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ETENITY00  作者: Aret
1章・・・旅立ち
22/113

22話・・・ヴェネトラ10

作品を読みにきて頂き感謝です。

今回でヴェネトラ編は完結です。

ティアマテッタ軍隊、若き軍人の日記より。

本日午後五時十六分。ヴェネトラ国工場地帯マスタング商会より一報あり。黄昏の正義壊滅。確保の要請及び復興の支援の願い出あり。我々は早急に空中戦艦に乗り込み出動した。

何故マスタング商会が黄昏の正義と交戦することになったのか。何故ティアマテッタ軍に応援要請しなかったのか。それはマスタング商会が指名手配犯を匿っていたからだった。(なお、指名手配犯数名は冤罪だったためリストから削除されている。)その伝達をメルカジュール警察から受けていた我々は要請が来ても出動は出来なかった。まぁ、呼ばれてもいなかったが…。

自分はまだ戦争に出たことは無い。国を守るために尽力している新兵だ。だが、到着したヴェネトラ国工業地帯の光景に言葉が詰まった。一角は更地となり、多くの建物が倒壊、鎮火後の煙を確認。目視出来る限りでも死者は多数。情けないが、あまりの酷さに呆気に取られ、先輩の掛け声により我に返り、任務へ掛かる。

黄昏の正義の生存者の確保。死者の安置も終わり、飛び立つ直前、少佐がジョン・マスタング氏と会話をしていた。どうやら、今回の戦いに貢献した人物達をスカウトしたいということだった。だが、マスタング氏は少し考えると、断りを申し出た。

「入りたい奴がいれば勝手にティアマテッタに行くだろう。コネを使って入るより、実力で入隊したほうが本人のやる気にも繋がる」と仰っていた。

活躍した皆さんは治療中ということでお会いすることは出来なかった。

今回の件で黄昏の正義が警察と癒着していることが完全に判明した。もう言い逃れは出来ないだろう。これから警察関係者にメスが入る。腐敗した正義を、正しくするために。


・・・


黄昏の正義、コア達との戦闘から五日が経った。リアム達はあの後皆と無事合流。待っていてくれたマイラとジョン、ジル達と勝利を喜び分かち合った。そしてマイラが作ってくれていたレモンの蜂蜜漬けを食べ疲労を癒していた時、安堵で緊張が解け、一斉に皆で倒れた。それもそうだ。皆勝利に浮かれていたが、まともな手当ては受けず、呑気にレモンを食っていたのだ。リアム達は大急ぎで病院に運ばれ、手術と入院で五日間を過ごした。

「はぁ~。今日で看護師の姉ちゃん達ともお別れかぁ。通信ID聞いちゃおっかなぁ」

「その女性関係のだらしなさ、本当尊敬できねぇ」

病院のパジャマから私服に着替えながらリアムが嫌味を言う。傷跡はもう少しで完治しそうだ。痕も残らないだろう。

「それよりエアル兄。本当に固有スキル?発動したときの事覚えてないの?」

「あぁ、全く。落ち着いたら記憶が鮮明になるかと思ったんだが…全然思い出せん。ただ、真面目にリアムとヘスティア、そしてミラ達を守ることしか頭になかったんだ。そう考えていたら、一瞬で状況が変わっていてすっげぇビビったけどな」

エアルはお手上げのポーズを取る。

「そっかぁ」

リアムはベッドに座り直し、今回の事を、腹の中では悔しくて仕方なかった。自分では強くなったつもりでいたのに、コアと対等にすら戦えなかった。そしてミラに怪我まで負わせた。

(井の中の蛙ってか。絶対に強くなってやる…じゃなきゃ、敵討ちどころか、大切な人達を守ることすらできねぇ…!)

