34 骨董屋日常
学校にそのまま残るらしいお嬢様を置いて、店へ戻る事にした。昼食をおごれという声も聞こえたが、無視することにする。仕事中なのでそうそう付き合ってはいられない。
近所の弁当屋で昼飯を買い店で食べる。一服してから開店準備だ。前の道路を掃除して軽く水を打つ。看板を出しショウウィンドウに明かりを入れる。店内の掃除は店を開けてからゆっくりと行うことにしている。品物の手入れも兼ねているつもりだ。何が何処にあるかはこれをしないとわからなくなる。
そんなことをしていると、通りかかったご近所さんに声を掛けられる。ここに居ついて十年にもなると、しばらく不在をしていても顔なじみは多い。いちいち挨拶をして近況を話す。いつもは英国にいると言うと感心されることもある。全く気にしない人もいる。下町とは違うこの適度な距離感が私は嫌いではない。
三時のお茶休憩をしている頃から来店客が増えだした。もちろんケーキ屋じゃないから、あまり途切れずにお客がいる、ぐらいのことだが。
常連さんならある程度気が抜けるが、見知らぬ一見さんだと注意しての対応が必要となる。つまらない接客をして将来の上得意様を逃がすわけにはいけない。それにしても若い客が多くなったな、前はそうでもなかった。今も学生風が一人。ライターのケースをゆっくりと見ている。声をかけて好みでも聞いてみるかとタイミングを考えているところに邪魔が入った。
「ただいまあ」お嬢様のお帰りだ。あっ、この野郎顔があかるくなったぞ。探してたのはライターじゃなくてこっちか。
「あー、いらっしゃいませ。この前のジッポーどうですか」
なるほど、一見さんではなかったか。
「ライターだとちょうど入荷したてのがあるんですよ」そこはまだちゃんと整理していないんだが。
最近はずっと店番をしていたんだなあ、えらいえらい。あとで頭でも撫でてやろう。あ、こっちを睨みやがった。
「ねえねえ、カレーが食べたいな」
客が途切れたところで、お嬢が晩御飯の提案をしてきた。もともとここでは食事当番があって、今日は誰が段取りをします、なんてのはなかった。三人がバラバラの時もあれば、揃って食卓に着くこともあった。その日その日が不規則な商売だから予定はなかなか立てにくい。お嬢も中学に行くころから自分で作るようになっていたな。私や親方の作るメニューはワンパターンであきあきしてたんだろう。
久しぶりにそのワンパターンがご所望らしい。




