始まる終わり②
始まる終わり②
────5日後
対ポルム組織ジズ カインとエイドの部屋
「エイドは!?」
少女は走ってきたのだろうか。
ぶつかるように部屋のドアを開けると乱れたままの呼吸で喋った。
「今日もどっか行った」
部屋にいたカインにそう言われるりも早く少女は下を向いていた。
落胆していたのかもしれない、呼吸を整えていたのかもしれない。
「……らしくない部屋ね。男2人のくせに綺麗すぎ」
部屋に入った少女は周りを見渡した。
確かに男2人の部屋にしては綺麗なのかもしれない。
あるのはたたまれた布団くらいである。
「……ピキがいたからな」
カインはその部屋を広く感じていた。
それは少女がいる今でも同じだった。
「何か俺たちで出来ないのかな。エイドのために」
「私はあの時何も出来なかった。口だけが達者なのに、何も言ってやることも出来なかった」
「俺ら子供なんだからあの場じゃなんも言えないだろ。つーかお前よく毎日来るよな。そんなにエイドのこと──」
「わっ! 私はただ、班長として班員を心配して──」
座っていた少女は立ち上がって少年の顔を叩こうとした。
だが、あまりにも無抵抗な少年を見て手が下がる。
「あいつさ~。心配されるのとか嫌がるから、お前はいつも通りのお前でいろよ」
「じゃあさ、訓練」
「訓練?」
「私の訓練に付き合えって言ってんのよバカ!」
少女は座っているカインの腕を引っ張り上げた。
そのまま腕を引きながら部屋を出る。
「お、おう。でも俺とお前じゃメニューが違くね?」
「良いから来なさいよ!」
────対ポルム組織ジズ ヘパスト・レンの部屋
「お前毎日こんなとこにいて楽しいかよ」
「はい。ここは誰もこなくて静かですから」
エイドが手にしているコップの中身は減っていなかった。
目にゴーグルをしたレンは既に中身を飲み終わりコップを置いている。
彼は部屋の中央にあるモニターを覗いていた。
「それは嫌味か?お前も言うようになったなエイド」
男は彼の名を言った瞬間、思い出したように立ち上がると壁に掛けてあった刀を持ってきた。
「ほれ、お前さんの紅ノ心だ。綺麗になったぞ」
「ありがとうございます」
少年はコップを椅子の下に置くとそれを片手で受け取った。
受け取るとすぐに膝の上に置いて再びコップを持った。ようやくそれに口をつける。
「訓練にはいかねえのか?」
「最近は刀を抜きたくない気分なんです」
「そうか」
男は深く触れず少年の声を聞き流した。
少年の言葉は相談を含む例えだった。
しかし無視されてしまったので彼は直接言う。
「僕、何を斬れば良いのか分からないです」
「ん?」
「ドミーだけを斬ろうと思っていたのに、そうでない物も沢山斬りました」
モニターを見つめていたレンは一旦それをやめた。
ゴーグルをとると部屋の隅に行き芳ばしい香りのする茶色い液体を、空っぽのコップに入れながら声をかけた。
「ドミーは斬っても良いものなのか?」
「だって人を殺すから」
「それだったらドミー以外にも斬らなきゃいけないものが、沢山あると俺は思うぜ」
「は、はぁ・・・」
「斬って正解のものなんて多分ないんじゃねえのかな~」
「すいません。よく分かりません」
「おう、若いうちは考えるな。動け。ほれ、お前さんの仲間が来たぞ」
「ええっ?」
灰色の扉が開くと同時に少年と少女の声が部屋に響いた。
「こんなとこにいたのねエイド!」
「ニアースさん。カインさん」
「訓練に行くぞ!」
カインは座っていたエイドを自分がニアースにされたように立たせた。
けれどエイドはすぐに、彼らから目線を逸らした。
「……で、でも僕は今は」
「行くんだエイド。今はな、考えず動け」
エイドは渋々でも乗り気でもどちらでもなかった。
だが、レンに一礼をしてから部屋を出て行った。
1人になったレンは部屋に残った少年の忘れ物を拾い上げた。
「刀は持って行かなかったか。まあ良い。他の2人もアースは持っていなかったからな」
エイドが中身を残したままのコップを手に取ったレンは、モニターを眺めていた。
幾つにも分けられたモニター内の映像。
その隅には少年と少女に挟まれて自分で歩く赤髪の少年が映っていた。
────対ポルム組織ジズ 玄関 ホールL
「訓練室はあっちじゃ」
エイドは立ち止まって2人の進行方向とは逆の方を指差した。
だがカインがエイドの手をとって引っ張る。
「今日は外だよ」
「でも外は」
「洞窟の近くなら平気よ」
ニアースはなおも立ち止まろうとするエイドの背中を押した。
「そ、外で何するんですか?」
「遊ぶんだよ!」
「遊ぶって、どうやって」
「鬼のニアースから逃げる遊びだよ」
「そうそう。捕まったら覚えておきなさい?特にカインは」
(──懐かしいな。
ニアースさんを馬鹿にする言葉と本音ではないカインさんの声。
それに対して本当に怒っている彼女の声。
久しぶりに聞いたいつも通りの会話だ。
僕はいつまでピキのことを考えていたんだろう。
もう十分休んだから僕も2人のように歩かないと、前に進まないとダメじゃないか)
「ニアースさん!」
エイドは彼女の注意を引くと突然前へ駆け出して2人から距離をとった。
「鬼の役。似合っていますよ!」
それが「鬼から逃げる遊び」のスタートの合図になったのは言うまでもない。