13 収納魔法使えます
翌朝、早い時間から二人が迎えに来てくれたのでさっそく近くのヘドネ村へと向かった。
そしてそのままハンターギルドの買い取り出張所へと向かう。
ハンターギルドの支部は中規模程度の街以上ならどこでもあるし小規模でも街と呼ばれる場所なら大抵はある。
しかし流石に小さな村までは置けないがそれでは不便なので素材の買い取り出張所だけはあちこちに置いている。
重い素材や貴重な素材を長期間持ったままでは仕事の効率が悪くなるが近場の村で換金出来れば直ぐに次の狩りに行けるので効率が良くなるからだ。
もし収納魔法が使えればそんな事はしなくて良いが、収納魔法の使えるハンターはそう多くない。
収納魔法が使えれば怖い魔物と戦わなくても貴族や商人が大金で雇ってくれるので普通はわざわざ命の危険なハンターになどならないからだ。
それから買い取り出張所にはもう一つ大事な仕事がある。
街には警備兵がいて身分証の提示を求められるが小さな村出身者などは持っていない場合が多い。
しかしハンターには王都か大きな領都でしかなれないためそのままでは街に入れずハンターになれない事になる、そのため買い取り出張所ではハンター試験を受けるものに限り街に入れるようになる『ハンター試験受験者証』の発行も行なっているのだ。
買い取り出張所では動物や魚等魔物の素材以外は誰でも買ってくれるが魔物の素材だけはハンターからしか買わない、そうしなければわざわざハンターにならずに狩りをして素材を持ち込む者が増えるからだ。
もしそうなればトラブルがあっても相手を特定出来なかったり、ギルドに来た依頼を探しに来る者が減ったり、逆にギルドから指名依頼を出したくても実力が分からなかったりとギルドにとっては困る事が多い。
なのでハンターギルドとしてはなるべくハンターになって貰うようにしたいのだ。
しかし一つだけ例外がある、それは『ハンター試験受験者証』を持つ者からはハンターでなくても魔物の素材の買い取りを行うと言うものだ。
試験を受ける街までの旅費として、またハンターの卵へ贈るエールとしてサービスで行なっている、なのでもちろん買取額に差をつけたりはしない。
実際この買い取り制度を使う者は割と多い。
流一達の遭った狼のような強いはぐれ魔物は別だがウサギや狐の魔物なら倒せる者は割と多い、しかし倒してもハンターでなければ買ってもらえないのでハンターの卵を見つけて安く売るのだ。
ハンターの卵も差額を旅費の足しにしようと積極的にそういう人を探している。
ここで流一は『ハンター試験受験者証』を発行してもらうと同時に狼の魔物の素材を売った。
買い取り出張所の職員は狼のような強い魔物の素材を買ったのは初めてだったので驚いた、と同時にかなり喜んだ。
買い取り出張所の職員の給料は買取額の1割となっている、そのため小さな村では生活が出来るほどには稼げない。
しかしそこは専任ではなかったりお年寄りが半分サービスで買い取りを行なう事で賄っている、出張所での買い取りは金額が固定されており交渉の余地が無いのでそれで十分なのだ。
そこへ狼の魔物二頭分の素材の買い取りである、職員としてはボーナスが出たような高収入となるので喜んだのだ。
資金調達もしっかり出来たのでそのまま馬車に乗りレオニール伯爵領ニオールへと向かう、二オールへは予定通り夕方前に到着した。
ニオールに到着すると3人はまず宿を探した、荷物を置いてから買い物へと出かける為だ。
もっとも買う物などそう無いので単純に街を楽しんでいるだけだ。
その日の夜、流一がいつもの魔力制御の訓練を終え身体を拭いているとアメリアとユリアナの二人が部屋に入ってきた。
「流一ちょっと良い?」
真剣な表情のアメリアが言う、ユリアナも真剣な表情だ。
「ああ良いよ、どうしたの」
「あなた狩をしてる時ずっと魔力切れだったの?だから魔法を使わずにすむ釣りをしてたの?」
アメリアが問い詰めるように聞いて来た。
