死神姫メルセデス(一)
海斗が手にれたHRカードの死神姫メルセデス。
リアルレアだったようで・・・。
労働基準法完全無視の海斗のおかげで、体が鉛のように重い。それにしても、華の奴、ここぞという時に奇跡的なことをやってくれる。あの最後の場面、攻撃の余波でダメージを受けて、自動的に反撃モードになってしまった時には、我も(これは死んだな!)と覚悟を決めた。華(我)が手に持った杖(ブリュンヒルデの杖)が実は極レアアイテムであるのだが、これは華も海斗も知らない。カード屋のおっさんも気づけなかった。
この杖は低確率ではあるが、殴った対象物が直前に受けたダメージの3倍をたたき出す、「過去からの贈り物」という特殊な能力が付与されている。
これが発動したのだ。(3倍返しだ!)
直前のダメージは、海斗とアルトのダブル攻撃であったから、さすがの死神姫も仮面を叩き壊されて、昇天するしかなかった。これで海斗に莫大な報酬がもたらされる?と思ったが、前衛カードを3枚失ったのが痛い。いくら120万ポイントという莫大なポイントが入ってきても、失ったカードのポイント換算率でいったら割が合わない。
カードを鍛えるには、ポイントを使って装備品による強化をするか、地道にエネミー狩りや、プレーヤー同士の模擬戦闘を行うしかない。後者の場合は時間が非常にかかる。時間がかかるイコール、生活費もかかるわけでそれを維持するためにエネミー狩りを無理に行うことにもつながり、それはプレーヤーロストの危険性をはらんでいた。
となるとパーティを組んで安全にかつ確実に経験を積ませる。これが一番よい選択だろう。パーティを組むことに多少のこだわりがある海斗が、この方法を選択したのはさすがというところか。
さて、戦闘が終わり、例のカード待機所、海斗の腰につけたカードケースの中であるが、中は豪華な個室と大部屋が用意されているあの空間だ。個室のうち、レギュラーが3人失われたので、海斗の奴が応急的に2枚のカードを大部屋から補充していた。1枚は我が加入するまでレギュラーだった、あのバイオリン女の遠藤英美里、もう1枚は剣道娘、「立花アスカ」である。漆黒の髪に真ん中分けのリゾートボブの髪型で、いかにも武道に汗を流していますという感じの娘だ。この娘はN++(ノーマルダブルプラス)である。
もちろん、データ上のカードキャラであり、我や小夜のようなリアルレアではないために、受け答えは機械的である。戦力的には、前の南や加奈子、杏子に比べると若干の経験不足で30%ほどダウンであろうか?
しかし、その戦力ダウンを補って有り余るほどのカードを海斗は手に入れていた。ただ、現時点では経験不足で使えるカードとは言い難い。
どんなカードって?
もちろん、死神姫メルセデスである。
このハイパーレアカードは、あてがわれた自分の部屋でキョトンとしていた。我と小夜が部屋を訪ねると、
「ここはどこよ!」
と詰め寄ってきた。(この反応、通常データカードではない。リアルレアか?)
「ケケッ…ここはカードキャラの待機所ぞよ」
と小夜がいい、華もちょっと前まで知らなかったくせに自慢げに話し始めた。
(コイツ、カードになったことに違和感がなくなっているぞ?)
