第18わん 7月26日の終わり
葉山家のリビングルームで、リリーさんがシベリアでの母さんとの馴れ初めを語り終える。
室内にはシリアスな空気が漂う・・・・・・はずもなく、僕の肩に顎を乗せて話すリリーさん、対面では話の途中で膝上の宥月を人外の速さで僕の隣にいた嗄月にチェンジして継続もふもふしている凛姉という状況も相まって緊張感の欠片もなかった。
「・・・ツッコミどころが多すぎるのに『あの人らしい』の一言で納得出来てしまう、我が家の母がある意味怖い」
「そうね〜。凄く母さんらしいのには同意するわね。さらに言えばリリーさんの了承を得た後、リリーさんをお持ち帰りした母さんが、父さんの眼前に喜々として両手で持ったリリーさんを突き出しながら『今日から新しく家族になったリリーさんなのよ〜』とか言って紹介する場面が簡単に想像できちゃうのよね・・・」
僕と凛姉がそれぞれの感想を漏らすと、軽く驚いたリリーさんが反応する。
「凄いのぅ姉様。まるで母様と父様のやり取りをその場で見てきたかのように正解じゃよ」
そのやり取りを思い出したのか、微笑しながら話すリリーさん。
「まぁ、母さんの日頃の行動パターンからすると家族としては簡単に想像がつくんだよね」
葉山家は基本的に女性の方が強いという・・・いや、深くは考えるまい。
そんなやり取りをしていると、凛姉の膝上でモフられながらも頑張って平静を維持している嗄月が質問を投げ掛けた。
「リリー様はシベリアという地の狼を統べる上位神の一柱という認識で合ってますなの?」
「ふむ・・・。正確にはまだ役割を引き継いではいないからのぅ。将来的にはそうなるであろうが、現在はこの葉山家の守神に身を置いておるゆえ、そう無駄に畏まる必要はないぞ守護精霊よ。わらわの事はさん付けで構わぬ」
神格として上位にあたるのか、畏まる態度の宥月と嗄月に対して手をぴらぴらさせながら軽く話すリリーさん。
うん。僕の背にもたれ込みながらでは威厳などないと思うのだが・・・。そして相変わらず背中に暴力的な果実が当たってるから、しな垂れかかるのをそろそろ解除して欲しい。
いや思春期男子としては嬉しいんですけど、こう・・・精神衛生的にね。
「主様の母上様は、非常に度量の大きなお方なのですね」
僕の隣で、獣耳をぴんと立たせて感心した表情で宥月が言う。
「そうだねぇ・・・母さんは器が大きいというか器の底に穴でも開いてるというか・・・」
苦笑しながら言葉を濁す僕に対して、首を振って二人が言葉を紡ぐ。
「わたくしも是非とも母上様に会ってみたいです」
「僕も会える日が楽しみなの」
「うむ。その時はわらわも久しぶりに母様にこっちの姿で説明に加わる故に、特に不安がる事もなかろうて。新しい家族の紹介なのじゃしな」
リリーさんが僕の肩でウンウンと頷きながら言うと、「新しい家族」と認める発言を貰った二人が破顔して答えた。
「「ありがとうございます (なの)」」
何はともあれ、戦闘勃発とかに発展しなくて良かった。リリーさんの「久しぶりに」の部分にツッコミを入れたかったが今の空気をぶち壊すのもなんなのでとりあえずスルーしよう。
「じゃあ今日はとりあえず、皆でお風呂に入ってゆっくり休みましょう。さぁ、いっくんも一緒に家族で裸の付き合いをしましょう。そうしましょう」
満面の笑みで馬鹿な提案をする凛姉に対して僕は、バッサリと「駄・目」と断った。
が、それでも強引に理由をつけて風呂場へと誘導しようとする凛姉からリリーさんを背中にくっつけたまま戦略的撤退をする。
流石に宥月と嗄月までは救えなかった・・・というか既に両脇に捕か・・・抱え上げられているので救出は不可能と涙を呑んでリリーさんと逃走する僕。
こうして騒がしい夏休み初日の夜は更けていくのであった・・・・・・。
読んでいただきありがとうございます。