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最終話   半魔の娘に花冠を




   広く荒れた大地に、ふたつの影―――、



舞い上がる砂埃(すなぼこり)の中から声がした。


「素晴らしい!!オレ様が、ここまで追いつめられるとは、大した女だ!」


「さっき精霊達が、お前の核にマーキングをした!これでどこに受肉、転生しようとも、お前を見つけられる!ガブドル、お前にもう逃げ場は無い!!大人しくブラントの体を返しなさい!」


肩で息をし、片膝をついて杖にすがりながらも、アルテナはガブドルを睨みつけた。


「フッ、オレ様を睨むその目。―――半魔でありながらよくやった。褒めてやろう。だが、所詮(しょせん)ここまで、」


ブラントの体に憑依したガブドルは、手を叩き不敵に笑いながら、そう言い放った。


「―――、結界も無く、お前が道連れともいえる、首飾り(それ)を使わない。―――いや、使えないのであれば、オレ様は消滅しないのだからな。クフフフッ」

「くっ!」


アルテナは、やり場のない(いきどお)りを表情に(にじ)ませ、攻めあぐねている。


だが、突然ガブドルの様子が、おかしくなった。


フラフラとしだしたのだ。


「うっ、―――何だ?」


ガブドルは、膝を折り手を地に着けた。


ガブドルの顔が、みるみる変わり、今度は優しい眼差(まなざ)しでアルテナに話しかけてきた。


「……やれ!、……アル・・テナ……」

「ブ、ブラント!?ブラントなの?!」


さっきまでの表情とは全く違う、その見慣れた笑顔に、アルテナは、すぐ感じとれた。


「あぁ、今、やっと奪い返した。だが長くは持たないだろう。これが最後のチャンスだ!ガブドルはオレが抑え込む」

「ダメッ!!できない!」


「何を迷っている?!もう時間が無い。だから早く!!」

「そんなの、―――」


肩を落とし、うつむくアルテナは、とうとう座り込んでしまった。


「それでは、あなたを救えない!!」

「アルテナ……」


ブラントは手を伸ばし、彼女に触れようとしたが、その手が白くなるほど固く握った。


「今だから分かる。おれの中で、無数の意識が濁流となって押し寄せ、オレの輪郭を容赦なく削り取っていく。抗うことのできない意志なき意志がオレを(むしば)んでいる。この体は無くなっても良い―――けれど……。この感情は、……君への想いだけは、―――絶対に奪われたくない!!それだけは、……嫌なんだ。頼む、アルテナ!このままではオレたちが築き上げたもの全てが、無駄になってしまう。」


震える体を杖で支え、自分に近づこうとするアルテナにブラントは、優しく微笑み目を閉じると首を横に振った。


「君ならできる。いや、君にしかできない!やるんだアルテナ!!」


アルテナは、ブラントの言葉に杖がきしむほど握り締め、揺れる心を必死に抑えている。


「そんなの…できないよ……」


肩を落とし、悲しげな表情でアルテナは、ブラントを見つめた。


「アルテナ」


迷っているアルテナに、ブラントは、彼女の名前を呼ぶと、優しく、優しく声を掛け、自分の「左手の甲」をアルテナに見せた。


「オレは、ここに……。君の(そこ)にいる」


ブラントは、自分の左手の甲を右手で優しく包み、そう言った。


そして、かすれる声を振り絞りながら、


「アルテナ……オ……レは……君……愛して……い……


すると、不思議とアルテナの体の震えが止まり、彼女の左手の甲にある黒い刻印が徐々に、そして、沸々(ふつふつ)白濁(はくだく)していく。


アルテナは、それを胸に押し当て愛おしそうに()でた。


「そうね、ブラント。あなたを感じるわ……」


片膝をつき、震える膝で立ちあがろうとうとするアルテナ。


倒れこんだブラントの体に再びガブドルが憑依し、体に付いた土を払いながら立ち上がった。


   ―――オイオイ、なに出しゃばってんだ?勝手に(しゃべ)んじゃねェよ、バーカ!気持ち悪いだろうが」


アルテナの頬を涙が、ひとつだけ伝いこぼれたが、その色違いの瞳の奥に闘志が(よみがえ)った。


「ブラント、私も……私も、あなたを愛してる」


そう、つぶやくとアルテナは、立ち上がった。


杖を投げ捨て、首にかかっていた魔石ごと首飾りを引きちぎり、呪文を唱え始めた。


   カァーーーーーーーーッ!!


