江戸時代にタイムスリップ 「明け六つの鐘と町木戸」
まだ空の端が白む前。江戸の町を包む静寂を破ったのは、明け六つを告げる鐘の音だった。低く、どこか胸に響く音色が、町人地に連なる長屋の戸口にまで届く。
シュペルク「おっ……! 鐘の音で目を覚ますなんて、旅の宿の朝みたいだな」
フィビアス「これは単なる“時刻”じゃありません。江戸の町全体が“動き出す合図”です」
フローレン「千年前の村でも鐘や太鼓で夜明けを告げてた。人間はずっと、音で一日のリズムを作ってきたんだね」
やがて、町木戸の扉がギギギと音を立てて開く。木戸番が拍子木を鳴らし、「開門!」と声を上げると、路地に散らばる犬が驚いて駆けだした。町人たちが戸を開け、商売道具を並べ始める。魚屋は桶の氷を割り、八百屋はまだ露の残る青菜を並べる。瀬戸物屋の皿が朝の光を受けて白く光る。
シュペルク「おぉ……なんか一斉に動き出す感じだな。まるで街全体が生き物みたいだ」
フィビアス「その通りです。江戸の町は“呼吸”する共同体。夜十つに閉じ、明け六つに開く木戸は、その拍動なんです」
フローレン「境界を作ることで人は安心する。外から何が来るかわからない夜は、昔から怖い時間だったから」
表通りに面した表長屋の店々は、次々に木戸を上げる。裏手の細い路地には裏長屋が並び、そこからは眠たげな子供の泣き声や、鍋を叩く音が響いてくる。
シュペルク「表は店、裏は住まいか……。なんか町全体が舞台裏と表みたいだな」
フローレン「舞台裏があるからこそ、表も立つんだよ」
町の仕組みが目を覚まし、江戸庶民の一日が、静かにそして一斉に始まっていった。




