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幻獣チルドレン  作者: 葵尉
第3章 楽園の終わり編
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ニューポルム②

ニューポルム②



  ────旧市街地

 


 「本当に大きな建物ばかり。さっきまでの草原が嘘みたいです」


 外に出て初めて草原以外を見た気がする。


 村とは違う大きな建物がいっぱい。

 地面はゴツゴツして砂がない。建物も多くて窮屈な感じ。


 あんなに高い建物を作って、ここを作った人たちは空にでも行きたかったのかな~。


 「ニアースはシマウマのドミーがここにいるのを本当に見たんだよな?」


 「見たわよ」


 少女があまりにも威圧的にカインを睨んだのでウインはカインを助けた。


 「ま、まあまあ。ドミーとかくれんぼをしてるみたいで面白いじゃん?」


 彼のそのなんとなくの一言がバモンの脳裏にある事を浮かばせた。


 先頭を行く彼は瞬時に後ろを振り返って全員に命令した。


 「アースを発動しろ!」


 バモンは1人だけ汗をかき始めていた。


 だが全員の顔は命令に対して「なぜ?」と言っている。


 焦る彼以外の者たちはある事に気がついていなかったのだ。


 「どこにも敵はいませんよ?」


 「俺たちはハメられたんだ! これは罠だ! 誘い込まれたんだ!」


 バモンは周りの建物を見ながら全方位を警戒していた。


 「いやいやバモン! どうしたんだって!」


 ウインは彼が狂ったのだと思い、落ち着かせようとした。


 その時、周りを見ていたエイドとニアースの2人の目には動く物体が飛び込んできた。


 「伏せて!」


 バモンたちはすぐにしゃがんだ。

 直後彼らの頭上を2発の銃弾と刀を構えた少年が通り過ぎた。


 銃弾と刀の上をさらに飛び越えて、ある生き物たちが彼らを取り囲んだ。


 それらは全て同じ生き物。だが紫色の斑点模様の形だけがそれぞれ少し異なる。


 (気がついたらライオンのドミーの白い目が、全方向から向けられていた。


 もうダメだと思った。

 だっていつも3人で1体を倒している相手が5体もいるんだ。勝てるわけが──)


 「各自! アースを発動しろ!」


 そうだった。

 今の僕たちはいつもの3人じゃない!


 バモン教官とウインさんがいるじゃないか!


 「アースオブ──」


 それぞれがそれぞれの武器で手の平を傷つけた。


 この場所は氷、風、岩、炎、水など様々な物体が出現した。


 当然それらには近づくことはもちろん、手を出すことは出来ない。


 しかし取り囲んでいた獣たちに、手を出すつもりはなかったのかもしれない。


 「あれ?」


 「またいなくなった!?」


 「建物に隠れてんのか?気持ち悪いな」


 アースを発動しそれぞれが幻獣の姿を身につけた後、周りには何もいなかった。


 「とりあえずこの市街地から出るぞ! 周りが見える草原に──」


 バモンの頭上に何かが降ってきた。

 落石、建物の落下、隕石、どれかも分からない衝撃音と煙がバモンがいた場所から発生する。


 その落下速度ゆえに何かが落ちてくるまでは誰も気がつけなかった。


 (バモンさんの声が爆発音で聞こえなくった瞬間。僕らは灰色の煙に包まれた)


 「翠鳥の声(ケツアルウインド)!」


 誰も見えなかったけど、すぐにウインさんの声が風と共に聞こえて来た。


 風で煙は消え、僕らはお互いを顔で確認しあった。


 でもバモンさんはそこにはいない。


 バモンさんは、バモンさんは……落下してきた建物の残骸の下にいた。


 「バモンさん!?」


 バモンさんを潰す瓦礫の上には、全く違う何かが立っていた。


 僕が見てきたあらゆる物の中で一番美しいと感じる物。


 2本の足で立っていて、体は水のように透き通ってゼリーのように潤っている。


 頭からは数本の透明なパイプが生えていて、風になびかれ髪の毛のように揺れている。


 背中しか見えていないけど思った。

 「なんて美しい人なんだ」って。


 ──人? 人じゃない! 

 これは人じゃない! これが──ヒトガタ!?


 「逃げるぞニアース班。この透明生物こそ、俺たちがあの時見た人型の生物だ!」


 「でもバモンさんが!」


 「平気だよバモンは」


 ウインさんはなぜか歯を見せてそう言った。


 今一番バモンさんを助けたいはずのウインさんが笑っていた。


 「バモンに勝てるやつなんていないからな!」

 

 この時ウインさんが立てている親指を見て、僕はそれが本当なんだと理解した。


 で、でも! バモンさんは本当に平気なのかな?


 「人型の生物、お前が俺を狙ってくれて良かった」


 バモンは瓦礫を押しのけてそこから出ると血を吐き捨てた。


 男の足下には彼を包んでいたエトピリカのオレンジ色の羽が抜け落ちていた。


 とても「狙ってくれて良かった」と言える者の様子には見えない。


 「氷鳥(ひょうちょう)視線(まなざし)!」


 バモンは胸の前で手を組んだ。

 その姿勢のまま両目で視線の先にいる人型の生物を睨む。


 するとその生物の足下から煙のように冷気が放出される。


 そのまま対象を足元から凍らせ始めた。


 「これであの人型は凍り付け。見つめた物を凍らせるとか、反則だよな」


 反則というより恐ろしい。

 これがバモンさんのアースオブエトピリカの能力。


 でも僕はウインさんのようにまだ余裕を持って見ていられない。


 だってあの綺麗な生物がどんな(表情)をしているか、見ていないから。


 ひょっとしたらウインさんのように、余裕の笑みを浮かべているかもしれない。

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