「カードキャラって?え?冗談じゃないわ!なんで、わたくしが死神姫メルセデスなんておかしな名前なのですか?信じられない!」
プンプンと怒り狂っている。華の奴がメルセデスに名前を聞くと、
「わたくし、海堂雨音といいます。隣の三美市の市長の孫娘よ!」
どうやら、この娘もリアルレアカードらしい。その証拠に人間だった時の記憶がある。華のように心の中に我のような(黒い子)はいないようだが…。しかも、コイツの記憶はかなり華に近い。華のように本体からは魂が抜けてカードキャラに宿った珍しいケースかもしれない。
(おっと、我としたことが危ないことを口走った。我自身の存在意義が問われることにもなるからな)
この市長の孫娘と肩書きを名乗る娘。言動的にタカビーな奴と思ったが、予想通りのタカビーキャラであった。華と小夜を正座させ、自分は椅子に座って足を組み、質問を命令口調で矢継ぎ早にしてくる。年齢は華と同じくらいだが、態度は完全に先輩である。
一応、華がメルセデスに、
「あのう~雨音さんは、人間でいらした時には、どちらの学校に通っていらっしゃったので?」
と聞くと、
「わたくし、宝城高等学校の中等部3年ですわ!」
と言った。華より1歳年下が確定!それで、玉城高等学校は、会社経営者や政治家、財産家の子女が通う金持ち御用達の伝統校だ。華の通っていた聖ジョゼフィン高等学校も私立ではあるが、ここはミッション系で学費は一般私立とさほど変わらず、また、進学クラスでは、特待生を集めているので、華のような一般サラリーマンの娘でも通えるのだ。
中学3年ということなら、おそらく幼稚舎からの純粋の宝城生なのだろう。正真正銘のお嬢様って奴だ。そして、このお嬢様、状況を説明されたのにショックで口が聞けなくなるとか、泣き叫ぶだとか、部屋に閉じこもるだとかの反応をする可憐なお姫様かと思いきや、椅子から立ち上がると腕組みをして何か思案した後、
「その海斗とかいう男に元に戻してもらいましょう」
とか、怖いもの知らずな発言をかましやがった。小夜と華に、
「あなたたちも、元に戻りたいのでしょう?だったら、私があの男を説得しますから、それに協力しなさい!いや、協力すべきでしょう!」
いやいや、この上から目線は一体どこからか・・・。
と我は呆れ返ったが、華の奴、
「そうですね!雨音さんの言う通りですわ!」
などと迎合している。
(おいおい…。華よ。あの海斗にそんなこと言ってみろ。また、ほっぺたをつねられるぞ)
そんな相談をしていた3人だがカードキャラの方からマスターである海斗を呼び出すことはできないので、海斗が呼び出すのを待つしかなかった。
(ついでに海斗が召喚しないと出現できないので複数で説得なんてできない。小夜の奴は戻ってもただの浮遊霊に戻るだけだから、あまり乗り気ではないようだか。)
そう思ったら、海斗の奴が華と雨音を召喚した。(どういう了見か?)
「身長152cm、体重43kg。B73W53H83っと…」
相変わらず、海斗の奴、初対面の女子に失礼なパーソナルデータを口にする。わなわなと震えて怒りを抑えている雨音。
「あなたねえ!いきなり呼び出して、私に失礼とは思いませんの!」
(おおっ…躊躇なく、一線を踏み越えやがった!さすがは空気を読まないお嬢様だ!)
「そうなんですよ。この男、デリカシーがないんです!」
(おいおい、華よ。お前まで強気に出てどうする!)
「とにかく、私を元の世界に戻しなさい。私は隣の市に住んでいますから、屋敷まで送って行っていただきますわ!」
どうやら、この海堂雨音という少女。リアルの記憶はかなり残っている。いや、華の方が知らなさすぎるだけか?
海斗は黙って、15センチフィギュアの雨音の足首を掴んで逆さ吊りにする。
「きゃああああっ…ちょっと、ちょっと、あなた、何をするの!」
慌ててスカートを抑える雨音。ロングスカートだから、短く3つ折りした白い靴下とパンプスが顕になり、膝までめくれ上がる。
「やっぱり、リアルか。リアルは変な奴ばっかだな」
海斗の奴、華と小夜の顔を見てそう言った。
(たぶん、雨音のスカートの中を見て確認したのであろうが)
「それは失礼です!」
と華が言っているが無視である。
海斗は今度は人差し指と親指で雨音の顎をはさんで、ほっぺをギュッとつまんだ。
「ふぁ、ふぁにをふるんですか~」
こうなると美少女もブサイク顔である。
「貴様のせいで、こっちは大事なカードを失ったんだ。その分、貴様を死ぬほどこき使ってやるからな!覚悟しておけ、この死神女!」
「しゅにがみほんなですてってえ?」
ほっぺたをぎゅうぎゅうされ続けてジタバタする雨音。
「それから、貴様もだ。ウスノロが!」
おっと、我に矛先が来たじゃないか!
だから、調子に乗るなと言ったんだ!(言ってないけど)
華と一緒にこき使われる雨音ちゃん。海斗のやつ、美少女でも容赦ねえ。




