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欧州骨董買付帳  作者: ふくろう亭
集荷
27/40

27 アドバイザー

 親方と近況を簡単にやり取りしたあと本題に入る。私の口調から察してもらえたようでやり取りがスムースでありがたい。

 「江戸時代末、19世紀中頃に作られたもののようです」電話を終えてから、私は言った。

 「なるほどね、時代的にも合うじゃないか」

 「ねえねえ、その箱にはなんて書いてあるの。なにか由来とかエピソードとかがあるのかしら」

 期待に応えられなくて申し訳ございません。

 「中身が刀である。それと販売したお店の名前と年号が書いてありますね」

 「えーそれだけ、もっとなにかないの。なにかあるものじゃないのな、こういうものには」

 「博物館に行ったってこの程度でしょう。あと作者名ぐらいですね、わかるのは」

 「ほう、どのような方なのかなこれを作った作者は」

 「残念ながらあまり有名な鍛冶ではなかったようですね」

 二人ともすこしがっかりした様子になる。仕方ないな。

 「この刀は備前、西日本地方の刀作りで有名なところで作られたものです。数百年にわたり多くの名刀を生み出してきた刀鍛冶のグループがあります。その中の一人がこの刀を作ったのです。おそらく1850年頃に」

 「まあ」

 「そうなのか」

 「そうです。当時の日本は江戸時代末期、長く続いたサムライの政権が末期を迎え、内乱が起こるような騒然とした時期でした。戦争に備えるために作られた、いわば実戦のための刀です」

 「少し怖いわね」

 「ならばこれも実際に戦いで使われたものなのかね」

 「そうですね」刀身を元からすかすように見る。

 「少し、ほんのすこしですが身が細くなって居るようです。おそらくですが実際に使用され傷が出来たのでしょう。研ぎ師が傷を消すために刀身を研ぎこんだのだと思われます」

 「あら傷物なの」

 「そうは見えないが」

 「傷物などではありません。よく手入れをしていたということです。ただこちらに来てからはあまり手をかけてはおられないようですが」

 「そうなの、いらないのなら私にちょうだい。村に作るギャラリーに飾っておくわ」

 「なにを言うんだダイアナ。実際に戦いで使用されたものなら立派な歴史の証人じゃないか。我が家にとって大変名誉なものだ」

 「そういうことです。良いものですから、たまには手入れをして大事に扱ってください」まあそういうことだ。

 少しはアドバイザーらしく振る舞えただろうか。ボロが出ないうちに退散したいものだ。彼女も察してくれたのかその後はお茶をお変わりすることもなく引き上げることになった。資料をしっかりと押し付けて投資するよう念押しをした上で。

 帰り道の車内で彼女は機嫌が良かった。

 「なんとか大物を確保できたようだわ」

 「そんなに大金を投資してくれるんですか、彼は」

 「そうね、金額は大したことはないでしょうね。せいぜい彼のポケットマネーぐらいでしょうね。でもね、出資者の中に彼の名前があるということが大事なの、とっても重要なのよこのお国では」なんだか疲れてきたな、全く。

 帰り着くともっと疲れる事態が待っていた。

 「なんでここにいるんんですか」

 さっき電話で話したばかりの親方が家の中で待っていたのだ。メイドさんのお茶のサービスを受けて随分嬉しそうだった。

 「おう、遅かったな。商売は上手くいったのか」この人も妙にご機嫌だな。

  

(買い付け上の注意)

「良いものです、大事にして下さい」=「偽物とかじゃないけれど、売っても大したことないないです」

ものも言い方で角が立つ。ですね。他所様の持ち物をけなしてはいけません。

 日本刀の世界では、江戸期の物を「新刀」と呼びます。明治期だと「新々刀」です。そういう評価なんですね。価格はその時々で変わったりしますから相場を知らないとえらい目に合います。詳しい人に聞くのが一番です。


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