38 ケジメ
《華炎》はもともと六人パーティーだった。
俺を含めた前衛職の三人と後衛職の三人。魔法による突破力特化の構成で前衛職が魔物を食い止めるという安定感もあり、依頼をいくつもこなし、俺たちは街の内外で有名なC級冒険者パーティーになっていたのだ。
しかしB級に昇格してからしばらくして、報酬の配分で揉め事が起こった。
『体を張って戦っている俺たちの取り分を増やすべきだ』
危険な目に合っているのは自分たちなのに報酬を平等に分けることを不満に思った前衛職二人がパーティーから抜けた。
どこにでも転がっているようなありふれた話だ。冒険者として生きていく以上、こういった問題はついて回る。
互いに命を預け合う冒険者にとって信頼関係が一番重要である。そこにヒビが入ったら後は簡単に崩壊する。
そこからは地獄だった。
残された俺は一人で前衛をこなさなければならず負担が重くなり、依頼の失敗が続く。
女が多いパーティーということもあり、素性が分からない前衛職を安易に勧誘することもできないまま、拠点にしている街では《華炎》はC級に落ちるんじゃないかとバカにされるようになった。
「ライラック、飲み過ぎよ!」
酒場の喧騒もどこか遠くにあるように感じられ、酔いのせいか思考がまとまらない。
昔からの付き合いである二人が抜けた時から俺が知っている《華炎》はもう存在しないのだろう。
それでも、《華炎》の名前を残したのは俺にまだ未練があったのだと思う。
「どうすれば良かったんだろうな」
ふとした疑問は口をついた後、止めることができなかったようで、三人の表情が曇るのが見える。酒が入っているとはいえ失言だったなと思った時には遅かったようだ。
今回も依頼は未達成扱いになる。C級降格も現実味を帯びてきた。
しばらく沈黙が続き、重苦しい空気から逃れるように会計を済ませようと席を立つ。
いつまでも引きずっていられない。
焦りも苛立ちも、最近は何もかもが空回りしてばかりで上手く立ち回ることもできない。パーティーメンバーにも周りの人間にもたくさん迷惑をかけてしまった。
現実を見る時が来たのだろう。魔法職は貴重だ。いつまでも落ちぶれてしまった俺が引き止めるわけにはいかない。……潮時だな。
どんな冒険者パーティーでもいつかは解散する。年齢による引退や怪我、パーティーの不和。
そしてそれは《華炎》も例外ではない、今日で終わりにしよう。
これからのことを考えながら憂鬱な気分になったとき、視線を感じた。
女を二人侍らせた男が居心地悪そうにしながらじっと見ており、目が合うと遠い目をして会釈してくる。
リエル。彼らにも八つ当たりのような態度で嫌な思いをさせてしまった。
気まずい気持ちを抱えながらも俺は口を開いた。
◇
「……リエル。迷惑をかけた。申し訳ない」
俺よりも頭二つは大きな背丈で、身体は服越しでも分かるほど鍛えられており鋼のように見える。男にしては綺麗な顔立ちをしており端整な顔からはどこか気品を感じるが、その目はどこか暗く沈んでおり生気を失っている気がした。
ギルドで初めて見かけた時のような自信に満ち溢れていた姿は面影もない。ライラックはテーブルに頭を打ち付けそうなほど頭を下げて謝っていた。
両手に花状態で嫉妬の視線がただでさえ痛かったのに、ライラックが頭を下げるせいで周囲からはさらに痛い視線が突き刺さる。
絵面が……。絵面が最悪だ。
ライラックのパーティーメンバーに助けを求めようとするが、彼女たちはライラックに同情的な複雑な顔をしている。
小さな寝息を立てるシェイラも興味無さそうにしているルゥナも頼りにならなそうだ。
「もう頭をあげてくれ。そっちの詳しい事情までは分からないけど、俺なんかより謝罪すべき人が居るんじゃないか?」
俺はライラックのパーティーメンバーの方を見ながら言う。ライラックもそれに気付いたのかゆっくりと顔を上げる。
「パーティーは、解散しようと思っている。いつまでも《華炎》に彼女たちを縛るわけにはいかない」
そう言って彼女たちを見据える。パーティーメンバーは驚いた顔をして互いの顔を見合わせている。ライラックの視線には後悔や罪悪感が混ざっておりとても見てられるものではなかった。
「無関係の俺が言うのもなんだが。それは彼女たちの話を聞いてからでもいいんじゃないか?」
「オレのパーティーメンバーはみんな優しいからな。きっと引き止めようとしてくれるはずだ。だけど、彼女たちにもそれぞれ夢があり未来がある。その邪魔をしてはリーダー失格だ」
彼は力なく笑った後、首を横に振った。覚悟は既に決まっているといった様子だ。
彼女たちを思っての解散。それが本当に正しいことかどうかは分からない。ライラックが出した答えならそれでいい、のだろうか。
「……分かった」
「ありがとう」
短く礼を言い頭を下げたあと彼は背を向けて店外へ歩いていく。それを追いかけるように三人のパーティーメンバーも後を追っていく。
今まで見てきた彼が自暴自棄になっただけの姿なら俺はまだ本当の彼を見ていないことになる。これっきりで終わるのも寂しい気がした。
「ライラック。ちょっと待ってくれ」
気付いた時には呼び止めていた。彼の背中が振り返る。
「ケジメぐらいつけておいた方がいいんじゃないか?」
俺はライラックを挑発するようにわざとらしく笑ってみせた。