思わず握りこぶしに力が入った時だった。

「リアム!エアル!さっさと退院するわよ!そんでバーベキューするの!あぁ、肉はレンに頼んで高級肉を用意してもらっちゃったぁ♡快気祝いだって!抜けた分の血、補充するわよぉ!」

相変わらず豪快に入室してくるレイラに、リアムは苦笑いした。

「レイラちゃん、相変わらず元気だねぇ」

「…お前、ヴィップルームで入院生活送ってたらしいな」リアムが恨めしそうに言う。

リアム達が入院していた病棟は主に部屋は四人部屋使用。そしてこの階は主に男性が入院している。夜中、イビキや呻き声、意味不明な寝言、不気味な音、怪しい音や息遣い…などなど、リアムはちょっと怖い思いをしながら就寝していた。

「あぁ?そうなのよ。なんか一般病棟が今回の戦闘で負傷した人達でいっぱいだから、今はヴィップルームでお願いしますってねぇ。悪いわね、快適に過ごさせてもらったわ。そしたら隣のヴィップルームにレンが入院してたの!まぁあの子はラードナー家の子だからねぇ。当たり前か!」アッハハハ!とレイラが笑う。

(ぜってぇレンが手回ししただろ)

そこら辺、レンの優先順位度が歪みなくて逆に尊敬する。仮にも一国の王女であるヘスティアを差し置いて、レイラをヴィップルームに入れるのだから。

「さ。ジルが外で車を待機させてるわ。早く行きましょう。女子達は皆もう外で待ってるわよ」

「あ、あぁ。わりぃな、遅くなって。もう出られる。行こうぜ」

こうしてリアム達の入院生活は終了した。

リアムはこの先の事を考えていた。ミラを連れていくか、レイラ達の元に預けるか。強くなりたい。強く…

そして一方、ジョンは魔法無効化装置が設置されていた部屋で掃除をしていた。いくら地下とは云え、ビルの倒壊と爆風のせいで天井が壊れたり、壁に罅が入ったり、工具箱や小物が落ちたりしたからだ。そして、スイッチの部分が割れていることに気が付く。

「…?なんで割れてんだ」

触ると簡単にボロボロと壊れた。そして、スイッチの中にチップが隠されていた。

「んぅ?文字が書いてあるな。親友へ…これは」


「肉、肉と煩いですが、食事の前に見ていただきたいものがあります」

ジョーイが手を叩き、注目を集める。リアム達はラードナー家の映像ルームに集められていた。

「見ていただきたいものって?」マノンが質問する。

「兄さんが見つけた、アイアスさんが残した映像です」

リアムとミラが、一瞬緊張する。それを察してか、周りも静かになった。

「では、流します」

ジョーイがチップを再生レコーダーに入れると、映像が流れ始める。


『あぁっと…今はティアマテッタの仕事が終わって、急遽ヴェネトラのマスタング商会にいる…来てます。クロエはもう寝た。俺の思い付きで急に立ち寄ったからな。ジョンも驚いてた』

日付は、二年前の、アイアスとクロエが殺害される前日だ。

『えぇっと…まぁ、このチップを見つけたってことは、ジョンが考えた無力化装置を使う日が来たって事だろ?そん時俺達は生きて一緒に戦ってんのかな…でも、多分俺達は殺されているだろう。残念だが、一緒にこの映像を見ていることはないだろう。もし生きていたら、見られる前に奪うしな。だから、直接教えてやることが出来ない代わりに、記録に残そうと思う。リアム達に伝え残したいことを』

リアムは思わず奥歯を噛みしめた。父は自分達が殺されることを予期していた。

「リアム…」隣に座りミラが、心配そうに手を握ってくる。

「大丈夫、ありがとうな」

『最初にだが…弟のネストが生きていた。何処かに潜伏して復讐の機会を狙っている。あの時、ジョンには言えなかったが、ネストは生まれたばかりの我が子を殺されている。それは俺もこの目で確認した。川に沈められた…産まれて間もない赤ん坊をだぞ!…すまない、続ける。そして劣悪な場所で出産を強いられた妻は肥立ちが悪くて死んでいることが解った。だから、いつかネストはゼーロの街を襲撃するはずだ。妻と、我が子の復讐のために。…そして次に。ミラの従兄のナノスも生存していることが解った』

