36 商売開始
結局作りすぎたカレーは翌日も食べることになった。不満はない。カレーライスはやはり日本食だな、と思う。
そうこうしているうちに貨物船の到着日が迫ってくる。以前は港での荷受けにアルバイトを雇っていたのだが。
「学校から何人か連れてくるから」とのことだ。飯さえ食わせれば何でもします、とかいう危ないのがいくらでもいるらしい。お嬢は外では女王様になっているのかも知れない。ま、アルバイト代はちゃんと出しますからね。
骨董品といっても輸入時の品名は家具であったり花瓶であったりと様々だ。画一的なものではないから一点一点に輸入手続きのための検査が必要となる。だからコンテナ一杯に詰め込んだ品物を一旦開梱して並べなければならない。人海戦術で港の倉庫で作業を行う。税関はそれぞれを検査し輸入の手続きを執る。建前としては。ここで長年の実績が信用として活きてくる。実際にはこちらの用意した書類でほとんど問題もなく輸入通関業務は進んでいくのだ。
輸入手続きが終わると今度はこちらの倉庫に移動させなければならない。ここでも人海戦術だ。しかもここでは並べ方にも気をつかわなくてはならない。今からは頭を商売に切り替えなければならない。組立るべきものは組立て、動くものは動く状態に調整する。ディスプレイとまではいかなくても、ほこりを取り見栄えよく並べていく。早い客はその日のうちから現れる。
ところが今回最初に現れたのは、なんと親方だった。
「どうしたんですか帰ってるなら連絡してくださいよ」
お嬢も知らなかったようで「なによ、帰ってるならどうして手伝ってくれないの」少々おかんむりだ。
「すまんな、さっき成田に着いたところなんだ」
「むかえはいらなかったんですか」荷物はあまりなかったということなんだろう。
「まあまあ話はあとにしようや。そろそろのぞきに来るのいるんじゃないか」
「ええ、さっき連絡しましたからもう見えるんじゃないかと」
都内の同業者で写真で下見をしてもらったところには、入荷すれば早めに現物をみせ交渉をする。
「じゃあ親方。これでお願いします」私は親方に商品のリストを渡そうとした。輸入手続きに使った、それぞれの仕入れ価格のリスト、インボイスと呼ばれるもので、実際の買い付け価格がそのまま列記してあるものだ。親方なら買い付け価格と現物を見て適正な売値を即決出来る。
「いやいらねえ」ちら見だけしてすぐに返された。
「今回は全部まかせるからお前えやってくれ」
まあもともと親方抜きでせざるを得ないとは思ってましたけどね。
そうこうしているうちに本物のお客様があらわれ、商いが始まる。客が複数になってくるとお嬢も接客に回る。それでも親方はわれ関せずと品の手入れをし始めた。顔見知りのお客様ばかりだから当然のように声がかかるが適当なところで私に話を振ってくる。いつもよりあわただしいなこれは。




