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幻獣チルドレン  作者: 葵尉
第2章 VSライコス編
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番外編 僕の幸せな〇〇①

番外編 僕の幸せな〇〇①


 

 ライコス掃討作戦より約1年前───ジズ領土内 村C



 家だったであろう石の壁にもたれながら歩いている1人の青年がいた。


 赤い髪の青年は左肩を右手で抑えている。


 (片腕が無くなるとこんなにもバランス感覚がおかしくなるんだな。


 ブラックめ。いつかあの腐った組織ごと切り刻んでやる。


 俺は絶対に復讐する。

 そのためにまずは寝る場所と食物をって、なんだこの村は静かだな。誰もいねえのか?)


 「おい! 誰かいねえのかよ!」


 青年の声に反応したのは風の音だけ。

 彼はとりあえず近くにあった廃墟の中に入った。


 (ここは村Cだろ? ジズで把握している村なら安全かと思ったけど誰も見当たら──)


 屋根も壁も穴だらけの建物の中で彼がまず目にしたのは、床にうつ伏せで倒れているやせ細った子ども。


 金髪の頭に、陽の光を知らないような白い肌はとても綺麗であるが、ぱっと見では死んでいる。


 死んでいなくても今日死ぬだろう。

 そんな子どもに彼は話しかけた。


 「おい何があった! 生きてるか! おい!」


 彼は子どもを抱き抱えて揺らした。

 脳みそが混ざるほど激しく子どもを揺らした。


 それでも子供は返事をしなかった。

 けれど青年はまだその子を離さない。


 (俺に何ができる?

 この子はまだ10才にもなっていなさそうな子供。


 そんな子供を助けたところでどうする?  いや、助かるのか? 


 でも、このまま放っておくことはできねえだろ! 何なんだよ! 


 何でこんなもん見つけちまったんだよめんどくせえな! 


 俺に助けろって言ってるんだろ神はよ!)


 「頼むから何か言ってくれよ! 水か? 食べ物か? 何を使えばお前を助けられる? なあ!」


 (だめだ。この子はもう死んで──)

   

 諦めて子供を下ろした時、青年は自分の胸ポケットに入れている物を思い出し取り出した。


 「この(アース)ならできるか?」


 (このアースに使い道は特にない。

 ただあいつから何かを奪いたくて奪っただけだ。

 

 これは確かアースオブライコス。無属性の狼男。


 能力がない代わりに得られる力は絶大。


 もしかしてこのアースならこの子供を助けられるんじゃないか?


 でもそれにはこれをこの子に適合させないといけない。だがこの子にそんな時間はない。


 ……このまま無理やり飲ませるか!? 

 でもそれしか出来ないだろ!)


 青年は「今助けるからな」と言って透明な木の種のような石を子供の口に入れ、指で喉の奥の方へと突っ込んだ。


 そして持っていた短剣で子供の心臓を刺し「アースオブライコス!」と何回も1人で大声を出し続けた。


 (これで良いのか? というか俺が言って意味あるのか? 失敗したらこの子を殺したことに……)


 青年は白い服が赤で染まっていく子供を見て怖くなった。


 短剣をゆっくりと抜き、自分の袖の中にしまおうとした時だった。


 子供が黒い霧に包まれた。

 その霧を見て青年は恐怖と不安から解放された。


 (アースが発動した! ということはどうなる? アースを丸々ひとつ飲ませるなんてこと聞いたことない。しかも加工をしないままだ)


 黒い霧が建物の壁の穴から抜けていくと同時に中から見えてきたのは子供の姿。


 子供は自分で立っていた。

 霧が全て消えると子供は青年の方を見た。


 「あーすおぶらいこすって、なんですか?」


 子供は首をかしげていた。

 青年はそれに答えることなく金色の頭に手を乗せる。


 子供はそのゆっくりと近づく手を目をつむって受け入れようとしなかったが、手が乗った瞬間その目は開いた。


 「・・・お前なんともないか? 体痛くないか?」


 「あなたの手はやさしい手ですね」


 (──この言葉だった。俺は初めて、自分が正しいことをしたと、この言葉で感じた)


 「お前以外の奴はどうした?」


 「僕のようにやくにたたない弱い子供以外は、ジズに保護されたんです」


 この時俺は改めて強く決めた。

 ジズを消して俺が新しい人々の救済組織を作ると。


 スラフ・ジシスと名付けたこいつはこの日からあの日まで毎日一緒だった。

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