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炎の神子様は大精霊ではございません  作者: 江本マシメサ
第二章【魔法使いと魔法使いの弟子】

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第四十一話 もふもふ――そしてもふもふ

 とりあえず、宿に戻る。

 受付にいた狸獣人テホンには、食堂のスープセットが美味しかった旨を伝えた。


『そうそう、耳の魔法ですが、村から出た瞬間に解呪されるようになっておりますので、ご安心を!』


 そんな説明を受ければ、アルフレートの猫耳が神経質そうにピクリと動く。

 なんというか、可愛い猫さんだ。


 さきほど、自分の熊耳を触ってみたけれど、ふわふわモコモコだった。

 改めて、変化魔法って凄いと思う。

 きっと、アルフレートの猫耳も素晴らしい触り心地なのだろう。

 ああ、もふもふしたい。


「行くぞ」

「あ、うん」


 うっとりと猫耳を眺めていた私にアルフレートが声をかける。


『素敵な夜を~』

「……」

「……」


 ここで現実に引き戻された。

 アルフレートと一晩、過ごさなくてはならないという事実に。


 そして、やっぱり開かない部屋の扉。


狸獣人テホンのご主人、蹴破っていたよね?」

「……ああ」


 育ちが良いアルフレートは信じがたいという表情でいた。

 でも大丈夫。私はこういうの、慣れているから!

 そう前置きをして、扉に向かって蹴りを入れる。


「開いた!」

「……」


 部屋の中へと入り、一息吐く。


「それにしても、困ったね」


 森に出現する魔物のおかげで、大きな水晶の採掘が困難であると。

 あるにはあるみたいだけれど、とんでもない高値がついているらしい。

 通常の水晶市で買えるお値段の数十倍だとか。しかも、常連客しか交渉をしないとのこと。


「人員が揃っていれば、大蜥蜴退治に行きたいところだけれど」

「人員がいても、討伐になど行かない方がいい」


 杖作りに命を懸けることはないとアルフレートは言う。

 確かに、生息していないはずの魔物の出現なんて、おかし過ぎる。

 この前の邪悪なる眼イビル・オホみたいに、変則的な存在なのだろう。


 ホラーツが迎えにきてくれるのは明後日。

 それまで、ここで待機をしなくてはならない。


「まあでも、市場を見て回ったり、水晶の資料館に行ったり、いろいろすることはあるよね」

「そうだな」


 財布の中身は私達の働きに対する報酬とあったので、ちょっとしたお菓子とか、みんなへのお土産を買うくらいなら許されるだろう。

 自由なお買い物なんてしたことがないので、わくわくする。


「だったら、明日に備えて休まなきゃ! その前にお風呂」


 アルフレートに先に入るかと聞けば、真顔で首を横に振る。

 だったらと、遠慮なくお風呂に入らせていただく。


 驚いたことに、脱衣所や浴室などもとても清潔で、綺麗だった。

 浴槽には水が張ってある。

 きちんと火の魔石も用意されていた。

 石の表面に刻んである呪文を摩り、水の中へと放りこむ。すると、すぐに水は湯となった。

 円型の入浴剤もあったので、湯の中に投下!

 しゅわしゅわと気泡をたてながら溶けていく様子を眺めているうちに、柑橘系の良い香りが浴室に広がる。

 化粧を落とし、名残惜しいと思いつつも、髪型を解く。服を脱ぎ、浴室へ移動する。

 頭の上からザバリと湯を被り、粉末の頭髪剤を手のひらで泡立て、髪の毛を洗う。

 熊の耳も、丁寧に洗った。体も洗い、最後に洗顔をする。

 備え付けの石鹸なども花の香りだったり、柑橘系だったりと、素敵な品ばかりだった。

 なんか、幸せ~~。


 このあとアルフレートが入るので、湯に浸かるのは止めておいた。

 タオルでしっかりと体を拭き、用意していた長袖の筒状寝間着を纏う。


 交代で、アルフレートもお風呂に入る。

 一時間経った。随分と長い。

 もしかして浴室で倒れているのではと思ったけれど、風呂場へと近づけば、バシャバシャと湯を被るような音が聞えた。

 単なる長風呂だったようでホッとする。


 途中、喉の渇きを覚え、机の上にあった果実汁を飲めば、とても苦くて咳き込む。

 風呂から上がってきたアルフレートに、それは酒だと指摘された。

 なんだかふわふわすると言えば、「この酔っ払いが!」と怒られてしまった。


「酔ってない、酔ってない。大丈夫~~」

「明らかに酔っているだろう」

「そうかな~~?」

「……」


 寝台問題は、天井からシーツを吊るして境界線を作って眠る、という意見でまとまった。

 ちょうど、部屋の真ん中には、紐が張られていたのだ。用途は洗濯物干し?


