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第17話  暗雲低迷【後編】〜邪神の産声〜




「―――まぁ、千年戦争の原因がガブドルだという仮説に辿り着いたのは、この首飾りのお陰で偶然なんだけどねぇ」


ハマンは手のひらの上の布に包まれていた、黒い大きな魔石が特徴的な首飾りを見せた。


すると―――、


「ん!光ってる?」


魔石が鈍く光っているのに驚いて、アルテナが思わず、そう口にした。


「ふふ、部屋が明るいのによくわかったわね、お嬢ちゃん!暗いともっとよくわかるけど、そうよ。あなた達がここへ着くほんの少し前から、偶然なのか?何十年かぶりに、また光りだしたわ。ねぇフェレーラ、これ憶えている?」

勿論(むろん)、憶えておる。アイギスの首飾りじゃな?!」


「そうよ。あなたがあたしに会いに来るきっかけとなった、アイギスが付けていた首飾り」

「あの時は結局のところ、わしが知りたかったループ魔法とその首飾りは無関係じゃったからな。しかし、その首飾りとガブドルとがどう結びつく?」


「これが光りだしたという事は、ガブドルが依代となる肉体を見つけ顕現したことを示しているわ」

「何っ!!それは本当なのか!?」


邪神の復活と聞き、それが人族との戦争の火種となりうるのではないかと、眉をひそめたロリエッタの脳裏をかすめる。


「ガブドルが自身の名を名乗ったのは、アイギスと対峙した一度きり。それ以外では、ひたすら自身を隠してきたの。ガブドルはただ転生を繰り返すだけの気が触れた戦闘狂じゃない。 狡猾(こうかつ)で知略に長け、冷静に世の中を見ているわ。そこから導き出される答えは、―――」


「もしかして、魔族と人族の対立を、そのガブドルとやらが(うなが)しているという事なのか?!」


怒りにも似た表情でハマンに詰め寄るロリエッタ。


「察しのいい、あなたは好きよ!ガブドルの思惑までは分からないけど、このまま放っておけば、間違いなく人族と魔族の間で、また戦争が起きるわ!」


「……今、言ったことが全て真実なら捨て置けん話なのじゃが……。しかし、なぜじゃ?!、この世がどうなろうと、どうでもいいはずのお前が、それをわざわざ、わしに伝えに来た?」


「そうね、おバカな人族と魔族が戦争を起こそうと死に絶えようと興味はないわ。でもね、……あたしから愛するものを奪い、あたしに悲しみと怒りと苦しみを与えたガブドルは絶対に許せない!だからあなたに見つけ出し彼奴(あいつ)を殺してほしいの……このアイギスの首飾りで」


ハマンはテーブルに首飾りを、そっと置いた。


「その首飾り、わしが知りたかったループ魔法とは違うが、条件を満たせば反応する点では呪いに近いようじゃな。それを、どう使う?」


「魔族でいうところの詠唱を唱え固定できれば自動的にガブドルを結界の内部に閉じ込めて、依代となった肉体を崩壊させるの。そして彼奴にとって命と言える『存在の力』を断ち、消し去ってくれるわ。ただし……、詠唱者も巻き込まれガブドルと一緒に消えてしまうけどね」


「何じゃと?!」

「そ、そんな……」


ロリエッタも一緒に聞いていたアルテナも言葉を失った。


「もともと肉体を必要としない、あたし達精霊も自然の力の供給が無ければ、消えて無に還るのと同じで、いくら精神生命体であっても、存在の力からの供給が無ければ、やがて消滅するはず。けれどガブドルは強さも化け物級、並の魔人では太刀打ちすらできないわ。加えて首飾りの詠唱には少し時間がかかるうえ、とてつもない魔力が必要となってくる」


「待て待て、お前が言っている事は、無茶苦茶ではないか?!」


「無理なお願いをしていることは、あたしもわかっているわ!けど魔力を持たないあたしに、その首飾りを発動させることはできないの。それにあたしはアイギスの全てを得たとはいえ、戦う力、能力は、それを越えられない。ガブドルを打ち負かすには、あたしより強い存在でなければダメなの。だからお願いフェレーラ!!あたしよりも強い者を、あなた以外にあたしは知ないから……」


ロリエッタは目を閉じ、しばらく黙ったまま考えを巡らせている。


「―――、あたしの言う事が信じられないならそれでもいいわ。でもね、人族との争いを避けたいのなら早くガブドルを見つけ出した方がいいわ。ガブドルを特定するには、この首飾りが役に立つから、これはここに置いていくわね。どうせ、あたしには使うことができないし、ガブドルもおそらく、この首飾りの存在は知っているだろうし、狙っているわ!だから気を付けて。それを使うかどうかは、あなたに任せるから」


ハマンはテーブルに手を付き、おもむろに腰を浮かせた。


「まぁ、待てと言っておる。それを使うかどうかは分からん。じゃが、見た目に分からないガブドルを見つけ出すには都合が良さそうじゃ」

「それじゃ、願いを聞いてくれるの?」


「お前の復讐劇に加担するつもりはないが、真実を確かめ、裏を取る必要はある。(ゆえ)に時間をくれ!」

「あたしは、彼奴(あいつ)の邪魔ができて、この世からいなくなってくれるなら何年何十年、いえ、何百年先だってかまわないわ……」


快諾(かいだく)とはいかないまでも、思い通りになったはずのそんな彼女の顔は、なぜだか少しばかり物憂(ものう)げに見えた。


ハマンの話を受け確証を得るために王都へと再び戻ることにしたロリエッタ。


ロリエッタは、自分がペルムの森にいない間、留守をアルテナに任せ、ハマンには、精霊術をアルテナに享受して欲しいと頼んで王都へと向かっていった―――。



長きに渡って続いていた魔族と人族との戦争。


停戦協定から既に十数年の時が過ぎようとしている。


まだ安定と呼ぶには程遠いものの、一部の地域を除いて両者とも国力が戻りつつあった。


だが、停戦状態とは言え、魔族と人族との国境付近では互いを良く思わない住民達の小競り合いが絶えず起こり、緊張状態が今も続いている。


平和を望む多くの者達がいる一方、各地では、きな臭い事件が増え始めているのも事実だった。


そんなさなか人族の村を何者かが襲い、村人全員が皆殺しにあう事件が起こった。


魔法が使用された痕跡があり足跡もあったため、はじめは魔獣の仕業とも思われたが、武器によるものもあったため、魔族の仕業ではないかと噂され始めたのだ。


真実の確証がないままに人族側は停戦状態の中だというのに、あろうことか、その村から一番近い(とりで)へと軍を配置させたのだ。


その事で、魔族側の緊張状態が高まり軍を国境付近へ配備する事となり、平和のふた文字に陰りが見え始めた。


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