ミラはその言葉を聞いて、頭が真っ白になった。心臓が一瞬、止まった感覚がした。そして鼓動が速くなる。

『ミラには辛い事実だろうが、ナノスもゼーロに良い感情を抱いていないからな。ネストはナノスと手を組んでいる。気をつけろ。奴等は闇の底から虎視眈々とゼーロを狙っている』

「ナノスお兄ちゃんが、生きてる…しかも、復讐って…」

ミラは口をふさぎ、小さく呟いた。しかも、復讐に関わろうとしている?あのナノスが?ミラにとっては、良いお兄ちゃんとしての記憶で止まっている。アイアスの言う事が信じられなかった。

「…ミラ、一旦止めるか?」

リアムの声に我に返る。

「ううん、大丈夫。私も、知りたいの…出来る限りの事」

『無属性の固有スキルについて説明する前に、ゼーロの成り立ちと家系について説明しなきゃならない。長くなるが聞いてくれ』

ゼーロの街が出来た頃。それはもう遠く、遠くの昔の話。

ゼーロの街を築き上げたのは、当時王として無属性を率いていたネイサン家だった。そしてネイサン家には分家があった。それがメイヤーズ家。王としてネイサン家は表舞台に立っていたが、メイヤーズ家は政治や王室には一切関与はしていなかった。

そして、ネイサン家を守るにあたり結成されたのがアーレント家、ランドルフ家だった。

アーレント家は騎士とし、表で活躍し、戦い王室と国を守っていた。

そしてランドルフ家は暗部とし影で蠢き、情報を集め、ネイサン家を狙う暗殺者を殺していた。

そして長い年月の末、王家としてのネイサン家は終幕し、一般家庭となった。だが、現在でも政治に携わり世界に影響を与えている。上流階級、と言えばいいだろうか。

王家が無くなり、騎士も暗部も必要なくなった今は、アーレント家もランドフル家も一般家庭として定着。もう王家に使えていた歴史さえ忘れ、自由に生きていた。

『そして、なぜネイサン家とメイヤーズ家との分家が出来たか。そこに固有スキルが関わってくる』

ネイサン家を名乗ることを許された一族は、固有スキル・タイムパラドックス…時間を操作する魔法。未知数であり、下手をすると自分への跳ね返りもあるため、使用するのに慎重さが必要となる。

メイヤーズ家に分類されていたのが、固有スキル・ヒーラー…この世で唯一治癒魔法を使えるスキル。ただ、ネイサン家の血筋なので、タイムパラドクスを覚醒させる人物もいたため、その場合は養子としてネイサン家に迎え入れられていた。だが、ここ数百年ヒーラーを発動させるメイヤーズ家の子孫は現れていない。

アーレント家。固有スキル・クラスブースト…一時的に魔力クラスを一クラスアップさせる。最大で三クラスアップ。

ランドルフ家。固有スキル・アウェイクニング…一時的に全属性のスキルを使用可能にする。未熟だと一つのスキルしか使用できない。

『大体はこんなところだろうか。言えることは、無属性は各家系によって固有スキルが違う。ミラのお父さんも、ネイサン家の固有スキルを調べる検査でヒーラーと判断されたから分家になったんだ。ゼーロの歴史と、固有スキルの話も出来たし…こんな所かな。あぁ、ジョン、マジックストーンにたっぷり魔力供給しといたからな。俺に感謝しろよ。それと…最後に。リアム、強くなれ。息子はいつか、親父の背中を超えていくもんだ。なんてな、ハハハ!』

ここで映像が止められた。

映像ルームは、しんと静まり返り、重い空気になっていた。

「…大丈夫?あんた達」

前席に座っていたレイラが振り返り、リアム、ミラ、エアルを確認する。

「あーなんていうか、まさか二年越しに父さんの顔見るとは思わなかったぜ…つーか、固有スキルは解ったけど…一気にゼーロの街が嫌になる話聞かされたわ」

「私も…追放された従兄が生きていて、嬉しいはずなのに、復讐しようと企んでるって知って…しかも、私ヒーラー?治癒魔法ができる?!でも私、今回の戦いを得てやっとクラスBなんだよ!そこからAまで…しかもスキル発動が数百年いない?えぇ」

