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転生したら三国乱世だった件  作者: レモンティー


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第百七章:曹操は劉備に敗北を認めた

曹操はわずかな護衛とともに劉備の陣へ現れた。

かつて天下を睨んだ男の背筋は、敗れても伸びていた。

張飛は睨み、関羽は無言で立つ。

孔明と龐統は少し離れた場所で成り行きを見守った。

停戦の幕舎で、曹操軍の護衛が俺たちの兵を睨んでいた。

張飛も椀を手にしたまま動かない。

劉備は双方の兵に槍を下げさせ、まず負傷者の引き渡しを命じた。

「こちらに弟がいる。生きているかだけでも教えてほしい」

曹操軍の老兵が口を開くと、張飛は無言で水を差し出した。

俺は名を聞き、捕虜を預かる関羽へ使いを走らせた。

停戦は印を押せば終わるものではない。

互いに恐れている人間を、一人ずつ帰すところから始まるのだ。

曹操は「火薬に負けたのではない。人を生かして戦わせる仕組みに負けた」と言った。

劉備は敵を辱めず、「民が再び畑を耕せるなら、今日の勝利には意味がある」と答えた。

曹操が膳に目を落とした。

白粥と豆の汁。

戦勝を飾る豪華な料理ではない。

「捕虜にもこれを出すのか」

「傷ついた兵には、敵味方を問わず温かいものを出します」と俺は答えた。

曹操は椀に手を伸ばしたが、すぐには口をつけなかった。

幕舎の外から、捕虜を迎えに来た家族の声が聞こえたからだ。

張飛は捕虜の引き渡し口で、互いの名を呼び合う兵を見つめていた。

関羽から生存者の名が届くと、老兵は何度も頭を下げた。

張飛は照れ隠しのように「礼は弟に言え」と背を向けた。

戦場では声の大きな男が、この日だけは小声だった。

曹操の側近は、停戦後に帰る村を失った兵の処遇を尋ねた。

劉備は旧曹操軍の兵にも耕地を貸し、望む者には帰郷の旅費を支給すると約束した。

だが土地を奪われた農民と争えば、また戦になる。

俺は各地の村長を呼び、空いた田と水路の状態を確かめる役を引き受けた。

勝利の翌日から始まる仕事の方が、長いのかもしれない。

曹操の護衛が武器を預ける段になっても、陣中には罠を疑う者がいた。

馬超は「わずかな護衛では危険だ」と反対し、趙雲は会見場所の出入口を調べた。

孔明は守りを整えつつ、曹操が降伏を口にするまでの時間を与えた。

龐統は俺を呼び、「勝った側が先に豪勢な宴を用意すれば、相手の面子を潰す」と教えた。

そこで俺は白粥と豆の汁を頼んだ。

敵味方のどちらも食べ慣れた、飾り気のない食事だ。

曹操は差し出された停戦条件を読み、捕虜の帰還期限を指で叩いた。

「約束を守れぬ者は、勝者であっても信用を失うぞ」

劉備はその場で関羽を呼び、引き渡しの日時を双方の将の前で確かめた。

俺は墨が乾くのを待ちながら、期限の一日が誰かの家ではどれほど長いかを考えた。

敵陣では険しい顔の旧臣が問題になっていた。

曹操の将も無能ではない。

こちらが変われば向こうも学ぶし、昨日通じた策が明日も通じるとは限らない。

だから龐統は相手の失敗を笑わなかった。

「人は負ければ考える。考える相手には、同じ答えを見せてはなりません」

孔明も同意した。

二人は意見が一致しているようで、考え始める場所が違う。

孔明は地形と兵の配置から考え、龐統は敵将が何を信じたいかから考える。

俺は二人の議論を聞きながら、必要な物資と運べる時刻だけを答えた。

できないことはできないと言う。

それが軍師の策を現実にする、俺の役目だった。

龐統は停戦条件の履行方法を提案し、孔明は武装解除の順序を示した。

曹操の配下を一律に罰するのではなく、農地の復旧と治安維持を担わせる。

関羽が捕虜交換を監督し、張飛が略奪を禁じる触れを出した。

曹操の護衛の一人が、会談の外で立ち尽くしていた。

故郷がどちらの支配下になったか分からず、帰る道も決められないという。

趙雲は道の安全を確認し、江を渡るまでの護衛を申し出た。

男は礼を言わなかったが、馬の手綱を握る指から力が抜けた。

曹操が敗北を認めた日、俺は勝利の宴から離れて、薄い粥を一椀食べた。

幼いころ、腹をすかせて眠れなかった夜を思い出したからだ。

あのころ欲しかったのは、天下でも名誉でもない。

明日の朝にも飯があるという約束だった。

曹操の旗が下りても、腹をすかせた子が残るなら、俺の戦は終わらない。

劉備が隣に座り、何も聞かずに同じ粥を食べた。


しばらくして彼は言った。

「勝ったあとに何をするか。それをお前は最初から考えていたのだな」

俺は首を横に振った。

「忘れたくなかっただけです」

俺は停戦文書の末尾に、輸送路を通る民間の荷車を保護する条項を加えてもらった。

作戦会議の席では小さな一文に過ぎない。

だが村の商人にとっては、明日の市へ行けるかどうかを決める一文だった。

孔明はそれを読み、黙って印を押した。

夜が明けると、俺は前日の失敗を書き直した。

今日の停戦を英雄譚の一行にまとめれば、救えなかった者の顔が消えてしまう。

炊事係の名、壊れた道具、予定より遅れた荷車の数を残した。

孔明は「勝利の記録より、次に失敗しない記録の方が役立ちます」と言った。

俺はうなずき、余白にもう一行を加えた。

兵が腹を空かせず、民が家に帰れるように。

戦場で作った仕組みを、戦が終わった後も使える形に変える。

その仕事は、まだ始まったばかりだった。

曹操が粥を口に運ぶ前、馬超は幕の外で剣の柄を握り続けていた。

彼には曹操を憎む理由がある。

趙雲はそれを咎めず、ただ隣に立った。

会見が終わり曹操が出てくると、二人の目が合った。

馬超は何も言わなかった。

俺はそれを和解とは思わない。

今日、刃を抜かないと決めただけだ。

それでも、その決断がなければ明日の停戦は始まらない。

劉備は馬超に一礼し、馬超はようやく柄から手を離した。

再会した兄弟の弟は、炊事隊の鍋の底を見つめたまま動かなかった。

「兄は敵の兵だったのに、飯を食わせていいのか」

俺は返事を探した。

曹操を倒すために作った火薬も、兄弟を分けた戦の一部だった。


やがて兄が弟の手から椀を取り、半分を戻した。

「昔みたいに、分けて食おう」

二人は黙って粥をすすった。

俺は幼い日に一杯の粥を誰かと分けられなかった自分を思い出し、鍋の陰で目をこすった。

勝利を祝う声より、椀が触れ合う小さな音が胸に残った。

曹操は去り際に俺へ目を向けた。

「お前があの孤児か」

俺は答えに詰まった。

曹操は小さく頷き、「ならば、天下を変えたのは誰か、一つの名では語れんな」と言った。

引き渡しを終えた関羽が戻り、「名簿にない兵が三人いる」と告げた。

戦死と決めつけられた者の中に、近くの村で手当てを受けていた兵がいたのだ。

俺たちは捜索を続け、日暮れまでに二人を見つけた。

最後の一人の消息は分からなかった。

俺は空欄を埋めず、帰りを待つ家族へ「まだ探している」と伝えることにした。

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