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幻獣チルドレン  作者: 葵尉
第3章 楽園の終わり編
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ニューポルム③

ニューポルム③



  ────旧市街地


 

 「ウイン! 全員を連れて逃げろ!」


 凍っていく生き物を睨みながらバモンはそう怒鳴った。


 ウインはそれに返事をしない。

 男が怒鳴ったことと彼が返事をしなかった理由はおそらく同じ。


 両者ともこの凍っていく生き物の(ひょうじょう)を見たのだ。


 「こいつ……笑ってる?」


 その美しいと思っていた生き物は僕らの方を振り返った。


 首を絞るように曲げて、こちらを見てきた。


 そいつの顔は面白いものを見て笑うように、にこやか。


 目、鼻、耳、口のような物は全て僕たちと何も変わらない。


 何なんだこいつ。気持ち悪い。

 自分が氷漬けにされているのになんで笑っているんだ!


 「今のうちに奴を倒すぞ!」


 「逃げるんだ!」


 ウインさんとバモンさんの2人の命令。


 どちらに従えば良いのか分からない。そう迷った時。


 「バキンッ」と氷が折れる音がした。

 

 さっきまで動けなかったはずのあいつが、僕の目の前にいた。


 「エイド!」


 少年に迫ったのは透明性の拳。

 彼は刀を自分の頭の前にとっさに構えた。


 相手がどこを狙っているのかは知らない。

 だが、まず狙われる可能性が高いのは(ここ)だろうと予想した。

 

 エイドの予想通り刀身をその拳が殴りかかった。


 だがその拳の主は殴りかかった時にエイドの足元に倒れた。


 正確には転んだと言うべきだろうか。

 この生物、殴る拳はあったのだがその体を支える足が、踏ん張るための足が、無くなったことを忘れていた。


 ついさきほど氷ごと自分で折った足のことを忘れていたのだ。


 「私たちで今のうちに逃げましょう!」


 「でもバモンが!」


 バモンは肩を押さえて少年たちの方へゆっくりと向かっていた。


 彼を迎えにウインが走り出した時、周辺の建物からライオンが5頭現れてバモンを包囲する。


 「……なるほどな。そういうことか」


 この時バモンは敵の狙いを知った。

 同時にこれまでのドミーの行動が不自然だったことも理解した。


 (あの人型の生物は以前、俺が凍らせた奴と同じだ。


 その時に奴は俺と相性が悪いと学習した。

 

 だから今日は不意をつき、俺に瓦礫を落として始末しようとした。


 だが奴の()()()()()は俺じゃなかったんだ。


 本当の狙いから俺を除外するために俺を殺そうとした。


 さらにはこの獅子(ドミー)を操って俺の行動を封じるつもり。つまり本当の狙いは・・・)


 「ニアース・レミ! 早くジズに戻れ!」


 「何言ってんだバモン!今たすけ──」

 

 ウインの目の前に透明の生物が立つ。

 その生物、失った足を再生していた。


 殴りかかるのかと思えば、手を槍のように鋭く変形させてウインの顔を突いた。


 翠色の羽が数枚舞ったが青年はそれを首だけで避けて両手から風を噴射した。


 「翠鳥の声(ケツアルウインド)!」


 それは手の平を包む小さな竜巻。

 ウインの手は風の槍を装着した。

 

 「槍には槍」でとやり返そうとした思いは彼には無い。


 偶然にもその竜巻は槍のようになり、目の前の敵の腹を突き刺した。


 人型の生物は飛ばされまいと、生えたての足で踏ん張る。


 なおも腹は竜巻で削られ続けている。

 ところがこの生物、血も何も流していない。


 その弾力性のある肉体は竜巻の勢いを徐々に殺していた。


 竜巻が弱まったところでウインは人型から距離をとった。


 「ウインさん! やっぱり一旦退却しましょう!」


 ニアースの声は彼の耳には届いていなかった。


 届いていてもそれを受け取るつもりはないのだろう。


 少女も自分の提案が彼の耳に届く状況でないのは分かっていた。


 「エイド、カイン。20秒作れる?」


 「おいニアース。なんだその弱気な言い方は」


 「そうですよ。いつも通りに〝1分くらい作りなさい〟って言ってくださいよ」


 「じゃあ、任せたわよ!」


 少女も少年たちもお互いを信頼する笑みを顔に出した。


 「岩の果実(ロック)!」


 「おい何をするカイン!」


 少年がウインの足元で手を着くとその場の大地を盛り上げてウインとニアースを飲み込んだ。それは守りのための技。けれど今回は完全な個室の空間を作るためだった。


 「ちょっとの間、俺たちの班長と話をしててください!」


 「お前たち2人で敵うわけないぞ! おい!」


 盛り上がった大地が1つのアモーンド型の岩になる直前まで、ウインは怒鳴り続けていた。


 しかし怒号ごとすぐに岩の中に閉じ込められる。


 「さて、やるかエイド」


 「はい」


 少年たちの前には無傷の敵が待っていた。


 その生物たちに(エイド)(カイン)が突っ込む。


 彼らには最初から勝算などない。

 別に勝たなくても良い。死ななければ負けても良い。


 ただ、数十秒、出来れば1分。

 時間さえ稼げればそれで勝ちなのだ。


 重要なのは少年たちではなく少女の交渉手腕である。

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