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残された禍根  作者: 長谷川龍二
第二章 親子
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護衛

慶長十二年 閏四月一日 越前国



 父へ書状を送り、献上する品の手配を命じた秀康は周囲の者に悟られる事なく駿府へ赴く方法を考えていた。


(多くの者を引き連れて駿府へ赴く事は出来ぬ。儂が越前から駿府へ赴くと秀忠が知れば、幕府の重臣を江戸から駿府へと向かわせ、儂と父上の対面に同席させる事が考えられる。それでは意味が無い。儂と父上の二人だけで話さねばならん)



 秀康は父が秀忠や幕府の重臣達に秀康が駿府へ来ることを伝えず駿府の重臣達にも口外する事を禁じるはずだと読んでいた。


 秀康の書状を読んだ家康が内密で話す事を望むからである。


(父上は儂だけと話す事を望むに違いない。儂に毒殺を仕掛けた件が露見すれば大騒動となる。二人で話をする事を望むはずだ。儂が暗殺の件を見抜いたかを父上が知るにはそれしかない)



 そして駿府に赴くには、家中から武芸に優れた少数の護衛を選び、内密で出立する以外に方法が無いと考え抜き、弓術の名手と名高い吉田重氏を護衛にする事に決めた。


『誰かある。重氏を呼べ』



 日置流弓術を修めた吉田重氏は家中でも屈指の武芸者であり、駿府に少数で赴く際の護衛とするには、最も適任だと言える。


 重氏が来るまでの間、秀康は黙々と筆を動かしていた。


 嫡男や家臣達への遺言、生前に交誼があった者に送る感謝の意を込めた書状などをしたためていたのである。


 書状を書き終えた秀康は文箱に書状を納め、文箱を包む紙に封印として花押を記した。


 為すべきことを終えた秀康は瞑目して、静かに座していた。

 家臣に命じたことが終わり次第、駿府へ向かうつもりである。


 明日には越前を出立せねばならないと秀康が思っていた、時に室外から声を掛けてきた者がいた。


『遅くなり申し訳御座りませぬ』



 呼びつけた吉田重氏がきたことを確認した秀康は部屋に入るように声をかけた。


『構わん。入るがよい』



 秀康の声を聞いた重氏は静かに襖を開けて部屋に入ってきた。

 礼をした重氏は秀康の様子を見つめ、一呼吸して話かけてきた。


『某に如何なる御用件で御座りましょう』



 自分の心をも見抜くような強い視線を感じながら秀康は返答した。


『家中の者に内密にして江戸へ赴く故、道中の護衛を命じる』



 重氏は目を細めて、返答した。


『恐れながら、道中で病が悪化するやもしれませぬ。完治するまで療養を続け、江戸へは使者を遣わすほうが良いかと存じまする』



 重氏は病を克服していないことを見抜いていると匂わせ、越前から江戸へ赴く事に難色を示した。


 優れた武芸者は一目で、相手の事を見抜く事が出来ると言われている。

 重氏の目には秀康が病を克服して回復したとは見えなかった。



『重氏、確かに儂の病は癒えておらん。間もなく死を迎えるであろう。その前に上様に家族として最期の別れを告げるつもりだ。近江から美濃、尾張を通り、東海道を進む』



 間もなく死を迎える事を悟り、その前に家族として最期の別れを家族に告げるために江戸へ赴くと言われては重氏も反対出来ない。


 秀康の意思が固いと判断した重氏は秀康に問いかけた。


『某の門人から殿の護衛を選びまする。如何ほどの人数が必要で御座いましょう』



 その言葉を聞いた秀康は重氏に答えた。


『儂の供をするのはお主を含めて十名でよい。供をする者には江戸へ向かうことを他言する事は許されぬと釘を刺しておけ。明日には出立する』



 重氏は細めていた目を開き、秀康に礼をして返答した。


『仰せのままに』


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