている群衆の中に1人、雪のように白い生地のコートを着た髭を生やした男が立っていた。
その男の隣にはいつも暗闇に溶け込んでいる黒装束の者もいる。
こうしてみると裕福な2人と奴隷の群衆である。
「やはり前線のあの3人は負けてしまったのですね」
望遠鏡を下ろしたマダー・ステダリーは当たり前のようにそう言っていた。
声には感情がどこにも出ていなかった。
気持ちを隠していたわけではない。
そもそも彼には感情が存在していなかった。
「良いですか神獣クラスの皆さん。三幻鳥クラスは負けました。ジズの砦は君たちです。さあ、お願いしますよ」
少なくとも300人はいるだろうか。
その群衆の後ろにいる男は、サーカスが始まる前の動物に言うようにお願いした。
もし相手が調教された動物なら何か了解の合図をするのだろう。
だがここにいる薄汚れた者たちは違った。
同じような果物ナイフを両手で握り、それを十字架のように胸の前で握って持っていた。
祈っていたのだろうか?
祈るなら何の神だろう。
そもそもなぜ祈ったのだろう。
死なないため?
けれどもしそうなら彼らは自分たちの方から、その祈った神を裏切ることになる。
「アースオブ──」
数百人の男女たちの声が一つの言葉を叫ぶ。
泣きながら、笑いながら、自信に満ちながらと、実に様々な声。
しかしそれらは最後の最後で後悔を感じ、1つの全く同じ声になる。
「命を使うモノ!」
集団は一斉に心臓にその果物ナイフを刺した。
ほとんどがそうしたがある者は自分の頭、またある者は腹を切っていた。
この異常な光景を見て分かることは1つ──死のうとしていること。
地獄絵図と言える目の前の惨状を絶景としてステダリーは見ていた。
「幻獣の力に適合出来る出来ないの話はあくまで発動時に捧げる生贄が、少ないか多いかの話。つまりどんな人間でもアースを発動することは可能。そう、命を捧げれば誰だって発動できる。例え穀潰しでしかない皆さんでもね!」
次々に自分の目の前の人間が自殺をして倒れていくこの様を、男は無言の黒装束と並んで見てどう感じていたのだろう。
倒れた死体はその場で発火し火の玉へと姿を変える。
まるで肉体から抜けた魂。
今すぐにでも消えそうなその火の玉は、まだ歩いているニューポルムへ向かって飛んで行く。
それは火の弾丸。火の矢。火の槍。
もう何でも良い。
とにかく真っ直ぐに標的へ飛んで行った。
ただの道具に過ぎないそれら。
当たり前だがその火の玉に人としての意識など無い。
問題なのは雨のように隙間なく飛んで行ったはずの火の玉が1発も目標に命中しないことである。
だが火の玉は外れても外れても落ちた地面で再び発火し、目標へと突っ込んでいく。
次から次へと武器と化した命が突っ込んでいく。
しかしやはり一度も当たらない。
四方八方から迫る火の玉はニューポルムからしてみれば小バエのような物なのかもしれない。
彼らはそれを脅威と思っていない。
そう、火の玉は外れていなかったのだ。当たっていた。
ニューポルムはそれを当たっては振り払い、当たっては振り払うを繰り返して歩いていた。
もしくは当たっても火傷をするくらいなので放っていた。
この光景を見て感じること、それは「圧倒的な性能の差」これに尽きる。
「ん~。やはりあの程度の命ではあんな物ですね。ジズへ戻りましょうブラック」
その光景を見て髭をいじりながらステダリーが言ったのがこれである。
黒装束の者はステダリーを自分の黒い布で被せると口元部分を動かした。
すると2人は急にその場から消えてしまった。
2人がいた場所の砂すら舞っていない。音もなく消えた。
彼らのすぐ近くで身を低くしていたエイドはこの瞬間移動は見ていなかった。
そんなものはどうでも良いのだ。
彼は、未だに発火しては飛んでいく火の玉を見ていた。
いや、今ちょうど耐えられずに見るのをやめたところだろうか。
彼は生まれたばかりの草食動物のように足を震わせて、腕を自分の体を支えるために使っていた。
(・・・・・・なんだこれ。
なんだよこれ。何なんだよこれは。
全部無駄じゃないか。
あの火の玉になった人はどうなるんだ。
もう人間じゃないじゃないのか。
もしかしてあのまま消えていくのか?
だったらあの人たちは何のために自分の命を捧げたんだ。
シンジュウクラスってなんなんだよ!
強いんじゃなかったの?
それともあの化け物が強すぎるの?
もうこの際そんなのどうでも良いよ!
こんな馬鹿げた戦いは僕が終わらせてや──)
「エイド」
(刀を抜こうとした僕の肩を背後から手が押さえつけた。
瞬間背中を恐怖が走った。
けれどその声を僕は知っているし、何度か今と同じように聞いたことがある。だから安心して振り返った)
「ドドさん。どうしてここに?」
ポイニクス──人々の欲望を叶える代わりに命を奪い取る悪魔の鳥。 幾つもの命を集めたポイニクスは、死んでも死んでもそれを使って蘇る。命のストックが無くなった時、その不死鳥は完全に死ぬだろう。