25 ダイアナ・ファイル
リッチモンドというから普通の住宅街と思っていたが、着いたところは立派なタウンハウスでした。こんな荷物満載のワゴンでお邪魔するようなところじゃないと思います。もう運転手に徹していようとしていたのにダイアナに引きずり出されて中まで行くことになりました。
パブリックスクールの同級生というので女性かと思っていたら男性でした。イケメン・ダンディだし。そりゃ今や大概のパブリックスクールは共学だし、男女比で言えば男の方が圧倒的に多かったんだろうが、これまでダイアナが会いに行くのは大体女性の同級生だったので少しとまどったのだ。
相手が男なら私を同行させても不思議はないか。何といっても上流社会の話だから、レデイが一人で男性を訪ねるというのはまずいことなんでしょう。
なんか言葉遣いが変なのは、出来るだけこの人達の話し方に合わせようとしているためなんだが、いわゆるキングスというかクイーンズというのか、そんな喋り方なんだよこいつら。ダイアナは時々こちらをチラ見しては妙に嬉しそうだし、完全に私が浮いているのを楽しんでいるようだな。
「なんか今日のダイアナ嬢はご機嫌が麗しいようだね。もっとお茶を楽しみたいところだけど」
イケメン・ダンディが優雅な動作でティーカップを持ったまま言った。ああもうこいつ略してEDでいいやもう。
「あら私はいつもと変わらないつもりなのに。でも、そうね。貴方も忙しそうだし本題を聞いてもらえるかしら」
「なにを言うんだダイアナ。私は貴女のためなら何時でも時間ぐらい作るよ。大体貴女を邪険になどしたら私はロンドンに居られなくなってしまうじゃないか」
「まあ、何をおっしゃっているのかしら」
ダイアナも優雅に微笑みながら答える。
「よろしければこれを見て頂きたいの」どこからともなく分厚いファイルを取り出してテーブルの上にそっと置いた。いや確かに私に持たせたカバンにそれは入っていたのだけれど。
EDはファイルを手に取りなかの資料を見ていく。
「これがいま噂のディ・ファイルか。やっと実物を見ることが出来たよ」
このところダイアナは友人達に会い、同じファイルを渡していた。内容は彼女の街の観光案内だ、ただし近い将来の。ファイルの最後には投資の呼びかけと方法が、ダイアナからのお願いの言葉とともに書いてある。これが彼女がロンドンに来ている一番の理由だ。
「是非出資させてもらうよ」
「あら、ろくに資料を読み込まずに簡単におっしゃるわね。ガイ・フォックスのお付き合いのつもりなのかしら」
「とんでもない、実はこの内容は知っているんだ。ある人から詳しく見せてもらったんだよ、今見ていたのは同じ内容かの確認さ」
「まあ誰かしら。そりゃあ秘密の計画ってわけじゃないけれど」ん、少し怒っている?いや、ふりをしているのか。
「いやいや、噂を聞いて無理やり頼み込んだんだ。怒らないでくれ」
「そうね、貴方に頼まれて、いやと言える人もそうそう居ないわね。そんなに期待していていただけたのなら数字の方もさぞかしでしょうね、ありがとう」
「もちろんさ。あー、よろしければ今度もっとゆっくりと話し合いたいものなんだが」
「それならここに来てちょうだい、いつでも大歓迎よ」
そういって彼女はカードを取り出した、さっきまでティーカップしか手に持っていなかったのに。
「これは?ロンドンの滞在先なのかい?てっきり☓☓か◯◯でも使っているのかと」
「そんな贅沢はいたしませんの。そこに来て頂ければ街の模型や大きな写真も用意してあるの」
そう、私の倉庫は今や立派な観光案内所のようになっているのだ。カードには案内図と外見の写真も印刷されている。だいたいEDが言いたいのは、どこぞにエスコートしようというお誘いでしょうに。わかった上でやってるんだろうからたちが悪いよ。
「そうだね、そのうち伺わせていただこう。ところで、さっき紹介してくれた彼だが」
ほら、こっちにとばっちりが来るじゃないか。
「君のナイト役なのかな」なんだよそれは。
「違うわよ」女王様はこういった。
「アドバイザーよ、私の個人的なね。だから、今後とも宜しくお引き立てくださいませね」
(買い付け時の注意)
貴族やジェントリなどは大体ロンドンにタウンハウスを持っているようです。本来の領地などの本拠地には大きなカントリーハウスがあり、都会にはそれなりの建物を維持する。それぞれに多くの人々を雇っている筈ですから、私ごときには想像できない暮らしぶりです。中にある調度品もさりげに良いものがありますが、私の商売的には文字通りクラスが違いすぎて手に取る気にもなれません。
ちなみに☓☓か◯◯はロンドンにある超のつく高級ホテルです。私なんぞロビーに入ったこともありませんです。
こういう人に引き立てられても…