「そうだよ、毎朝魔力切れまで訓練してから釣りに行って夜も魔力切れまで訓練してから寝てる」
それに対して悪びれもせずに答える流一、さすが鈍感男である。
「魔力を上げたいのはわかるけどなんでそこまでするの?夜はともかく朝魔力切れになってたらいざという時に困るでしょ!そもそも魔法使いが常に魔力切れってどう言う事よ」
流一の緊張感の無さに怒りが込み上げて来るアメリア、しかしユリアナはうんうんと頷きながら聞いてはいるがこちらは割と冷静だ。
「それは、早く収納魔法を・・」
「許します!!!」
流一が言い訳・・・いや理由を言うと、言い終わる前にユリアナが大声で言った。
「「!!!」」
これには流一はもちろんアメリアも驚いてユリアナの方を見る、一瞬静寂が訪れてしまった。
「で、使えるようになったんですか?」
なにやら期待に大きな胸をより大きく膨らませて食い入るように聞いて来た。
「わー!ユリアナ近い近い」
覆い被さるように近づくユリアナを手で押し戻すような体勢で、でも胸には触らないよう気を使って仰け反りながら言う。
触ってもラッキースケベで済むのだが流一は純情な高校生なので胸を触るのはハードルが高いようだ。
「あらゴメンなさいつい、でどうなの」
「使えるようになったよ」
ちょっと得意げに言う流一、ユリアナの反応を見るまでも無く収納魔法の有用性は知っているのだ。
「本当?ちょっとやって見せてくれない?私収納魔法なんて見た事ないの」
「そうだな、私も見たい」
ユリアナの提案にアメリアも興味しんしんで同意する。
「良いよ」
流一は二つ返事でバックパックを収納に入れて『ほらね』という顔で二人を見た。
そしてすぐにバックパックを収納から取り出した、本人は自覚していないがドヤ顔だ。
「すご〜い、これで収益率アップ間違いなしね」
「凄いなー、ところで容量はどれくらいなの」
ユリアナの言った通りハンターになったら収益は他のハンターより多くなるのは確実だ、なので最初に流一の部屋へ乗り込んだ理由などすっかり忘れてしまっている。
「収納魔法はやっと使えるようになったばかりで性能まではまだ把握して無いんだ」
「そうなんだ、でもこのことはしばらく三人の秘密にしておこう。人に知られるとトラブルになりそうだから」
アメリアが提案した、アメリアとユリアナの本心は『トラブルになる』では無く『流一がパーティーに入らなくなる』事を警戒してだが、もちろん流一にそんな2人の思惑など分かるはずもなかった。
そして収納魔法がトラブルになるのは流一も分かっているので提案を受け入れる。
まだハンターになる前なので知られれば既存のハンターパーティー以外にも貴族や商人からもスカウトが大挙してくるのは目に見えている、アメリアとユリアナの懸念もこれである。
しかし流一の秘密はアメリアとユリアナ以外には言うつもりは無いため三人でパーティーを組む以外の選択肢がそもそも流一には無い。
なので敢えてバックパックも収納に仕舞わず背負っているのだ・・・中身は重いので減らしてあるが。
そして2人は納得して自分たちの部屋へと帰って行った、夢を膨らませながら。
2人が自分たちの部屋に戻ると流一はヨネ子にメールした。
「さっき二人に収納魔法が使える事を伝えたよ、二人とも凄く喜んでた」
【そう、でもしばらくは二人以外には喋らない事ね】
「それは分かってる、ところで収納魔法の性能ってどうなってるのかな?アニメや小説だと魔力量で容量が変わるとか時間が止まってるとかあるけど」
【容量はいくらでも入るわよ、時間も止まってない】
「え?なんでわかるの?」
流一が不思議に思うのも仕方ない、収納魔法の使える自分がまだ何も掴んでいないのに使えないはずのヨネ子が知っているのだから。
【流一には言ってなかったけど私も一部の魔法が使えるようになったの、だから収納魔法も使えるし性能も把握したわ】
「そんな事があるのか?なんでそっちの世界で魔法が使えるんだ?」
