20 駆け落ち
「姉さんそれは…」
ダイアナの発言にリチャードも驚いたようで言葉が続かない。
私と言えばとりあえず言葉も出ない。ナニヲオッシャッテイルノカナというところだ。
「なにを驚いているのかしらあなた達」少し目を細めてニコリと微笑む。
「いけないよ!駆け落ちでもするつもりなの」と、リチャードが言ったと思うのだが言葉が乱れていてよくわからない。まあ非難しているのはまちがいがないだろう。
「なにを言っているのかしら、お茶がをこぼさないでちょうだい、はしたないわ」
「だって彼と一緒に出ていこうなんて、そう言ったじゃないか」
「それがどうしたの」
「どうしたのって、彼と一緒にって…」
「まあ、あなたの頭の中には魔術以外のことも少しは入っていたのね、良かったわ。でもねえ、その残りの少しが色恋沙汰だったなんて。あなた少し昔のロマン小説ばっかり読み過ぎじゃないの」
リチャードの顔が真っ赤になった。
「そんなものは読んではいません!」
「あら、お部屋にハーレクインが有ったわよ」
「あ、あれはジジが面白そうに読んでいたので、ちょっと…」
ジジというのは若い方のメイドさんのことだ。
「ほうら読んでるんでしょ、面白かったのね、よっぽど」
リチャード、これはからかわれているんだから、ムキになっちゃだめだよ。
「そうでもなきゃ駆け落ちだの何だのって発想が出てくるわけないじゃない、もうロマンチストなんだから」
リチャードはついに言葉が出なくなったようで、唇が震えるばかりだった。
「そうね、駆け落ちでも良いのだけれど、ねえ貴方」矛先がこちらに向かってくる、私はなにも言っていません。でも一応返しておこう。
「私は何時でもOKですよ、ダイアナ」しっかり彼女の目を見つめてはっきりと発音した。彼女の目が丸く見開かれた。一瞬の間が空いて、彼女は答える。
「じゃあ早速用意を始めましょうね、ダーリン」と、見つめ合う。がすぐに二人揃って吹き出してしまった。
「ダ、ダーリンって…もうダメ」自分で言っておいてそれはないだろうと思うのだが、ツボにはまったようで笑いが止まらないようだ。ここは乗って行くのが基本だ。
「なにを言っているんですか、もっとそう呼んでください、ダーリ…」
「やめてー、ちょっと」やめません。結構ゲラですよこの人。面白くなってきたのでひとしきりからかってみた。
お茶のおかわりをしてもらってから、私は彼女に問いかけた。
「えーと、本当にロンドンまで行くんですか、私と一緒に」
笑いすぎてハンカチで目元をおさえていた彼女は、ようよう真面目な顔を作った。
「そうよ、久しぶりなの。案内が欲しいわ」
「なに言ってんだよ!ウェストエンドは姉さんのお庭じゃなかったのかよ!」おお、リチャードの反撃だ。しかし、何してたんだそんなところで。
「まあ、人聞きの悪いこと言わないでちょうだい。そんな昔のことは忘れたに決まっているでしょう」
「だって散々バカにしてたじゃないか、ケンブリッジの田舎者とかなんとかいって人をからかって」
「女学生の戯言をいつまでも根に持つんじゃないわ、だから持てないのよ」あー、言ってしまったんじゃないか。言ってはいけないことを。リチャード泣いちゃダメだ。ここに来て初めてリチャードに優しい気持ちを持つことが出来た気がする。
(買付時の注意)
ケンブリッジは確かに田舎ですが馬鹿にする人は世界中の何処にもいないでしよう。この姉弟の間にだけ存在する戯言でしょう。
古都ケンブリッジは、また観光の街でもあります。うらやましかっただけかも。