「じゃあ、あの時の状態ってスキル発動してたってことか?感覚とか一切思い出せん…これじゃあ自由自在に発動できねぇ。てか、夢物語みてぇな歴史で未だに信じられん」

なんだかそれぞれで新たな悩みが出来てしまった状態に、レイラとレンは顔を見合わせて肩をすくめた。

今日のバーベキューはお預けかと思われた時だった。

グー、と空気を無視して誰かのお腹の虫が鳴る。

「あ、ごめん…私だ」えへへ、とマノンが誤魔化し笑う。

「帰ってきたとき、お腹空いたって言ってしましたもんね」

マイラが微笑むと、マノンもそうなんだぁ、と笑い返す。

見ていたヘスティアが溜息を吐くと、席から立ち上がった。

「もう過去の出来事を変えることはできません。リアムさんの叔父様が復讐しようとしている気持ちも解ります。そして、故郷を嫌いになってしまいそうな気持もわかります。ですが、それでも貴方達は亡くなったアイアス様から託された、復讐を止めるという行動に移さなければなりません。エアルとリアムさんはほっといても強くなるでしょう。ミラさん、もし強くなり、Aクラスまで上り詰めたいなら私が指導を買って出ます。クヨクヨする時間も必要でしょうが、いつまでも引きずっていたら、時間はあっという間に過ぎますよ」

全員の視線がヘスティアに集中する。思ったよりも目立ったことに、照れたのか咳払いをした。

「ヘスティア…お前、変わったな。いい意味で」エアルがニヤッと笑う。

「ここに居ると引っかき回されるみたいでいやだわ」

「でも、とても素晴らしいお言葉でしたわ、ヘスティアさん」レンの眼が輝く。

パンパンとレイラが手を叩く。

「はいはい!暗い気分の時は、ご飯食べる!お腹が減ってたら、気持ちも落ち込むわよ?」

リアムとミラ、エアルは顔を見合わすと噴き出した。

「そうだな。折角の高級肉食わないと損だよな」

「私もお腹空いちゃった!これからヘスティアさんに指導してもらうんだもの、体力つけなくちゃ!」

「俺は固有スキルの発動の仕方でも教わろうかなぁ」

皆がワイワイとしながら映像ルームを出ていく中、ジョンだけが残っていた。

「師匠?行かないの?」

「片づけてから行く。俺の肉、ちゃんと取っとけよ」

了解~、とレイラが手を振り、部屋から出ていった。一人になったジョンは、もう一度映像を再生させる。

『ジョン、マジックストーンにたっぷり魔力供給しといたからな。俺に感謝しろよ』

「アイアス…何故俺を置いて死んだ…相談してくれれば、俺だって…お前はいつだって、相談無しに独りで抱え込む。そして俺はいつも、何も知らずに後から知る…その気持ちを、お前は考えたことがあったか…?バカアイアス…」

