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第17話 助けて欲しいらしい

夜が明けたら何よりも先にやらなくてはならないことがある。それは、この黒い子犬の事だ。応急処置はしたし、いくら生命力の高い魔物だとは言え、生き物であることには変わりない。きちんとした餌や空間、それに専門家の処置だって必要なはず。



勢いのままに連れてきてしまったが、この魔物を王家で保護できるとははなから考えてはいない。



王宮は危険物・危険生物持ち込み禁止!

魔物は王家お抱えの調教師がしっかりと調教したもののみ、と定められている。あまり詳しくない私でもハードルの高さがビシバシと感じられる。



この子犬がどんな魔物でどれほどの強さなのかはわからないが、正直特例としてどうこうなるようなものではないのはわかる。それに、私としても出来れば元いた環境に戻してあげたいと思っている。




──それじゃあどうするの? と言えば。





「あの、ライアン。起きていますか?」




「殿下……!? どうしてこんな場所に……」






幼女は幼女らしく、大人を頼りましょう!

ってね?





***





今回ヴィオレット辺境伯は私のための部屋の他に、この別館には王家の従者達や護衛騎士のための部屋を1人1つ用意してくれていた。


従者と護衛騎士の半分が1階、残りの護衛騎士達が私と同じ2階。

そして幸いにもライアンに与えられた部屋は2階! しかも私に一番近い部屋!

これならテラスに出れば、誰にも気がつかれずにライアンに会える。


ライアンを選んだのは単純に私のお願いを聞いてくれそうだったから。

お兄ちゃん系騎士はきっと小さい子供のお願いを無碍に出来ないと思うんだよね。ダメだったら王女権力でゴリ押すしかない。



明け方を狙ってテラス窓を叩くと、既に目覚めていたのであろうライアンが顔をのぞかせ、目を丸くした。





「殿下……!? どうしてこんな場所に……」




「その説明は、後でするわ。とりあえず部屋に入れて貰いたいのだけれど……」





ライアンは驚きながらも、拒むことなく部屋に上げてくれた。


流石は騎士の鑑と言うべきか、はたまた長男魂と言うべきか、室内はきちっと片付けられており軽いベッドメイキングまで済まされている。これは好印象だぞ…!


私はライアンに導かれるままに小さなソファーに腰を下ろした。





「あの、あなたも……」





座っていいんだよ?

朝も早いし、眠いでしょ?

そう訴えかけるように視線をやる。


しかし、ライアンは向かい側のシングルソファーの真後ろに立っただけで、あとはゆるく首を振った。





「いえ、私はここで」





うーん、王族の扱いとしてはそれが最適解なのはわかるけど、ちょっと固いかな?ここからは情に訴えかける作戦なのに、そんなふうに業務的に処理されてしまう不安感は否めない。


居心地悪そうにしていた私に対して、ライアンは再び質問を投げかけた。





「殿下、どうしてこんな場所に……いえ、何かございましたでしょうか?」




「少し、お願いがあってきたの。───ここから先の話は、他言無用でお願いしたいの」





私の発言に、ライアンは「わかりました」と間髪入れずに返答した。私は覚悟を決めて持ってきたトランクの中板を外し、黒い子犬を膝の上に抱え出そうとした。


途端、ライアンの顔色が変わる。機敏な動きで、私の身を守るかのように子犬を取り上げ、その首元に護身用の小刀を突きつける。

当の本人は未だ眠りについたままだったりする。とんでもない胆力だ。





「殿下。これを、どこで?」





ああ、やっぱりそうなるよね!

不味い展開になってきた。いつ子犬が斬り殺されるかわからないような張り詰めた雰囲気の中、私はライアンの服の裾をくんっと引っ張って訴えかけた。





「昨日、川に立ち寄ったときに保護したの。足を怪我していたから……でも、今は寝ているわ」




「あの時ですか……」





苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて「申し訳ありませんでした」と謝罪の言葉を口にする。なにせ、この件に関してはライアンにとって監督不届き。そんな表情をしたくなるのもわかる。私としてはライアンは全く悪くないけどね! 自分が十割方悪いのは重々理解してるよ!


さてこの状況でどう発言するのが最適解か?私はよーく理解している。


私はライアンに気がつかれない程度に自分の手の甲を抓り───じわりと涙が溢れてきたタイミングで、ライアンを見上げた。





「……ごめんなさい」





そう。幼児にだけ許される百発百中間違い無しの秘技・“泣き落とし”!

これで陥落しなかったものはいない!だって1度もやったことがないから!!


ライアンが子犬からこちらへ視線を移動させ───再び目を丸くする。

よしよし、良い反応だ。このまま計画通りゴリ押すことにする。





「飼いたいってわけじゃないの。傷を治して、元に居た場所に戻してあげたくて…でも、私じゃなにも出来ないし……! だから、ライアン。お願い、助けて欲しいの」





曲がりなりにも王家の娘、顔は悪くないと自負している。

美少女の泣き落としと、騎士心をくすぐられる「助けて」という発言。


これで落ちないならば脅迫するしかないのだが───どうだろうか?





ライアンは暫く口を噤んだままだった。しかしやがて右手に小刀、左手に子犬の魔物を持ったまま、ふっと天を仰いだ。





「……かしこまりました。手を尽くしましょう」





勝った。

いつもお読みいただき、ありがとうございます…!


もし少しでも面白いなと思われましたら、スクロース先にある星、ブックマーク、感想などをいただけますとモチベーションアップに繋がります。


これからも毎日更新目指して頑張りますので、最後までお付き合いいただけますと幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] ところで、更新はいつ頃じゃろうか?? ライアンそろそろ黒い子に懐かれてはおらぬかえ?   
[一言] 続きがものすごく気になります。 お忙しいかと思いますが、ぜひ、続きをお願いします。
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