第13話:選択の刻(とき)
――鼓動が遠い。
焼け焦げた左腕から煙が上がり、空は赤く染まっていた。
クロは瓦礫の上に倒れていた。血翼は片方を失い、視界はぼやけている。
「……終わり、か」
そう呟いたとき、耳元で声がした。
《お前はまだ選んでいない。》
兄の声。クロの意識の深層で、それは囁く。
懐に残された“記憶の鍵”――メモリーチップが微かに脈打っている。
「記憶を……書き換える……?」
もしこれを使えば、兄が見た全ての記憶を自分に移植できる。
兄の強さ、決断、恐怖、そして――死。
だがそれは、もはや“自分”ではなくなるかもしれない。
「違う……俺は……俺のままで……!」
クロは手を伸ばす。血まみれの手が鍵に触れた瞬間――
記憶の奔流が溢れた。兄の視点、兄の戦い、仲間たちの死。
その全てが脳を焼き尽くすように流れ込む。
「うあああああああああああああっ!!」
叫びと共にクロの身体が震えた。
それは拒絶ではなく、統合だった。
「ありがとう……兄貴」
クロは、兄の記憶を“継いだ”。
そして自分自身を選んだ。
■《進化形態・第二段階──記憶融合型》
血は再び燃え上がり、黒翼は再生する。
新たな血の鎧が、クロの身体を包む。
「終わらせる。俺の手で、未来を選ぶ」
クロは立ち上がった。敵が迫る中、彼の背後に誰かが降り立つ。
「遅くなったわね、クロ」
振り返ると、そこにはミナの姿。
その瞳は赤く染まり、体には細かな血管のような文様が浮かんでいる。
「ミナ……まさか……」
「ええ。進化したわ。私も――《血統適応者》として」
その瞬間、カナトが不敵に笑った。
「面白くなってきた。ようやく君たちも、“選ばれた側”に立ったようだね」
血と記憶が交錯する戦場で、最終段階への扉が、静かに開かれ始めた――。
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次回予告(第14話案)
第14話「ミナの覚醒」
ミナの進化は、従来の感染者とは異なる“純血の適応者”であることを示す。
そして明かされる彼女の秘密と、隠された“人類再生計画”。
クロとミナ、2人の進化が交差するとき、カナトの正体と真の目的が暴かれる。