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幻獣チルドレン  作者: 葵尉
第3章 楽園の終わり編
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35話 出会いの命① 

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35話 出会いの命① 



 ────ライコスとの戦いからから2ヵ月後



 何人もの人が命を失ったあの戦いをみんなが忘れて「いつも通りの日」というのが帰ってきつつある。


 ドドさん以外の全員が戦死した偵察クラスは「アステゴイ」と呼ばれる外で暮らす人々や、ジズの中にある「生活区」の人々に入隊を呼びかけた。


 ようやくクラスの人数だけは元に戻りつつあるという。


 ……まるで悲しい気持ちが初めから無かったかのように消えて、今生きている毎日は平和な日々のように感じる。

 

 けれど、世界はやはり何も良くなっていない。


 僕らは忘れかけていた。

 人類の本当の敵はポルムとドミーであり、そいつらから地上(世界)を取り戻さなければこの生活はいつまでも変わらないということを。



 ────ジズ領土外の草原



 まず草原に響いたのは岩の鱗に覆われた少年の「岩の加護(ロック)!」の一声。


 今日も青い空からの光に当てられている大地が岩の壁となって盛り上がる。


 その壁に頭から突進してしまったのは紫色の斑点模様のある獅子(ライオン)


 百獣の王の象徴の(たてがみ)はその象徴としての役目を果たすことができぬほどにボロボロ。


 そんな獣の尾に少女が両手を向けていた。


 狙いを定めるように固定した少女の小さな手の平は一声で水の柱を噴射する。


 「龍の手(リヴァイレンジ)!」


 噴射した時の水しぶきが少女を覆う鱗の青をより青くし、彼女の凜とした横顔をさらに締める。


 しかし彼女の放った水のロケットは岩の壁にぶつかり獣には当たらなかった。


 獣は宙返りをしてその水を避けたのだ。


 ニアースからすれば狙い通りではなかったはず。


 だがそれでも彼女の横顔は変わらない。


 「エイド!」


 カインは空に向かって叫んだ。

 しかしそうやって上を見ているカインは隙だらけ。


 もちろんそれをかつての獅子(ハンター)は見逃さない。


 獅子は岩の壁の裏に横から回り込み、そこにいたカインの姿を視界に捉える。


 なのにその少年(標的)は武器を構えずにまだ空を見ていた。


 「ジズ。僕とツバキに炎を」


 空中で刀を構える紅い髪の少年は炎に包まれた。


 この時すでに、自分自身が標的になっていることを地上の獅子は知らない。


 獅子に迫る炎の刀と紅い翼。

 それを見ていたのはカインとニアースの2人だけ。


 獣がエイドのことを知ったのは、その背中に刀が刺し込んで炎の熱を感じてからであった。

 

 地に降りた少年は刀を抜き、両手で持ち手を握りなおす。


 まだ動けた獣は振り返ろうとしたがその目に映ったのは地面。


 その首が後ろを向くことはもう二度とない。


 首が落ちた獅子の体はその場にぽてんと横たわった。


 (僕たちジズクラスは偵察クラスに代わり、警戒任務や進軍任務に当たっている。


 今日で警戒任務も30回を超えた。

 さすがにもう首を斬ることに慣れた。


 それでもいざ斬ったものを見てみると何かを感じる。


 でもこれはみんなのため。

 今も苦しい生活をしている人を助けることに繋がる。


 そうやって自分に言い聞かせないと僕は(ツバキ)を握れなくなってしまいそうだ……うん、やっぱりまだ慣れていないや)


 「今日も完璧だったな」


 「そうね。獅子(このタイプ)のドミーならもう私たちの敵じゃないわ」


 そう言いながらニアースは手にしているハンドガンで地に転がっている獅子の頭に3回発砲した。


 その光景を見たくないからか、それとも周りを警戒しようとしたのかエイドは草原を見渡した。


 すると偶然にもエイドは2人が目にしていない物を捉えた。


 「ニアースさんあそこ! 何か動きました」

 

 「何か?」と不思議がるカインさんの反応は僕にも理解できる。


 この地上で自分たち以外に何かがいるとしたらそれは、ポルムかドミーの二択だからだ。


 でも僕が見たのはそれじゃない。

 もしそうだったらすぐに2人に言う。


 「エイドが見た何かって言うのはあの岩の後ろよね」


 少女は銃を持ったまま、数メートル先の岩を指す。


 「ニアースは見ていなかったのに何で分かるんだよ」


 「いつまでたってもあんたはほんとダメね~。この草原で何かが隠れられるようなところは、あれくらいしかないでしょ?」


 「あ~。てことはその何かっていうのは、あの岩よりも小さいってことだなエイド!」


 「多分そうです。でも動きが早くてよく見て──」


 「何でもいいわよ。2人で早く見に行ってきなさい」

 

 カインさんを先頭にしてその岩に近づいた。


 「なぁエイド。何でそんなにこわが──」


 「怖がってませんよ! もしもの時のために刀を構えてるだけです!」


 「い、一応聞くけどさ。ポルムとかドミーじゃないんだよな?」


 「はい。大丈夫だと思います」


 とは言ったけれどそれは「多分」。

 でもカインさんも僕の「大丈夫」が「多分」なのは分かってくれていると思う。


 真剣な話、もしもドミーやポルムだったら襲いかかってくると思うんだ。


 だから僕はこの岩の後ろにいる「何か」が「安全な何か」だと思ってる。


 「エイド、俺が合図をしたら──」


 「あんた達ささっと見なさいよ!!」


 「了解です!」


 僕らがニアースさんの命令(怒鳴り声)に体で反応した時、岩の後ろからそれが足元に現れた。


 それは小さくて柔らかそうな毛が生えた耳の長い生き物。初めて見たその生き物それは──


 「ウサギだー!」


 「うさぎ?」


 「ウサギだよ! 本物だぞこれ。ぬいぐるみじゃない!」

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