12 謝罪
数十体のシルバーウルフの集団。
その正体は複数の小さな集団の、縄張り争いだった。
シルバーウルフ同士で激しく争ったようで、血だらけで死んでいるものもいれば、傷を負って弱り切っているものもいる。
そんな場面に巻き込まれてしまった少年。
目に涙を溜めて、しばらく呆然と俺を見上げていたが、ふいに我を取り戻したのか、勢いよく立ち上がった。
「ぼ、僕は、ミサと言います。あの、助けてくれてありがとうございます! 本当に助かりました!」
ひと息に早口でそう言って、ペコペコと頭を下げる。
赤い短髪で健康的な褐色の肌。年はあまり離れていなさそうだが、背は低く、顔にも幼さが残っている。
「ああ、気にするな。骨は折れていないみたいだが、歩ける?」
「は、はい! あ、あの僕――ッ」
何かを言いかけたが、急に咳込んでしまった。苦しそうに喉を押さえている。
「無理しない方がいい。ほら、これ飲んで」
〈収納〉からポーションを取り出して、差し出す。
矢と同様に、お金がなくて買い足せなかったが、シェイラがいくつか持たせてくれた。借金が膨らむね。
……まあ、シルバーウルフをたくさん狩れたので、後でポーション代は返せるだろうけど。
「あ、すみません。今、お金は持っていなくて……」
「いいよ別に。飲めるか?」
こくりと小さくうなずいてから、ミサは一気に飲み干した。すると、すぐに呼吸が落ち着いてきたようだ。
「すごい……。右足、痛くなくなった……」
「まぁ、凄腕の錬金術師が作ったやつだからな」
自分の手柄のように、得意げに笑ってみせる。つられるように、凍りついていたミサの表情も柔らかくなった。
「それで、何か言いかけていたが」
俺の質問にミサはハッとした顔になり、真っ直ぐにこちらを見る。
「な、――仲間が、姉さんが一人、いて!」
頭が一瞬、真っ白になる。それらしい人影は見えなかった。
◇
普段はソロで活動しているミサだが、シルバーウルフが多くて危ないため、今日は同じく冒険者をやっているお姉さんと二人で、パーティーを組んで来たらしい。
ミサは魔導士で、使っていた弓は魔力が切れた時のための予備。売れ残りを武器屋のお父さんに貰ったことがキッカケで使い始めたそうだ。
ミサのお姉さんは槍使い。二人はシルバーウルフに襲われて、逃げ回っているうちに分断されてしまったそうだ。
きっと、ミサのお姉さんもシルバーウルフに追われている。手遅れになる前に見つけなければいけない。
「あの、助けてもらった上にお願いするのは申し訳ないんですが、一緒に探してくれませんか!?」
必死に懇願してくるミサに、合流したルゥナが優しく微笑む。
「小さい少年。心配いらない。私たちが助けてくる。どこ?」
小さい少年……、ミサのことか。
いつも通りの様子を頼もしく思いながら、ミサを先導に走り出した。
「こっちです!」
日は落ち始めて、森の中を赤く染め上げる。シルバーウルフたちの気配はないが、これからより暗くなる。油断はできない。
ミサについていきながら、隣を走るルゥナに声をかける。
「体力は大丈夫か」
ミサの仲間を助けることに、特に反対はない。
だが、ルゥナは少なからず疲労がたまっているはず。
シルバーウルフのほとんどを倒したのは、ルゥナだ。俺がミサと話している間も、逃げ出したシルバーウルフたちを一匹残らず仕留めている。
万全の状態でないと、シルバーウルフの集団の相手をするのは難しいだろう。
「問題ない」
淡々とした短い返事が返ってくる。その横顔はどこか楽しそうだ。
ホブゴブリンを倒す時も、シルバーウルフを倒す時も、まるで、戦いを楽しんでいるかのように、ずっと口角がわずかに上がっていた。
俺に心配させまいと、気丈に振る舞っているのだろう。
ここまで気を遣わせてしまって、本当に申し訳ない。
ルゥナの親切心で組んだ、臨時パーティー。正式なものではないため、パーティー名も無い。
ただ、人となりのようなものは、今日一日で分かったつもりだ。
ルゥナは、とても優しい少女である。
俺がミサに話しかけている時、何も言わずにシルバーウルフの追撃を行ってくれたのも、俺たちの安全を確保するためだろう。
もっと、ルゥナの負担を考えるべきだった。
「ルゥナ、悪い。俺、まだ全然シルバーウルフを倒していない」
そう言うと、ルゥナはハッとしたような顔になり、申し訳なさそうに顔を伏せる。
「ごめん。リエル少年のこと、考えずに。私が全部倒した……」
あれ、なんで謝られてるの?
「あ、ああ。無理はしないようにな」
ルゥナは目を閉じ、考えるような仕草をして、ゆっくりと目を開く。
「埋め合わせ、後でする」
一瞬、何かを惜しむような表情をするが、首を振って、再び前を向く。
「そ、そうか。ありがとう」
よく分からないまま、とりあえず、お礼を言っておく。
ルゥナはホッとしたように、少しだけ笑みを浮かべた。