ジョンは、静かに肩を震わせた。


「あれ、ジョンのおじさんは?」

「師匠なら片づけてから来るって。それよりマノン、たくさん肉を食いなさい!成長するには肉よ!肉!」

「おうよ!レイラ姉!」

「ちょっと、マノン。野菜もお食べなさい。バランスよく食べないと不摂生ですわよ」

ラードナー家の庭で、快気祝いと祝勝会を兼ねたバーベキューパーティが始まっていた。

戦った従業員と、住民達もいる。

「レイラさん、レンお嬢様!」

まだ子供の少女達が駆け寄ってくる。

「私、将来なにになろうか迷ってたけど、レイラさんみたいな武器職人になって、人を守る武器を作るって決めました!」

「わたしは、レンお嬢様みたいに強くて素敵な女性になりたいです!そして警官になって、ヴェネトラを正義の街にするの!」

少女達がレイラ達を囲み、わちゃわちゃしている光景を、リアムとミラが眺めていた。

「ああやって色んな繋がりが出来て、受け継がれていくんだろうな」

リアムが微笑ましそうに眺める。

「なんか、かっこいいね。みんなの憧れの対象になるって」

「ミラはいたのか?憧れの人とか」

リアムの何気ない質問に、ミラはドキッとする。ミラにとっての憧れとは、恋慕として憧れであって。今も昔も、ずっと憧れて、好きな人はずっと同じで。

「い、いるよ!あのね、それはリ!」

「すみません、マシュマロを焼いてビスケットで挟んだデザートです…あら、お邪魔しちゃいましたか?」

マイラが申し訳なさそうに眉を下げる。

「ううん!全然!丁度、甘い物、食べたかったー!」

「すげぇ棒読みだけど大丈夫か?」

マイラはまた独特のフフフと笑みを見せた。

「それより、マイラはこれからどうするんだ?メルカジュールに帰るのか?」

リアムが質問すると、マイラはうーん、と考える。

「そうですねぇ。叔父さん達にもとても心配かけましたし、今後のことを話し合いました。私は、初めてメルカジュールから飛び出て、知らない道を車で爆走して、初めて来たヴェネトラで想像も出来ない経験をしました。それに…ミラさんにはお話ししたんですが、このまま皆さんと遊び続けたい、旅を続けたいと思ったんです。だから、しばらくは旅でもしようと思うんです」

「ねぇ、それなら一緒にティアマテッタに行こうよ!そこを拠点にしてさ、気が向いたらふらーって旅に出て、そんでこらーって帰ってくるの。どうかな?」

ミラがマイラの手を取る。

「ありがとうございます。でも、それだとお二人に負担がかかりませんか?」

「俺達は気にしないけど…」

「それなら!!私達と一緒に来ればいいじゃない!!」

ついさっきまで少女達と会話を弾ませていたレイラが突然現れた。

「私とレンで、しばらく自由気ままに旅でもしましょって話してたの。知らない国や、土地に行って沢山の事を知りたくなったの。各地で色んな武器もあるかもしれないしね」

「故郷に近いティアマテッタを拠点にして自由に旅をするのもいいでしょうが、女性一人の旅も危ないものですわよ。マイラ。最初に声を掛けてきたのは貴女でしょう?お姉様が飽きるまで、最後まで付き合ってみたらどうです」

マイラは考えた。確かにリアム達に着いて行き、ティアマテッタを拠点にしてもいいだろう。そして満足したらメルカジュールに好きな時に帰る。それもいいだろう。だが、そしたらリアムとミラのお邪魔になってしまう…。それなら、自由気ままに、女子同士の旅を楽しみながら世界を巡るのもいいかもしれない。

