黒衣の奇術師、メロ・フローその3
この世界と俺の住む世界に大きな違いはない。日本と言い換えてもいいが。
人の営みがあり、緑豊かで動植物が生き生きし、空気もうまい。山奥の田舎と変わりないからだ。
ただしスケールは違う。こっちの世界はとにかく規模がでかい、森、草原、山道、散歩感覚で二人について歩いたが、どこまでも広がる空に変わらない風景、日本にこんな手つかずな広大な土地があったら開発の魔の手がかかること間違いなしだ。
武装してないと外を出歩けないのも厳しいところ、自宅を出てコンビニまでの道のりで野生のクマに出くわすなんて日本ではありえないがこちらでは日常茶飯事だろう。やはりというべきか、俺に倒せるモンスタ―はいなかった。基本的にモンスターはサイズがでかい、30㎝以上の生き物もざらだ。耳障りな蚊を叩き落とすのとはわけが違う、素手で倒せるわけではなく、一般成人男性の俺は魔法も剣も才能がないわけでおんぶに抱っこ状態だった。
極めつけは無能の烙印。ギルドで貰った“住民票”、「スマホじゃん」そんな感想をいだくも、冒険者登録作業をする職員が「お兄さん、付与術師ですよ!」もてはやし、「あ、でも魔力量がEですね、これじゃ魔法が使えないから意味ないですね」直後に落とす。テンプレ展開と言ってもいい最弱で最強、そうはいかないようだ。
魔力量Eは“体内に流れる魔力を魔法として発現させられない量”をさしているそうだ。付与魔法が使えない“付与術師”は“付与術師”にあらず、要するに能無し、“天職”の恩恵が受けられないかわいそうな人扱いされた。
ちなみにだがシロエも魔力量はEだ。彼女の“天職”は“騎士”だそうで、肉体面で優れているそうだ。しかし、武具の扱いなど自身の努力も多かったそうで、“天職”がすべてでないと慰めてくれた。
そうそう、ナナの“天職”は以外だった、“家政婦”などというご主人様に仕える、あれな“天職”だそうだ。この“天職”面白い特徴がある、「一流の家政婦は仕えるべきご主人様の趣味嗜好に合わせる必要があるのよ」なんてナナが得意げに言っていたが、教えを請えば、各種、技能魔法、その初歩技を身に着けられるなんて、主人公みたいな“天職”らしい。それはおまけで家事能力がこの力の本分というのもまたなんともな感じだ。
まあ、話はそれたが、もともと戦闘を期待されて旅の同行を求められたわけじゃないし、気にしすぎてもあれだしせっかくの街並み、こっちを楽しもう。
真は周囲の景観に目を向ける。
緑豊かな風景、小川が流れ、花畑では蝶が舞い、味のある架け橋を渡れば、街並みが目に映る。木造造り、ログハウスだろう、丸太をくみ上げた家が間隔をあけ建っている。車はもちろん走っていない、土を踏み固められた大地は歩行者天国だ、活気にあふれている。田舎の村ではなく、避暑地の観光地、こっちの方がこの景観に合う言葉だろう。
RPGの町にいるみたいでテンションが上がるな。
真達は道案内を買って出たメロを先頭に宿屋に併設されているという、食事処に向かっているのだった。
支部長の横に立っていた彼女だがどう見ても子供、150㎝程のナナより背は低く声も幼い。目深にかぶるローブ、いや外套というのだろうか、フード付きのローブを身にまとい容姿は窺えない彼女だが、冒険者をやっているわけだ。この世界では普通なのかもしれないが、子供が働かないといけない環境にいるというのは何となく居たたまれない。まだ遊びたい盛りだろうに。
真は景観を楽しむのもおざなりに、案内役を買って出てくれたメロにいらぬ心配をしていた。
「ん?なにか?」「何でもないよメロちゃん」、真の視線が気になったのか振り返り尋ねるメロ、村人には周知だが、ナナ達には語っていない、意図的に勘違いさせていることがあった。
“黒衣の奇術師”ことメロ・フロー。彼女の実年齢は28歳、いわゆる合法ロリなのであった。
自身で作成したポーション、幸運か悪運か、“大成功”した。“大成功”とは同じ工程、材料で作成して普段以上の品を作成してしまう現象をさす。ごくまれに発生するのだが当時12歳のメロ、アイテム作成を続ける日々に疲労もたまる、せっかくの高品質のポーションご褒美に自身に使おうと一気にあおる、ちょっと甘いのど越しのいい液体、味付けまで高品質。その時は疲れが取れたと喜んだが後で後悔することになるのだった。
“身体状態、形態維持〈幼〉”、“住民票”いじっていた時たまたま発見した聞いたことのない状態異常、気になり医者にかかったところ、珍しいけど病気じゃない、一生その見た目なまま老けない肉体になった、ごくまれにポーションなどの薬品が“大成功”するとランダムで付与される効果の中でこの症状が過去にあったとのこと。
当時は絶望したものの、三十路近くなると逆に幸運だったのではと考えが変わりだしている今日この頃のメロなのであった。
次話は火、水あたりになるかと。
平日は12時投稿続けますのでお時間ありましたら覗きに来てみてください。
ではでは~