流一の常識では現代では魔法は使えないだったが、まさかのヨネ子の魔法少女宣言(?)に脳がパニックを起こしそうになっている。
そして無意識に持っていた、自分は魔法が使えると言う優越感が音を立てて崩れ去っていった。
さすがリアルチート、さすが『マッド才媛ティスト』である何もしなくても流一に勝利した。
イヤ、別に戦っていたわけでは無いが。
【最初に超言語が使えたって言ったでしょ、だとしたら他の魔法も使えてもおかしくないと思って色々試したら着ている服の内側なら魔法が使える事が分かったの、身体強化とか自己治癒とかね、多分そっちとメールが繋がったことでスマホを介してそちらのマナが使えるようになったからよ】
「そうかー、じゃあ収納魔法について教えて」
もう既に何もかもを諦めたように力無く聞いた、本当に何かと戦っていたのだろうか。
ただし流一の落胆具合はヨネ子には伝わらない、その点はメールの不便な所である。
もっとも流一にとっては便利な所なのかもしれない、本心が知られないという事に関して。
【収納魔法は異次元空間を収納場所に使ってるわ。そして好きな場所で扉を開ける事が出来るように、異次元の方も扉の開く場所は固定されていないわ、だから容量は異次元空間分ね。ただし魔力量が少ないと異次元の方の扉はあまり広い範囲で開けないようね、だから魔力量により容量が決まるとも言えるかも】
「なるほど、だったら他の人が収納した場所も開く事が出来たりするの?」
【理論上はね、でもそれは宇宙空間を漂ってるだけで地球にたどり着くくらいの奇跡が起こればだけど】
「ハハ、だったら無理だね。ところで時間は止まってたりする?」
【止まっては無いわ、そもそも時間が止まってたら収納は出来ないわよ】
「なんで?小説とかだと止まってる設定って多いよね」
【それは設定だからよ。収納って物が内部まで入ってしまわないと出来ないでしょ、つまり内部までの移動距離があるって事。移動距離は『速さ×時間』て習ったでしょ、つまり時間の止まった場所では移動距離は必ずゼロなのよ】
「あー、なるほど確かに」
【でもこちらと同じでも無かったわ、大体この世界の3500分の1くらいの遅さだったわ】
「随分遅いんだね、それって1時間が3600秒だから1時間弱で異次元の1秒って事だよね」
【そうよ、止まっては無いけど同じように考えてもあまり問題はないわね】
「そう言えば生き物は入れられないって設定も多かったけどそれはどうなの?」
【入れられるわよ、ただ長く入れておくとどうなるかわからないけどね】
「えっ?どういう事?」
【先ず一つは異次元には大気が無いのよ、扉となる魔法陣がフィルターみたいになってて物は通すけど大気は通さないようになってるみたいね。もっともそうじゃなきゃ異次元に大気が吸い込まれちゃうしね】
「なるほど、窒息すれば短時間でもパニックにはなるよねー。で他には?」
【もう一つは上下左右の感覚が無いのよ、宇宙空間に放り出された感じって言えば分かり易いかしら】
「確かに、自分の位置が特定出来ないのって精神的に凄く辛いらしいしね。パイロットがそうなると背面飛行の末墜落するって言ってたし」
【後一つは扉を閉じると音も光りも無い空間になる事ね】
「それ、もしかして3つの中で一番精神的に辛いやつ?」
【そうよ、だから短ければ怖かった程度で済むけど長くなるとどうなるかわからないのよ】
「そうかー、じゃあ生き物は入れないようにしよう。それにしても良く調べたね。じゃあまた何かあればメールするよ。おやすみ」
疑問の解消した流一は、明日レクスブルクへ向け出発するため早めにベッドに入った。
しかしヨネ子には消えない疑問が一つ残っていた、それは何故か異次元の気圧がほぼ一気圧な事だ。
風船を少し膨らませて入れてみたが大きさが変わらないのだが、その理由だけは流石のヨネ子にもまだ解明出来ていなかった。
ヨネ子も神では無いので万能では無いという事だ。