 アルフレートは疲れていたのか、すぐに寝てしまったようだ。

 部屋を照らす角灯の光で、シーツにシルエットが浮かび上がっている。

 寝ている間も、ときおり猫耳がぴくりと動くのが、なんとも言えない。


 私も眠ろうとしたけれど、なんだか気になって――アルフレートの猫耳が。


 アルフレートは寝ている。

 ちょっとだけなら……。

 もふもふとは言わない。一回だけ、もふっとしたら、きっと満足すると思う。


 いいよね? だって、気になって眠れないし。


 間を隔てているカーテンを手で避ける。

 アルフレートは、こちらに背を向けて眠っていた。


 そっと、猫耳に手を伸ばす。

 毛並みの良い耳は、アルフレートと同じ金色。

 きっと、お風呂で丁寧に毛づくろいをしたに違いない。

 もう少しで届くと思っていたのに、突然アルフレートの体が動く。


「――!?」

「うん?」


 くるりと寝返りを打ったアルフレートは、こちらの気配に気付き、目を覚ましてしまったようだ。


「ほ、炎の、お前、何をしようと」

「もふもふしたいと思って」

「はあ!?」


 こうなったら正直に告げる。

 アルフレートの猫耳をもふもふさせて欲しいと。


「何を言っているのだ!?」

「だって、可愛いし、毛並み良さそうだし、いいじゃん、減るもんじゃないし!」

「馬鹿なことを言うな、酔っ払いが!」

「酔ってない!」

「酔っている!」


 良いではないか~、良いではないかと猫耳に手を伸ばすが、腕を掴まれて止められてしまう。


「止めないか!」

「一瞬だけ、もふ、だけでいいから!」

「断る!」

「じゃあ、触りっこにしよう。私の熊耳を触っていいから」

「断る!」


 やだ~~お堅~~い。

 極上の猫耳は、簡単に触らせてくれないらしい。

 私は布団に額をつけ、頼み込んだ。


「アルフレート、一生のお願い!」

「……」

「明日から、真面目になるから、今晩だけ!」

「……」


 腕を組んでいたアルフレートは、私を慈悲のない目で見下ろしている。

 駄目かと思ったが――


「そこまで言うのならば」

「え、いいの?」

「少しだけだ」

「やった~!」

「!?」


 喜びのあまり、飛びかかってしまった。

 突然のことで予想できなかったのか、あっさり押し倒される猫耳男子アルフレート

 覆いかぶさる形になったけれど、逃げられたら困るので、都合がいいかもしれない。


「お前、なんてことを……!」

「いいじゃん」

「良くない! この、酔っ払いめ!」


 そうは言っても、触っていいって言ったもんね。

 言質は取ったのだ。遠慮なくもふもふさせていただく。


「そういえば、私、こういうの初めてだから、痛かったらごめんね」

「……優しくしろ」

「できるかな?」


 だって、村にはもふもふできる犬や猫なんていなかったし。


 アルフレートに跨るような体勢で寝台に膝を突き、そっと猫耳へ手を伸ばす。


「うわ、すご……」

「……」


 アルフレートの猫耳は、すごく……もふもふだった。

 とても触り心地がよくて、いつまでももふもふしていたい。


「お、おい、そろそろ……」

「あ、うん」


 夢見心地のまま、猫耳から手を離す。


「とっても、よかった」

「私は……よくなかった」

「初めてだったから、ごめんね。痛かったかな? 次は、アルフレートが気持ちよくなるように、するから」

「次はない!」

「そんなこと、言わずにさ」

「お断りだ! いいから、早く寝ろ!」


 満足できたので、私は自分の陣地に戻って眠りにつく。

 幸せ気分で微睡むことができた。


「――っていう夢をみたんだけど」

「全部現実での出来事だ!!」


 ……どうやら昨晩、私は酒に酔って、いろいろとやらかしたらしい。

 深く、反省。


▼notice▼

アルフレートの猫耳


極上の猫耳。

すごく……もふもふでした。


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