マイラは答えを決めると、レイラ達を見る。

「では、お言葉に甘えてレイラさんとレンさんに着いて行こうと思います。ミラさんとリアムさんのお邪魔になってしまうのは、気が引けますしね」

「マイラ?!」

動揺したミラがマイラの肩を掴む。キャンキャンと騒ぐ二人を置いて、レイラがリアムに質問をする。

「エアルとヘスティアさん。マノンはどうするか聞いてる?」

「さぁ。エアル兄は俺の両親の事件追って旅してるようなもんだからなぁ…一緒に来るとは思えないな。マノンは先生のことがあるから、帰るんじゃないか?」

すると、酒で酔っぱらったエアルがリアムに肩を組み絡んできた。

「なに寂しい事言ってんだよぉりあむぅ。みらの特訓もあるし、へすてぃあを連れて一緒にてぃあまてったに行くにきまってんだろぉ?」

「呂律が怪しいぞ」

「まのんは面白そうっていって俺達についてくるぅ。だから、自動的に俺達はごにんになる!やったなリアム!初夜は見とどけてやる!」

「なんの話?!?!?キショ、近寄るな!あぁ面倒臭い酔っ払いだなぁ!!!」

こうして、夜は更けていった。そして、これからヴェネトラは復興に向けて進んでいく。


…これは後日談だが、復興が落ち着いた頃、工業地帯から外れた小さな雑木林の中に、綺麗に清掃された場所があった。そこには、三つの名も無き墓が建てられていた。


・・・


ヴェネトラから帰還したコアとエルド、メイラは、治療もせずにすぐさま科学者にいる研究室へと足を運ぶ。

「ただいま帰還しました」

入室すると、ナノスとネスト…そしてエルド、コアの上官であるソイル・サンドバーグが待っていた。

「ソイル様、ただいま帰還いたしました。ネスト様もいらしていたのですね」エルドは胸に手を当てお辞儀をする。

「丁度、用があってな」ネストが答える。

「エルド、コア。随分軍服に荒が目立つな」

ソイル・サンドバーグ。四十代前半くらいだろうか。鋭い三白眼でエルドとコアを睨んでいる様にも、無感情で見ているようにも取れる視線。手を後ろで組み、そこに居るだけで威圧感を放ち、重い空気にさせる。エルドがどう言葉を繋げようか迷っていると、お気楽な声が割り込む。

「とりあえず、お帰り、諸君。君達にしては珍しく、随分派手にやられたみたいだな」

そんな空気を壊すのは、ナノスだった。ナノスは椅子に腰掛け、ふらふらと左右に椅子を回す。

「はっ。途中まではコアが有利だったのですが…メイラの映像を見ていただいた方が早いでしょう。メイラ」

エルドが声をかけると、メイラは機械の前に立ち、コードの付いたコンタクトレンズを目に入れる。

『脳内記録映像再生』

すると、メイラが見てきた光景が映し出される。そしてナノスは倍速すると、エアルが固有スキルを発動し、コア達を圧倒する映像が流れる。

「ほう!エアルがやっと覚醒したか!ハッハッハ!吉報、吉報!この収穫だけでも、今回ヴェネトラを攻めただけあるよ。いやぁ、素晴らしい」

ナノスは嬉しそうに両手を上げてクルクルと回る。まるで無邪気な子供みたいに。

「ナノス様、奴の固有スキルなど聞いていません。ましてや、身体能力ではなく、クラスを底上げしたかのようなスキル…!」

コアの発言に、エルドが眉をピクリと動かす。

「はぁ?出発前にナノス様から説明されたでしょう。エアル・アーレントの固有スキルはクラス・ブースト!クラスがワンランクアップすると!覚えていないのですか?」

「俺は聞いていない。お前だけが聞かされたのではないのか?」

「貴方もいましたよ!隣に!エアルの事ばかり考えていたから聞きそびれたんじゃないんですか?!」

「リアムの事も考えていたぞ」

「そうじゃなくて!!」

これ以上会話させると、エルドがヒートアップしそうなので、ナノスがストップをかける。

「まぁまぁ、喧嘩しない、喧嘩しない。男同士の喧嘩は見ていても暑苦しいだけだよ」

ナノスが両手でどうどうとジェスチャーし、落ち着かせる。コアは相変わらずの仏頂面だったが、エルドはどこか不貞腐れた顔だった。

ソイルが眼を閉じ、溜息を吐く。

「すまないな、ナノス。時折、彼等の喧嘩には呆れるものがある」

「はは、いいじゃないか、仲良しで。男同士がベタベタしながら友情をはぐくまれるよりも、喧嘩してくれていたほうが見応えはあるよ」

ナノスは笑う。

「そうだね。エアルのスキルはクラス・ブーストだ。そしてリアムも、ランドルフ家だけの固有スキルがある」

「それは!一体どのようなスキルなのですか?!」

コアが一歩前へ出て、かなりの勢いで食いつく。

「全属性の固有スキルを使用することだよ。奴が全てのスキルを纏った時のことを想像してごらん?とても楽しいんじゃあないかな」

全スキルを身に着けるということは、全身に攻撃ができる鎧を装備しているも同然だろう。それが、まだ強くなる発展途上のリアムが完全に扱えるようになった時…コアは想像し、高揚し身震いする。

