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残された禍根  作者: 長谷川龍二
第二章 親子
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使者

 

 徳川家康は将軍職を徳川秀忠に譲った後に隠居し、居城を駿河の駿府城に移して大御所と称していた。


 駿府城は将軍を隠居した家康のために用意された城でもあるが、関東防衛の観点から見れば重要拠点になる場所でもある為、大規模な増築を実施しようとしていた。


 城主の間で徳川家康が駿府城の増築計画の内容を吟味していた時、側近の本多正純が慌てた様子で家康に近づき、声をかけた。


『大御所様、越前より使者が参っております。使者が申すには急ぎ大御所様に書状を届けよと命じられたとの事です』



 徳川家康は怪訝な顔をして思案した。


(秀康からの使者か……。儂の手の者が指示通りに、日々の食事に毒を盛り続けた結果、自力では立てぬほど衰弱しておると報告を受けておる。大事が起きたならば、即座に儂に連絡があるはずだ。書状は秀康が亡くなった事を伝えるものか)



 火急の使者を寄こした意図を考えたが書状を読めば済むと思い家康は正純に返答した。


『使者は誰じゃ』



 家康の問いかけに半ば困惑した顔で正純が使者の名を答えた。


『本多伊豆守殿に御座ります』



 正純の言葉を聞いた家康は驚愕した。


 本多伊豆守とは、家康の重臣であった本多重次の兄の子である本多冨正の事である。


 秀康が豊臣秀吉の養子に出された直後から常に秀康の傍らに仕えていた人物で秀康の家中で最上位の重臣である。越前から駿河に書状を届ける使者となるような人物ではない。



 本多冨正が使者である事を聞いた家康は直ぐに指示を出した。


『今すぐ書状を持って参れ。伊豆守には遠路大義であったと儂が申していたと伝えよ。茶と菓子を振舞い、休息をとらせよ』



 正純が書状を受け取りに行く姿を眼にしながら家康は思案した。


(冨正程の者が書状を届ける使者だと……秀康が死んだのか。いや、そうなら冨正は幕府へその旨を届け出るであろう。仮に儂に伝えるにしても、冨正程の者は国許に留まり、別の者を使者とするのが当然だ。何ぞ儂の知らぬ大事でも起きたのか……)



 家康が思案しているうち、正純が書状を手に城主の間に入り、家康に書状を差し出しながら、家康に話しかけた。


『越前黄門様より直々にこの書状を駿府へ急ぎ届けよとの下知を受け昨日の夜に駿府に参ったと申しております。また、越前黄門様は既に国許を出立済みで、明日にも駿府へ到着されるそうです。伊豆守殿は書状の内容は知らされていないと申しておりました』



 正純の声を聞いた家康は全身が一瞬で凍りついた錯覚を覚えた。


 正純が口にした越前黄門とは秀康の事である。毒に蝕まれて衰弱し、間もなく死を迎えるとの報告を受けている。


 だが、動けないはずの秀康が来る。しかも家中でも最上位の重臣である本多冨正を先触れとした事が家康には不気味に思えた。


(秀康は動けるような状態ではないはず。どうなっておるのだ。だが、冨正がそう申した以上、嘘や冗談などではあるまい。何故に秀康が動けるのだ。何が起きておるのだ……)



 家康は書状を受け取ったが、開いて内容を読む事もせずに思案していた。


 動けないはずの秀康が明日にも自分の元に来る。越前に忍ばせてる間者からはその事についての報告が一切無い。


 自分の知らないところで何かが起きた。


 それが何なのか理解出来無い為、全身に纏わりつくような緊張感を必死堪えて、動揺を気付かせないように表情を取り繕った。


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