第12話:血の翼(ブラッドウィング)
カナトの指先が地をなぞるように動いた瞬間、地面が蠢いた。
そこから這い出したのは、無数のゾンビではない。かつて“人間”だったものたち。
記憶を喰われ、人格を失い、“再構成”された存在――《記憶なき兵士》。
「見せてごらん、君の“選択”を」
クロは血の滲んだ指を握り締める。
皮膚が破れ、骨ごと硬化し、まるで黒曜石のような羽が背中から展開された。
それは、進化の新たな段階――
「《血翼形態》」
サクラが呆然とつぶやく。
「まさか……空中制圧型。完全適応したの……?」
翼をはためかせた瞬間、爆風が起きた。
クロは真上へと跳躍し、空から戦場を見下ろす。
下にいるのは、記憶を失った元人間。
彼らを殺すこと――それが“正義”なのか?
その逡巡の隙を、カナトは逃さなかった。
「優しさは時に、最も大きな罪だよ」
カナトの手が上がる。ドールたちが一斉に飛び上がり、クロを取り囲む。
しかし――
「やめろォォォォォォォ!!」
クロの叫びが響いた瞬間、翼から膨大な量の血が解き放たれた。
その血は空中で螺旋を描き、刃と化して敵を貫く。
《血刃解放――ブラッドシェル・ストーム》
血は、想いの結晶だ。
ミナを守るという誓い。兄の背中。サクラの言葉。
そのすべてが武器となり、クロを強くする。
だがそのとき――
「クロ……逃げて……!」
――ミナの声?
振り返ったその瞬間、カナトの一撃が直撃した。
黒い炎のような攻撃がクロの左腕を焼き、血翼の片方が消失する。
「君の覚悟は、美しい。でも――不完全だ」
カナトは、クロの胸に手をかざした。
「見せてあげよう。“兄”が最後に見たものを」
クロの視界が一瞬で暗転する。
空間が歪み、記憶の深淵が開かれた。
《……クロ。お前がこのウイルスを受け継ぐことになるとは思ってなかったよ……。だが、もしそうなったら――》
《この“鍵”を使え。全ての記憶を……お前自身の命すら、上書きできる……》
「兄……!」
光が戻る。カナトの手の中には、古びたメモリーチップがあった。
「これが“鍵”。君の兄が、君の中に残した最後の選択肢だよ。
さあ、どうするクロ。記憶と共に生きるか、記憶すら超えて進化するか」
> ――選べ。過去にすがるか、未来を切り拓くか。
クロの選択が、世界を左右する。
---
次回予告(第13話案)
第13話「選択の刻」
重傷を負ったクロ。カナトとの決着は先延ばしとなるが、“鍵”の記憶が彼の中で覚醒を始める。
そして、ついにミナの覚醒も迫る。彼女の“進化”は、世界を変える――。




