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欧州骨董買付帳  作者: ふくろう亭
集荷
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35/40

35 カレーの味

 カレーを作るのは久しぶりだ。海外でも旅先でもなければ自炊はしているが、カレーはめったに作らない。一人だとどうも作って食べる気がしないのだ。だから食べたくなったらレトルト食品を使うことにしていた。最近は種類も多くて、あれはあれで悪くはない。いやむしろ美味しいかもしれない。スペイン米のごはんに結構合うようにも思う。

 でもここで食べるときには、インスタントとはいえルーにもこだわった。スパイスも足して工夫もしたし、トッピングもバリエーションを考えたものだ。量も普通の三人前とはいかない。倍量は作ったものだ。

 じゃあリクエストにお応えするとして、どうするかな。買い出しに行って考えようか。

 「エビフライ買ってきたから使ってね」そうきたか。ジャガイモはいらんな。

 私と彼女の二人分というのはあまり作った記憶がない。明日に残ることを前提にして多めに作って置こう。久しぶりに作るカレーの香りは結構強い気がする。あまり英国では嗅ぐことがない匂いだ。インド料理の店だともっとスパイスそのものの香りがする。やはり日本独特のカレー臭というものがあるようだ。だいたい国ごとに違う匂いもあるのだ。ローカルの飛行場に降りるとその国の匂いが漂っている、というのは結構有名な話だ。

 ふと思った。

 ダイアナの国はどんな匂いだったんだろう。

 郷土料理はどんなものだったのか、そもそもそんなものは食べてはいなかったのか。

 半月以上滞在していたのに、そのあたりのことが全く思い出せない。

 毎日なにを食べていたっけ。

 ああ、サンドイッチしか今は思い出せないな。あの時の。

 親方と連絡を取るときには、郷土料理についてちょっと聞いてみよう。だいたいあの人は食べ物には執着するひとだからな。

 「どうしたの、辛めに作っちゃたの」ふいに横から声をかけられた。なんでそんなこと聞くんだろう。

 「だって涙が出てるじゃない。よっぽど辛くしちゃったの?」

 「いやこれは」手で頬に触ると確かに濡れている。

 「違うんだ、さっきスパイスの付いた手で眼を触ったものだから」

 「えー、なんか良くないんじゃない。顔を洗って来れば。鍋の見張りしておくから」

 「じゃあお願いするか。あんまり味見ばかりしないでね」

 「しません!ご飯まだ炊けてないし」炊けてたらするのか。

 洗面所で鏡を見る。この涙はなんだろう。あの国のことを思い出していたからなのか。

 懐かしさ、そんなことで涙をだすのか。

 ちがうな。

 ダイアナのことを考えてしまったからだ。

 帰国以来ずっと封印していたのに。湖畔で見せたあの笑顔。車を運転するあの笑顔。次々とダイアナの表情が、目を瞑れば浮かんでくる。

 とりあえず、今は。かき消すように顔を洗った。


買い付け時の注意

 日本の空港は魚臭がする、と言われたことがあります。何度海外から帰ってきても、そんな風に感じたことはありません。生まれ育った土地というのはそういうものなんでしょうか。

 ヒースローなんかは何も感じなかったのにシャルル・ド・ゴールでは確かにチーズ臭がしました。あれは実は集まった人々の体臭なのかもしれませんね。ローカルほどきつくなるようにも思えるし。

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