「メイラ。他にどんな面白い子がいたかな?」

ナノスが訊くと、メイラは自分で操作していく。

「この子。この子達、楽しかったです。優しかったです。お姉ちゃん達殺されたけど、楽しかったです」

二画面に映ったのは、ミラとマノンだった。

一瞬、ネストの指先がピクリと動く。

「おぉ!ミラ!やはり美人に成長している!あぁ…発育が良い…弄んでくれと主張している様じゃあないか!ところでメイラ、この青髪の娘の名は?」

「えっと、マノンって言っていました」

「マノンだと?!」

ネストが大声を出し、皆驚き、ネストの方を見る。

「ネスト様、どうかなさいましたか…?何か、マノンという少女に心当たりでも?」

「いや、何でも無い…忘れてくれ」

「ふふん。予想をしてあげよう、大方、昔殺された恋人の名前と一緒だったとかかな?ネスト・ランドルフ君?」

「なっ!ランドルフとは、リアムと同じ苗字!では、ネスト様も固有スキルを使用できると…?!」コアが声を震わせる。

「そうだよ。固有スキル、使えるよね?ネスト?」

ナノスはネストまで近寄ると、柔らかい笑みを見せながら顔を覗き込んだ。ネストは嫌がるように、ナノスを睨む。

「いやぁ、しかしまぁ、可愛い少女ではないか。メイラのお友達として迎えてもいいかもしれないよ?さてと…報告は以上でいいかな?二人は下がっていいよ。メイラはメンテナンスをしよう。ネストはまだ私とお喋りがしたいなら残っているといい。ソイルは今後の事を話しに来たんだろう?作業をしながらでも構わないかな?」

「あぁ、構わん」

なんだか最後までナノスに振り回された気分だった。

エルド、コア、ネストは研究室を出る。

「ネスト様、退室されてよかったのですか?」エルドが尋ねる。

「あぁ。アイツといると気分を害される」

ネストはさっさと廊下をあるき先へ行ってしまった。

(リアムはネスト様のご子息なのか…?いや、ナノス様がハッキリとリアムの両親は殺害したと仰っていた。なら、親族…それに、マノンという少女の事も引っかかる)

他人の家族のことに首を突っ込むのは止めておこう。敵ならともかく、ネストの事だ。心配をし、こっちが気を使って行動を起こす必要もないだろう。エルドは溜息を吐く。

「黄昏の正義も壊滅。きっと今頃ティアマテッタの軍隊に捕獲されているでしょうね。これから、アマルティアはどうしていくのやら」

「安心しろ。ここに居る奴等は先鋭だ。黄昏のように半端者はいない」

アマルティア…どこかに潜伏する、世界の転覆を謀る者達が集った反逆軍。追放された者、罪人として逃れてきた者、復讐を誓った者…。ここに集まった人間は、皆人を恨み、殺したがっている。


