星のかけら
「遺書はなかった……誰にも何も告げずに独りで逝ったんだ」
「俺はワケがわからなくて……ツアーを、仕事を降板して急いで帰った。日本に着くまで、大丈夫だ、なんかの間違いだからって思いながら」
「けど……」
「あいつ、花に囲まれて眠ってた」
「苦しそうでも辛そうでもない、嬉しそうでも楽しそうでもない、完全な無、だよ」
「ただの無なんだ」
「ずっと後悔してる。そばにいなかったこと、あいつから離れたこと」
「芸能界に入っていなかったら? スカウトなんか受けなかったら? 」
「今も、生きてたんじゃないかな? 26歳の誕生日をちゃんと迎えてたんじゃないかな」
ずっと下を向いて淡々と話していたユウトが顔を上げて私を見据える。
涙をたくさん溜めた目で。
「気安く聞いてごめんなさい……」
眉間が熱くなって、喉もぐっと詰まって、とても堪えたんだけど、ダメだった。
私はユウトより先にボロボロと涙を落としてしまった。
「なんでお前が泣くんだ?」
そうだ、私が泣くのは違うだろう、バカ野郎。
私はママのお葬式を思い出して泣いている。
ユウトのためじゃない。
ママはお花に囲まれることはなかった。
棺の中は空だった。
参列した、誰かが話していた。
可哀想に、遺体は見つからなかったって。
棺の中はカラなんですって。
帰国を1日早めたそうよ?
予定どうりに帰っていればね。
もう10年も経ったのに、思い出せば、まだこんなに胸が苦しくて泣くことを我慢できない。
ユウトなんかついこの間じゃないか。
それなのに……
「ごめんなさい」
「いや、だから、俺は別にお前を責めてないんだ、ただ芸能界ってとこが、信用出来ないから……」
「それも、ごめんなさい……」
「いや、そこはお前が謝ることじゃなくて」
「配慮が足りなくて……」
「ああ、ええと、ティッシュ、どこだ?」
ユウトが箱からティッシュをバババッと引き抜いて渡してくれた。
「すみません、ご迷惑をおかけしました」
ガチャンと入り口のドアノブが回って扉が開いた。
「えっ、奏さん?! 」
シンだった。
慌てた様子で駆け寄ってくると、私の腕を見て痛そうな顔になる。
「なんですか? どうしたんですか!」
「大丈夫、こんなのは。でもなんでここに?」
「ユウトから連絡もらいました、奏さんが1人で来てるって」
「そ、電話した俺が」
「……お前なんかした?」
「えっ!!」
「だって、泣いてるだろ!」
「してないって!! なにも」
「……」
「……」
無言で見合うシンとユウト。
お互いに様子を伺う猫のにらみ合いみたい。
「聞いてたな?」
ユウトの方が先に声を出した。
「バレたか。まぁ、着いたら二人が話してるの聞こえて、ちょっと入ったら気まずいかなぁって、外で待機してた」
「で、なんで今のタイミングで入ってくんだよ」
「いや、やっと、このタイミングで入って来られたんだろ?」
じゃあ、最初に心配した風なのは芝居ってこと?!
ていうか、シンに泣き顔見られたの、超絶恥ずかしいんだけど。
「帰る」
私はソファから立ち上がり、扉へ向かう。
「ユウト、ひとつだけ言っとく」
「フレデリックプロダクションは 、ちゃんと守ってくれるんだ、何があっても。そういう人達のいる事務所なんだ。だから俺は信用してる」
「私からも……一言いいですか?」
「どうぞ」
「あの、辛いことばかりじゃなかったはずです。ステージに立ったから見えた景色と感動があったと思います」
「感動を貰った人もたくさんいて。そのエネルギーだったり、パッションだったりキラキラした、私は星のかけらって思ってるんですけど、それをもらった人はずっとそのキラキラした光を忘れないんです」
「一言が長くてすみません、だから、幸せなときもあって……つながってるんです今でも……ファンの心とリリアさんは」
ユウトがちょっと驚いた顔をする。
亡くなった時期と年齢でだいたい推測は出来た。
彼女が亡くなったとき、どれだけ多くのファンが集まって悲しんだか。
リリアはソロ女性アーティストとしては唯一無二、ドームツアーが出来るほどの人気を誇っていた。
彼女はファンからとても愛されていて、
星のかけらをたくさん降らせてくれた人だった。
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あなたは私のひとつだけの星
ずっと憧れの人
celebrity / IU