次の瞬間、手のひらの魔石にヒビが入り、眩しく光りだした。


するとアルテナの体から『黒みがかった炎』のようなものが立ち昇り始め、全身を駆け回る痛みに、彼女は一瞬、顔を歪ませたが詠唱を続けている。


「オイ、まさか?貴様!何をやってる!!」


アルテナは、苦痛を感じながらも詠唱を読み上げ、魔石は砕け散ると、さらなる光を放った。


術の固定に成功したである。


「くっ、安心して。この世で迷子になったあなたを、私が、あの世まで一緒に連れていってあげるから」


自身の体をも覆う黒い炎の中、アルテナは静かにガブドルを凝視(ぎょうし)している。


アルテナから出ていた炎のようなものは、みるみるガブドルをも包む。


「くそぉぉぉっ!!何だこれは?」

炎は勢いを増すと、ガブドルは、もがき苦しみ始めた。


「終わりよガブドル!!引導(いんどう)を渡してあげる!」


アルテナは最後の力を振り絞り、全身を駆け回る痛みの中でも、決して攻撃の手を緩めなかった。


「やめろぉぉぉっ!うぎゃーーーーーーーぁあぁあああ!!あぁ……」


ガブドルの叫ぶ声だけを残し、黒い炎に包まれた、ふたつの影は跡形もなく消滅した―――。



こうして、戦いを引き起こし、混沌(こんとん)をまき散らす邪神ガブドルは、存在の力を失った。


この事で、ガブドルの特性である『絶対支配』と『カリスマ』の影響力から解放された多くの魔族は、人族との和解を望み、ようやく千年にも及ぶ長い戦いに終止符が打たれた。


まさに、その瞬間だった。


戦いに明け暮れていた、このどうしようもない愚かな世界を救ったのは、紛れもない―――、



   『嫌われ者だった半魔の娘だ』



プルーバー作『魔王子と半魔の娘』より抜粋―――。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




この作品により、自分の身を犠牲に諸悪の根源だった邪神ガブドルを退け、平和をもたらしたアルテナの功績は、世界中の人々に知られることになった。


また、皮肉にも差別の対象だった『色違いの瞳』は、『平和の象徴』となったのだ。


そんな彼女を想い、死を(いた)む多くの人達の祈りは、『存在の力』となって精霊を介し、長い年月をかけてアルテナへと注がれていく。


霧散した肉体は戻らなかったが、彼女の意思はやがて、『女神アルテナ』へと形を変えた存在になってゆく―――。


だがそれは、まだずっと先のこと。


しかし―――、


あの戦いの『本当の結末』は、この本の物語とは少し違っている。


その事を知る者は、そう多くない―――。



時が過ぎ、ロリエッタは、久しぶりにペルムの森に来ていた。


「懐かしいのう……。この場所は、―――」


2つの印が付けられていたあの大岩には、今や厚い苔と蔦に飲み込まれ、森の奥へと真っ直ぐ伸びる一本道も若木が塞ぎ始めている。


ここは、毎日三人で鍛錬をおこなっていた場所。


フッと笑ったロリエッタの横顔は、少し淋しそうにもみえる。


「ようやく書き終えたぞ……バカ弟子ども」


ロリエッタは、ふたつ並んだ誰も入っていない墓に一冊の本を置いた。


表紙にはアルテナの左手に刻まれていた、あの『刻印』が描かれている。


そして―――、



彼女は、その上に『花の冠』を、静かに置いた。



「これをブラントの横に並ぶ、お前の頭に載せてやりたかったよ……」


ロリエッタは込み上げる想いを強引に胸の奥へ押し込むと、いつものように凛とした足取りで、二度と振り返ることなく思い出の地を後にした―――。


彼女が去った後、無人となった墓に遺された本の刻印が、陽の光を反射して、ほんの一瞬だけ、白く、優しく光る……。



アルテナとガブドルとの戦いから、約300年後。


物語はゆっくり―――、


そして、……大きく動き出す。





いかがだったでしょうか?


本作はこれで完結です。



―――ですが、この物語の『本当の意味での完結』は本編で起きます!


本編は、「本音が漏れちゃう」シャロンと「冷徹王子」ノエルの物語。


本作のアルテナが、300年後、異世人をシャロンに転生させところから物語は始まります。


アルテナ託した真なる想いが、そこ【本編】にあります!


それが、何を意味するのかを、ぜひご覧ください。


【本編タイトル】


『強制本音吐露』の加護で色々へし折っちゃいます! 


を第1話から読むならこちら

➡ https://ncode.syosetu.com/n4262ls/


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!



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