みんなでごはんその3
「食べないと終わるわよ」
ナナはうつむく真にかまわず、おかわりをよそい声をかける。
「は!な、ばかな!」
真は慌てて鍋を覗き見る。三人でつつく前は取っ手付近まであった水位が今では底付近まで減水していた。もう具材は泳いではいない。いくつかなべ底に打ち上げられていた。
こいつらどんだけ食うんだよ!
俺の一週間分の食料が、一食で終わっちまった。
真は苦学生だ。趣味を持つほど金銭面で余裕はない。料理は趣味と実益を兼ねていた。そんな彼の楽しみ兼生活の命綱は今、何度目かのおかわりをしようとおたまを鍋に入れようとするシロエによってとどめを刺されようとしていた。
「まてまてまてまて!」
「だ、か、ら、っさいのよ!」
「こぼしたらどうしてくれるんですか!」
二人から蹴りを入れられる。加減を知らないのか衝撃でコタツが動いた。鍋が存命ならこぼれていた所だ、あぶないあぶない、残り少なくて良かった。
「何全部くおうとしてんの!シメは!シメ!鍋なんだから欠かせないでしょ!」
身を乗りだし、鍋という我が子を守る真。二人は顔を見合わせた。
そして二人は同じことを考えた。
“シメとは何だ”
おそらく残りの汁を使い作る別料理だ。真の料理は非常に美味。なんとしてもご相伴にあずかりたい。
アイコンタクトを交わし二人の意見は合致した。まずシロエが口を開く。
「真の料理あんまりにもおいしいから全部食べちゃうとこでした」
続いてナナ、
「ほんとよね、毎日だって食べたいわ、あんた料理人にでもなればいいんじゃない」
あからさまにおだてる。そして真は、
「え、そ、そうかな」
破顔して頬をぽりぽり、その仕草、“ちょろい”この一言である。
上機嫌の真は二人に笑顔をむけ、
「なんなら二人もくってく?」
「「もちろんいただくわ(いただきます)」」
何て扱いやすい男だろう、二人は内から出る笑いをこらえ声をそろえて返答した。




