22 ロンドン
さすがのダイアナも少し反省したのか、リチャードと真面目に向き合うことにしたようだ。
まず彼の肩に手をかけ優しく声をかける。
「リチャード、ごめんなさいね。貴方にはゆっくりと相談するつもりだったのよ」そして椅子に座るように誘導していく。
「さあ、お茶でも飲んで。落ち着いてお話しましょう」冷めたお茶を入れ直し、ミルクと砂糖までいれてリチャードの前に置く。彼はすっかりその間にクールダウンしてしまっている。
「お飲みなさい」軽く背中に手を当ててお茶を飲むようにうながしているのか。そのうち頭でもなでそうだな。
そして街の観光地化計画が彼女の口から語られていった。合間合間にこれは彼のアイデアでもあるのよ、とこちらに振ってくる。仕方がないのでちょっと大げさに話しを盛り上げてしまう。そのたびにリチャードは私を見て感心したようにうなづく。ああ君はなんでもいいから研究一筋に生きていくべきだ。いくら姉の言うことだからといって、そんなに簡単に言いくるめられてよいのか。君は金だけは扱っちゃだめだな。
そして夕食の場では、話題は私と彼女のロンドン行きで終始した。なぜかメイドさんまで一緒に行くことになっていた。後部座席の荷物は整理され、ここから日本へ直接送りつける品物まで分別される事になった。
「その方が合理的でしょう、手間が省けるわ」おっしゃる通りです。
かくして二日後の朝には、私達は出発することになった。
出発前に私はダイアナから入念なメイクアップを施された。いつまでも帽子やサングラスに頼っていてはいけないというもっともな理由で。
イギリスへ向かうといっても、途中での買い付けはして行こうと言うのだ。是非買い付けの場に同行したいと。だから私が人前に立てるような状態でなければならない。ゆえにメイクは必要である。ダイアナとメイドさんの力が当然必要になる。と、まあ私も簡単に言いくるめられていたのだ。確かに鏡に映る自分は、ここに来るまでより二三割男前が上がったような気がする。これなら各地での商談も有利に進むかもしれない。
そして私たちは出発した。ロンドンに着いたのは一週間後のことだった。
一月半ぶりの我が家は随分とみすぼらしく見えた。なにしろ元々は倉庫だったものを、どういうつもりか一階をガレージ、二階を住居に無理やり改造したような家なのだ。独立した一軒家というのだけが唯一の取り柄というだけの。
まあこういう建物は男心を妙にくすぐるところがあって、ここを一緒に見つけた時の私の親方といったらもう、おもちゃを見つけた子供のようにはしゃいだものだった。「貸家」と書かれた札をいきなりもぎっとて、そのままその日のうちに契約をしてしまったものだ。二階に二部屋あるのも喜んで「こっちは俺が来た時に使うからな、ちゃんとあけとけよ」と、のたまった。残念ですがここはダイアナとメイドさんに明け渡します。「しばらくこうしましょうね」と言って、あっという間に私の使っていたベッドをその部屋に移動させられていた。使うのはダイアナとメイドさんだ。私ではない。哀れな私は当分の間ソファーを使うことになった。まあ良いけどね。
(買い付け時の注意)
ロンドンの住宅事情は東京ほどではありませんが、当然それなりにきびしいものではあります。普通私のような状況のものはいわゆるフラットを借りるものです。なかなか一軒家を使えるものではありません。郊外とはいえ一応ロンドン市内なのでなかなかの出物ではあったのです。あきらかに持ち主が趣味で工作して作ったような外見は、まともな家族持ちなら近寄ろうともしなかったようですが。こういうものに飛びつくというのはよほどの数奇者でしょうからね。




