12 いきなり魔物と対戦です
前話で書き忘れた部分があったので加筆しました。
申し訳ない。
翌日、雨も止んだのでまたいつも通りアメリアとユリアナは狩り、流一は釣りをしていた。
前日の雨で増水こそしていないが、川は濁っている上に流れが早いのでこれまでよりは食い付きが悪い、それでも現代に比べれば良く釣れる方だろう。
しかし大きな魚はあまり釣れなくなった、ずっと同じ場所で釣りをしているせいだ。
大きな魚だけ持って帰り小さな魚は逃していたので、相対的に小さな魚の割合が多くなったからに他ならない。
流一は仕方なく釣り道具を片付けた、生簀は作り直しになるが場所を変える為だ。
釣り道具を片付け終わると上流、下流両方を交互に睨みながらどちらに行くか思案している。
「「きゃー!」」
すると突然、アメリアとユリアナの悲鳴が聞こえて来た。
流一は二人のただ事ではない悲鳴に驚き、まだほんの少ししか回復していない魔力で身体強化を使うと急いで二人の元に駆けつけた。
結構距離は有ったがなんとか魔力切れ前に2人の元へたどり着いた。
「大丈夫か?何があった?」
一応は聞いたが聞くまでもなかった、何故なら既に見れば分かる状況になっていたから。
二人が二頭の狼の魔物に襲われているのだ、しかしまだ対峙しているだけで戦闘にはなっておらず、怪我などもしていないようだ。
この森は魔物領域からはかなり離れているため通常であれば魔物はいない。
しかしごく稀に、理由は分からないが魔物領域から出てくる『はぐれ魔物』と呼ばれる魔物がいる。
今アメリアとユリアナを襲っている狼の魔物がその『はぐれ魔物』だ。
ただ、狼の魔物は10頭前後の群れで行動するのが常なのだが、魔物領域外の為なのか他に理由があるのかは分からないが三人にとっては運良く二頭しかいない。
それでも、まだハンターになっていない三人にとってはかなりの脅威であることには違いない。
しかもアメリアは主武器がロングソードなので構えて対峙出来ているが、ユリアナの主武器の槍は狩りでは邪魔になる為小屋に置いているので弓で戦うしかなかった。
二人ともかなり不味い状況で焦り始めていたが、流一が駆けつけて来たのを確認して少し余裕を取り戻した。
「流一!魔法で攻撃して」
流一の姿を確認すると直ぐにアメリアがそう叫んだ。
しかし今の流一は魔力がほとんど無くなっているのでそれには応えられない。
「悪い、今魔力切れで魔法が使えない」
急いでバックパックからサバイバルナイフを取り出して構えながら答えた。
「冗談言ってる場合じゃ無いでしょ!早くしなさい!」
「そうですよ、命がかかってるんですから早くしてください」
アメリアとユリアナが怒りを込めて叫んでいる。
2人が怒るのも当然である、この世界の魔法使いは魔力が切れると失神したり昏倒したりするので、釣り場から走って来た流一が魔力切れなどとは夢にも思っていないのだ。
そうこうしていると狼の魔物がユリアナに飛びかかろうとした。
しかしそれを察知したユリアナは狼の魔物が身体を沈め込んだ瞬間に矢を放つ。
普通の動物であれば動きが止まった瞬間であり確実に仕留めているタイミングだ、しかし魔物となり運動能力が向上した狼の魔物には当たらなかった。
それでもユリアナに向かって飛ぶことは出来なかったようで、横へ大きく飛んだ。
そしてそこから更にユリアナめがけ飛びかかろうとしたが、ユリアナは既に次の矢をつがえて構えていた為再び横へ飛んだ。
今度は矢を放っていなかったので再び動きを止めて対峙している。
アメリアの方も剣と牙の睨み合いから狼の魔物が攻撃に移った。
狼の魔物はフェイントをかけるように左右に小さく跳んだ後正面よりやや左寄りから飛び掛かって来た。
アメリアは右に躱しながら同時に胴体へ斬りかかるが簡単に躱された、しかし着地の瞬間を狙い更に切り掛かると僅かに横腹の部分に傷を負わせたが致命傷には程遠い。
それでも狼の魔物の方から距離を取ってこちらも再び対峙した。
その戦闘を見ていた流一は、身体強化の使えない今サバイバルナイフでは狼の魔物に瞬殺されると思った。
実際、大会で入賞する程の剣道少年なので日本刀かせめてショートソードでもあれば分からないが、リーチが短く戦闘経験も無いサバイバルナイフでは戦闘にならない。
なので早くも奥の手を出すことにした、そう愛銃デザートイーグルである。
そう決断すると直ぐにバックパックからデザートイーグルを取り出しユリアナと対峙している方の狼の魔物に照準を合わせる。
武器が、得意の槍ではないユリアナの方がアメリアより危険だと判断したからだ。
流一は身体強化が使えると分かった時やってみたいと思った事がある、それは漫画や映画の主人公のように大型拳銃をワンハンドで華麗に打ちまくる事である。
しかし現実はそう都合良く回ってくれない、結局基本通り腰を落として両手でしっかり持って撃つしかない。
そしてその神の悪戯への怒りを狼の魔物にぶつける。
『ドゴーン!!!』
「ギャブ」
うまく胴体に命中すると最後の悲鳴をあげて狼の魔物は絶命した、中型の魔物を1発で倒すとは流石はデザートイーグル、流石は44マグナム弾である。
耳をつんざく余りにも大きな銃声にユリアナは流一の方を向いた、まだアメリアが戦闘中であり敵から眼を離すのは危険ではあるがユリアナの戦っていた狼の魔物が倒れたのだからそれも仕方ないと言える。
