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シナスタジア (共感覚)



AZTOKYOの階段を上がり地上へ出ると、濃紺の空にピンク色の満月が浮かんでいた。


「タクシー呼ぶ?」


ユウトがシンに尋ねた。


「あっ、いいです。歩いて帰るんで」


「えっ、いつも歩いて来てたんですか?」


「うん。そんなに遠くないよ、30分くらい? 走ればもっと早い」


「若いなぁ」


両手をズボンのポケットに突っ込んだユウトが、そう言ってフフっと笑った。


「仕事、何時まで?」


チラリと腕時計を見てシンが聞いた。


「今日はラスト、朝かな帰りは」


「まだまだ長いな。後で連絡する」


「ああ」


「すみません、いろいろとご迷惑をおかけしました」


私は深々と頭を下げた。


「いや、こっちだから。ご迷惑をおかけしたのは」


ユウトも深々と頭を下げた。


「じゃあ、気をつけて」


「さようなら……失礼致します」



私とシンが歩き出すと、ユウトが手を振って見送ってくれる。


首を少し傾けて瞬き、パチリ。


あっ、またあの癖だ。




「送ってくれるの?」


「当たり前でしょう。じゃないと迎えに来た意味がないですよ」


「ま、トモキとヒナタに会っていくのもいいか」


「はい」


私とシンは並んで歩いた。



人の多い繁華街を外れ、住宅街に入ると歩く人もまばらになり静けさに気が解け落ち着く。


「あのさ」


「はい」


「ユウト、ダンストレーナーとコレオグラファーとして契約するのはどうかな」


「……いいんじゃないですか」


「ほんとに?」


「あいつは何かしてた方がいいんですよ、ダンスでも仕事でも……」


「……そうか」


「ユウト……最初のひと月は大変でした。何も食べないからどんどん痩せるし、寝られないから薬ばっか飲んで、ODやらかすし」


「ODって、オーバードーズ?!」


「あのクラブ、実はリリアの母親がオーナーなんですよ。オーナーからすればユウトは息子みたいな存在だから。心配して呼んだんです」


「じゃあ、ダンススタジオの先生も?」


「そうです。オーナーがやらせてます。そうやって毎日をなんとかやり過ごしていけば、いつか時間が解決してくれるんじゃないかと」



「時間は解決してくれないよ……全然」


「……そう、ですかね」


「ユウトにとっては、彼女は世界だったんだよ。その世界が突然何の前触れもなく消えちゃったんだから」


昇るのが当たり前だった太陽が昇らなくなったら、いつまでも夜が続くだけなんだ。



「カリンさんに冷たく出来なかったのも分かる気がする」


「人の気持ち程、こじらせたら厄介なものはないです」


「ちょっと、さすがシンガーソングライター、奥深そうなこと言うじゃん。良い歌詞たくさん持ってそう」


「実は、歌詞はあんまり得意じゃないです。曲先行なんですよね、後から歌詞つけるタイプ」


「初めてシンの歌聞いた時に思ったんだけど、もしや、絶対音感、あるでしょう?」


「はい多分。奏さんもありますか?」


「うん。なんかあったらあったでこれも厄介じゃない?」


「そうなんですよ、ちょっとした音のズレが不快に感じたり」


「そうそう、でね、これ初めて人に話すんだけど……目の前に音符が浮かぶの」


「ええ?! わかります!!」


「うそ、ほんと?!」


「はい、僕の場合は色がつくんです!」


「カラー音符?」


「あ、ちょっと違います。例えばC()なら緑、基本虹色の七色らしくて、D()は青、m()は藍、そこから紫、赤、橙、黄色ってなるんです。オクターブ上下する場合は明度が変化するんです」


「#(メジャー)や♭(マイナー)は?」


「彩度が変わります」


「はぁぁ!? じゃあ、今鳴いてる虫の声は?」


「うーん、藍色で♭(マイナー)に変化するんで暗めの藍色」


「じゃあ、和音は?! 全部混ざって別の色?」


「混じるわけじゃなくて平行に並ぶというか……オーロラみたいな感じですかねぇ」


「凄い、シンの頭の中ってまるで宇宙だね」


「内緒ですよ。変人扱いされるんで」


シンが唇に人差し指を立てる。


「見てみたいな、そのカラフルな音」


そんな話をしているうちに家に着いた。


「ただいまー!」


私たちがエントランスへ入ると、すぐに姫ちゃんがやってきた。


「お帰りなさい、あら」


姫ちゃんがシンを見て暫し固まる。


「メンバーNo.1だよ」


「鹿原シン君ね!まぁ、なんて格好いいのかしら! 格好いいの最上級ってなんて? まぁ、わからないけどそれ」


「はじめまして」


「こちらは食事を作ってくれる姫ちゃん」


「よろしくお願いします」


シンが姫ちゃんに丁寧なお辞儀をする。


「奏さーん!」


ヒナタがハニタロウを抱いてパタパタと廊下を走ってくる。


「遅いですよ!!」


ヒナタが何故かプンスカ怒っている。


「はい?」


「門限ですよ! 門限は22時です! もう1時間も過ぎてます!」


「もんげん、て??」


「契約書に書いてありましたよ?」


「私も?」


「当然でしょ? 同じ屋根の下に住んで、同じ高校生なんですからっ!」


山口さん、高校生に22時って門限は早くないですか?



+++*+++*+++


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