・・・


「オラァ!!!起きろガキ共ぉぉおお!!!」

ジルの煩い声で目を覚ます。

「顔洗え!飯食え!そしたら外へ出ろ!いいな!ガァハハハハ!!」

「朝から凄まじいな、ジルさん」

リアム達は朝の支度をし、朝食を終えると一旦部屋へ戻る。メルカジュールから、残してきてしまった荷物が届いたのだ。荷物を整理する。

リアム達は今日でヴェネトラを旅立つ。

リアム、ミラ、マノン、エアル、ヘスティアはティアマテッタへ。晴れて一般人に戻ったリアム達はパスポートも無事入手した。

レイラ、レン、マイラは旅行の続きをする。行先は決めていない。

そして、全員が外へ出ると、そこには全長三十メートル程の飛行艦が二隻並んでいた。

「これは俺達兄弟からのプレゼントだ。これに乗って、お互いの目的地まで行くといい」

飛行艦の中は居住部屋と、空母のように外に出られる設計になっていた。外に出ても、飛ばされないように強化硝子で覆われている。

「食べ物は冷蔵庫と冷凍庫に一週間分は詰め込んどいた。無くなったら大都市あたりで買い足せ。大都市なら、街の端っこには飛行艦を止められる場所くらいあるだろう」

「師匠、復興の手伝い、本当にしなくていいの?」

レイラが心配そうに訪ねる。

「心配するな。お前に手伝われたら、今度は街全体を兵器にされそうで怖いからな。世界の広さに驚いてこい。そんで、いい街があったら、定住して武器屋でも開きな」

「そういうのはお嫁に行く時に言ってよ!」

レイラはジョンに抱き付いた。

「帰ってくるからね」

「たまにでいいわ」

レイラが離れ、次はリアムがジョンの前に立つ。

「ジョンさん。本当にありがとうございました。落ち着いたら、必ず連絡します」

「あぁ、そうしてくれ。アイアスの息子なら、俺の息子でもあるみたいなもんだ」

「ジョンさん…」

「そうだ。ティアマテッタにアイアスが買った家がある。留守の間は管理してもらっていると聞いた。玄関の鍵はマジックウォッチで開く。試してみるといい。それと、ティアマテッタには飛行艦停泊場がある。そこにランドルフ家の停泊場があるから、使うといい」

「家?!停泊場?!父さん、本当なんも教えてくれないで…たく」

「ハッハッハ!アイツの悪い癖だ」

リアムが困ったように頭を掻くと、ジョンが手を差し出してきた。

「来てくれてありがとう、リアム。お前はやっぱりアイアスの息子だな」

「俺も。ジョンさんが父さんの親友だと知れて、よかったです」

握手をすると、リアムはミラ達の元へ戻る。

「ちゃんとお別れできた?」

「あぁ。…いいのか?俺に着いてきて。ミラも、レイラ達と旅してもいいんだぞ」

リアムがなんとなく探ってみる。柵や、ミラと相談した。また危険な目にあう可能性のなか着いてくるか。レイラ達と安全に争いに巻き込まれない、旅に行くか。

「言ったでしょ。私は生活面担当兼戦闘要員になるの。もうおんぶに抱っこにはならないわ!頑張らないと!」

ミラは二カッと笑い、グーパンチをしてみせる。思わずリアムも笑ってしまい、ミラのグーにグータッチでお返しする。

「本当、お前って頑固だよな。これからもよろしくな、ミラ」

「うん!」

エアルの前に、ジョーイが眩しく輝く車を一台乗ってきてみせる。

「エアルさん、これで車のチューンナップは完了です。 ハイスペックにしておきました」

そこには、ピカピカと輝くボディと、新品のタイヤに交換され、見事に生まれ変わったエアルの愛車がそこにいた。

「お、俺のR!あの崩落でダメかと思ってたんです!!あ、ありがとうございます!すげぇ!カッコいいです!!ジョーイさんに整備してもらったこと、一生の自慢です!」

エアルはヤッホーと叫ぶと高くジャンプする。

「喜んでないで、さっさと飛行艦に収納しなさいよ」

ヘスティアが促すと、エアルは「はいはい」と適当に流し乗車する。

「あぁ…このフィットする感じ…最高だなぁ」

エアルはエンジンをかけると、徐行し、飛行艦の中へ駐車していく。

「カッコイイなぁ。私もティアマテッタに行ったら車の免許、取ろうかな」

マノンがエアルの車を見ながらポツンと言う。

「いいですね。新たな目標が出来ることはいいことです」

「へへ、ありがとう!ティア姉!」

「ティア姉…」

そして、マスタング兄弟に別れを告げると、二隻の飛行艦は上空へと旅立つ。そして、左右へと別れると、片方は目的地に向けて。そしてもう片方は気まぐれの旅が始まった。

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