一方アメリアは銃声が気にはなったが、流石に狼の魔物から眼を離したりはしない。
しかし狼の魔物の方が流一の方を向いた。
アメリアはチャンスとばかりに切り掛かるが、攻撃の間合いの外だったので簡単に躱された。
そしてその狼の魔物は今度は流一に向かって襲って来た、どうやら流一を先に倒すべき脅威と認識したようだ。
しかしアメリアの側から流一の所までは少し距離がある、なので流一に対し最短で向かうため真正面から向かって行った。
『ドゴーン!!!』
再び大きな銃声が響くと狼の魔物は顔のど真ん中を撃ち抜かれ、今度は悲鳴さえあげる事も出来ずに絶命した。
しかし流一に勝利の感激は無かった。
身体強化が使えない今、アメリア戦の最初に見せた狼本来の動きをされれば当たっていたかどうか分からない。
狼の魔物が銃と言う武器を知らず、短期決戦を考え真正面から向かって来てくれたお陰で倒せたようなもので運が良かったとしか言いようがなかったからだ。
流一は実戦で銃を撃つ事で初めて、練習や訓練では分からなかった銃戦闘の難しさを実感した。
そしてアメリアとユリアナが狼の魔物が絶命している事を確認すると、流一の元へと駆け寄って来た。
「そ、それは何?何て武器なの」
「流一くん、そんな武器を持ってたんですか?」
アメリアとユリアナは始めてみる銃とその威力に驚いている、そして当然ながら質問してくる。
「これは拳銃と言って俺のいた世界では普通の武器だよ、もっともこの銃はその中でも強力な方だけど」
『切り札にと思っていたのにもうバレたし』などと思いながら答えた。
「こんな武器があるなんて。それより本当に魔力切れなの?だからこの銃って武器を使ったの?」
ユリアナが不思議そうに聞く。
「本当に魔力切れしてるよ。それより、なんでそんなに不思議そうな顔してるの?」
流一には二人が魔力切れを信じてくれないほうが不思議だった。
「やっぱり異世界人って本当みたいね。私達は皆んな魔力が切れると昏倒したり失神したりするの、だから魔法使いは戦いの場では決して魔力切れを起こさないよう細心の注意を払うわ。そうしないと確実に殺されてしまうからよ」
ユリアナが説明してくれた。
「そうなんだ、俺の世界には魔法はないんだよ。だから魔力の無い状態が正常な状態なんだ」
流一は納得したようだがアメリアとユリアナは更に不思議具合が増した。
「「・・・・・」」
なので二人は流一とは逆に絶句している
しばらくすると正気に戻ったアメリアから怒涛の質問攻めにあった。
「ちょっとそれおかしいでしょ、魔法の無い世界から来たらいきなり魔法が使えるようになったって言うの?ありえない、こっちの世界の人間だって全員が使えるわけじゃ無いのに。それにこっちの世界が魔法の使える世界だってどうやって知ったの?来たらいきなり頭の中に詠唱する呪文が入ってきたとでも言うの?」
怒りは無いが冷静でも無い、自分でも感情のコントロールが出来てないように見える、それだけ驚いているのだろう。
「いやあのー、魔法が使える事に気付いたのは偶然だし詠唱も分からないからしてないよ。ただ頭の中でイメージしてるだけだし」
『困ったなー、余計なこと言っちゃったなー』と思いながら答える流一。
「そう言えば流一くんいつも無詠唱だったわね」
思い出したように言うユリアナ、こちらは至って冷静のようだ。
ユリアナの言葉を聞いて、アメリアも『そう言えば』というような顔をしている。
「それよりこれどうするの?魔物って結構良いお金になるんじゃないの?」
こんな時は誤魔化すに限る、流一はサッサと話題を変えようと魔物を指差しながら言った。
二人はようやく流一が異世界人だと本心から納得したものの受け入れるにはまだ時間がかかりそうだ、魔法の事をはじめ分からない事が多すぎて。
そしていきなり話を変えようとする胡散臭さに。
「そうね、ハンターになるために解体も勉強したから今から実践で成果を試さないと」
そう言ってアメリアはナイフを取り出して解体を始めた。
魔物の素材や解体の仕方は専門書があるそうで、アメリアもユリアナも本でしっかりと予習をしているが実践は今日が初めてだ。
その本によると狼の魔物は魔石、牙、毛皮が高値で売れるらしい、しかし一頭はお腹に大穴が開いているため安くなる可能性が大きい。
もっとも原因は穴が開いたからではなく穴が有った事を隠すためにその部分を大きく切り取ったためだ。
前例の無い傷や穴は色々詮索されるので、何の穴か聞かれても答える訳にはいかないので仕方ない。
全属性の魔法が使える事やこの世界に無い武器を持っている事が知られれば問題が大きいのだ、運が良くても監視付き、悪ければ最悪捕まって人体実験もあり得るのだから。
解体はアメリアとユリアナが一頭づつ行った、予習の効果か初めてにしては上手い。
そして狩りは今日で終わりとなった。
狼の魔物二匹分の魔石と素材が有れば必要金額をかなりオーバーする、なので早く領都レクスブルクに行きハンターになる事にしたのだ。
そして三人は、明日近くのヘドネ村から乗合馬車で一日の所にあるレオニール伯爵領の領都ニオールに行く事にした。
そこで必要な買い物等済ませてから、明後日の乗合馬車で領都レクスブルクを目指すのだ。




