21 デレる彼女 キレる彼
「だいたい貴方がいけないのよ、私をその気にさせるんだから」
まだ続けるのかと思ったが、話はようやく真面目にするようだ。
「いろいろと費用の掛かりそうな事ばかり言ってくれるんだから、私は偽金だけはまだ作ったことがないんだから」
「それはやめて下さい」
「現実的なアイデアだと思うのよ、この街に観光客を呼び寄せるのは。ただし予算がいるわ、中途半端なことはしたくないしね」
そりゃあそうだ。
「美味しいお茶とトイレは良いものを用意したいのよ、他所よりも」
眼が光ったような気がする。
「だから資金を引き込む必要があるの」
「それがロンドンにあるんですか」
「そうね、とりあえずは伝手のあるところからね」
やっぱり庭だったのか。
「貴方だってそろそろ帰らなくてはいけないのでは?」
そりゃあそうだ、私はとっくに帰っていなければならない頃ではあったのだ。いつもの買い付け旅行ではとっくに折り返して戻っているところだ。
気がつけばもう半月程をここで過ごしていた。滞在費がかかっていなかったので呑気にしていたが、本来なら仕入れ予算と相談しながら、買い付けたものを売りさばく段取りをしなければいけないところなのだ。
「そうですね。半月も音信不通では行方不明者扱いになっているかもしれないし」
「でも貴方、待っている人なんかいないんでしょう」なんか酷い言われような気がする。そうだった、何時だったか根掘り葉掘り聞かれていたんだ。メイドさん(年上の方)とこの人に。
「そりゃそうですが、商売上とはいえ付き合いのあるものも少しはいますし。日本のオーナーだって心配しているかもしれません」
「あら、電話もしていなかったの。もしかして携帯壊れてるの?言ってくださればよかったのに」
「ええつい連絡しそびれてました。だって事情を説明するのがちょっと…」
「そうね突然髪の毛が無くなって、動けなくなって、おまけに美女の世話になっています、なんて言えないわよね」
そういうまとめ方をされると、なんか理不尽な気がするのだが、昔みたいに電報で連絡するならそんな文章になるのか、全てに対して説明を山ほど付け加えたくなるだろうな。
「とにかく、貴方はイギリスに帰りたい。私はイギリスに行きたい。ちょうどいいじゃない。それとも私と一緒に行くと何か都合が悪いことでもあるのかしら」実は彼女が待っているとか。大家さんが美人だとか。
「そんなわけないでしょう。私の事情はお話したとおりですよ。ただ…」
「ただ、なにかしら」
こんな時外国語は便利だ。
「とても嬉しくてとまどっただけです」本当に。赤面してしまうよ。
「…」さすがの彼女も一瞬言葉につまった。
「そう、それは良かったわ」目をそらして答えるが、耳があかくなってますよ。
二人ともしばらく言葉もなく目も合わせられなかった。だからもう一人ここにいることを忘れていた。
「あなた達は一体何を言っているんですか!私をのけ者にして何を相談してるんですか!」
そう言えば私は彼とはほとんど挨拶以上のことは話していない。彼女もそうなのか。私のいないところで、いくらでも話し合う機会があったろうに。
「姉上!なにをお企みなのか、この私めにも是非お教え下さいませんか」なるほど、こういう言い回しをするわけか。さすがだ、私には使えない表現だな。
(買い付け上の注意)
携帯電話が出来て、日本との連絡は本当に便利になりました。さすがに国際電報は使ったことがありませんが、テレックス、ファックスなどでのやり取りは即時性にかける欠点はありつつも、よく利用しました。電話はやっぱり使いにくかったのです、料金や使える場所の問題で。
携帯は料金がどんどん安くなっていきましたので、さすがに使うようになりました。もう時差の壁などあっという間に吹き飛ばしましたね。だって私の目の前にある商品を、仕入れるかどうか直接売り先と相談できるんですから。高額品で迷った時には本当に強い見方です。




