始まる終わり④ 最後の日
始まる終わり④ 最後の日
────カインとエイドの部屋
「あんた達ちゃんと布陣を見ておきなさいよ」
「別にいつも通りお前と一緒にいればいいんじゃねえの?」
「違うわよ。今回は班ごとじゃなくて役割ごとに分かれてる」
そう言われてニアースさんが机の上に広げた布陣を見ると確かにそうだった。
三幻鳥クラスが最前線でその後ろの第2地点にシンジュウクラス。その後方の第3地点は偵察クラス。
そこまではクラスごとなんだけど最後尾、洞窟前の第4地点の表記は〝剣士〟だった。
「剣士って、僕のことでしょうか」
「エイドやカインのように、接近戦が得意な武器を持ったジズクラスの人間が剣士よ」
「じゃあその隣の銃士ってのはお前みたいな奴らのことか」
「それと、偵察クラスの一部も銃士に含まれているんじゃないかしら。ちなみに私は偵察クラスの第3地点のとこだから、あんた達とは別のところね」
「もしかして~。ニアース寂しいのか」
「そうね。寂しいわ」
ニアースさんは僕たちのことを見てにこやかにしていた。
でもこちらを小馬鹿にするような感じではない。優しい笑顔。
その素直な反応に「えっ」と、思わず声が出そうになった。
演技とは思えない彼女の下向きの声。ニアースさんは本当に寂しいんだ。
「だ、大丈夫ですよニアースさん。どうせこの時だけですから終わったら──」
「馬鹿ね。冗談よ」
「えっ」
声に出した僕はさっき真剣に心配したことを残念に思った。でもそう思ったのは一瞬。
やっぱりニアースさんは寂しいんだと分かった。
じゃなきゃもっと笑って、いつもみたいに強い口調で「冗談よ!」って言っているはずだから。
「カイン。エイド。私からの命令よ」
立ち上がった彼女は僕らに真剣な口調で言葉を落とした。
それは今まで聞いてきた「命令よ」と近いけど別物だった。
命令を出しているその時点で何かを諦めているようなそんな感じもした。
「例えジズが負けても──ニアース班は全員生きて残ること」
殺意がこもっているかのように冷たく鋭い目で押さえつけられた僕とカインさんは息を飲んだ。
「それが私からの命令。それじゃあ、また──」
「その命令さ。もちろんお前も守るんだろうな?」
立ち上がったカインさんは去ろうとしたその背中を握っていた。彼女はそのまま数秒黙った。
ニアースさんは最後に僕らの方を向いた。いつも通りの声と笑顔で。
「当ったり前でしょ?じゃ、おやすみ」
彼女が部屋から出て行った後僕らは布団に入った。
いつもは特に何も話さないまま寝るけれど今日はそう出来なかった。
今日が終わって明日が来ることを実感すると急に不安になった。
「〝ジズが負けても〟って、ニアースさんはジズが負けると思っているんですかね」
「あいつさ~。目が良いからもしかしたら未来まで見えてたりしてな」
「アースってそんなことも出来るんですか!?」
「いやいや、冗談に決まってんだろ」
何だ冗談か。
もしかしたら出来るのかと思ったけれど、未来を見るなんていくらアースでも出来ないよな。
「ジズは負けねえよ」
「で、ですよね。三幻鳥クラスだけで十分で、僕たちはやることなく終わりそうです」
「・・・がんばろうな」
「はい!」
カインさんも不安だったのが声から分かった。
強がって震える声は勝ちを確信している人が出す声じゃないから。
僕らはお互いの不安をそうやって慰め合っていた。
普通に怖いよ。
だってあんな数のドミーが来るんだぞ。
きっとその中にはあの人型だっているはずだ。
あいつ1体にでさえ僕らは勝てない。きっとまた多くの人が──
「エイド。もしジズが負けても、ニアースだけは守ろうぜ」
カインさんの声は虚勢を張って言ったものではないことは声で分かった。
ぶれることのない芯の通った声。
怖がっている僕のことを察したのか手を握ってくれていた。
不思議なことに震えが止まった。怖さが消えた。戦う勇気が出た。
「もちろんですよ」
明日、2回目の大きな戦いが始まる。