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ETENITY00  作者: Aret
1章・・・旅立ち
20/113

20話・・・ヴェネトラ8

作品を読みにきて頂き感謝です。


ジョーイの元に、マノンから連絡が入る。

「マノンさん、どうし、」

『ジョーイさん、大変なんだ!レイラ姉が暴走しちゃって手が付けられないんだ!』

「レイラが?」

『マスタング商会を陥落させられて怒ったんだよ!』

横で聞き耳を立てていたレンは、やっぱりと思った。武器を愛し、マスタング商会を愛していたレイラが、破壊されたビルを見て正気を保っているとは思えなかった。

「ジョーイさん、ここはわたくし達にお任せを」

「ですが」

「相手はあの女ひとり。わたくしとミラさんがいれば無敵ですわ」

レンが微笑めば、ジョーイは額に手を当て、数秒考えたのち来た道を返す。

「レイラの所へ行きます。命が脅かされる場合、必ず逃げてください。約束ですよ」

「わかりました」

ジョーイは急いで走り出した。


レイラは我を忘れたかのように、または修羅のように化していた。

ダムダム弾に改造した魔弾をマシンガンでぶっ放し、容赦なく姉妹を襲う。

「あのお姉さん、さっきと全然違うなぁ…挑発しちゃったかなぁ。まぁでも、楽しいからいっか♡」

アレークは鞭で応戦し、魔力を供給するとボディとテールが氷の蛇へと変形し、猛スピードで銃弾を避けレイラの腕に噛みつく。

「っ!」

レイラは太ももに隠し持っていたサバイバルナイフで蛇の首を切り落とす。

「お姉さぁん、霜をそのままにしておくと凍傷になって腕や足切断することになりますよ?」

しかし、レイラは無視して無謀にもアレークに突っ込んでくる。

「無謀だなぁ」

アレークはレイラに向かい鞭を短く変形させ剣のように鋭くし、突撃してきたレイラの腹に刺した。そしてテールの部分を釣り針のようにくねらせ、レイラが簡単に引けないようにする。

「レイラ姉!今助けるから!」

メイラと攻防していたマノンがレイラを助けようとアレークに接近を試みるが、メイラの大剣が振りかぶってくる。

「うわぁ!」

「逃げないで」

「逃げてない!助けに行くの!」

マノンが魔弾を撃つが相殺されてしまう。…というか、先程より大剣が大きくなっている気がした。

「お姉さんの妹さん、健気ですね。こんな無謀な戦い方して自滅するのに助けようとして。可愛いでしょう?妹さんの事」

「…はぁ?」レイラは朦朧とした意識の中、反応を見せる。

メイラと攻防と続けていたマノンに、アレークの視線が移る。

「メイラ」

「わかった。反発魔法」

メイラは倒壊した建物に手を当てると、金属片が浮上し、マノン目がけて発射される。

「うわぁ!」

何とか避けるが、一つがマノンの額に当たる。

「いたっ!」

よろめいた隙を突かれ、脹脛に異形丸棒が突き刺さる。

「うあぁ!」マノンは魔弾を撃ち氷のドームを作りガードするが、鉄屑や破片、瓦礫が容赦なく降り注ぐ。氷のドームが削られ、ボコボコと穴が開き始める。

レイラはぼやける視野に、氷の中に蹲るマノンを見つける。

記憶の海が押し寄せる。

『家族を殺されたんだ!』『レイラ姉!』『私も可愛い下着が欲しいよぉ!』『湖で泳ぐの楽しいね!孤児院に居た頃思い出す。先生も連れてきてあげたいなぁ』『ヘスティアさんとエアルって本当に恋人じゃないのかな?怪しいと思わない?』『レイラ姉のせいで死にかけた!銃も壊れた!』『皆といると楽しいや!』

「…マノン」

いつの間にか世界は真っ暗で静寂になっていた。怪我の痛みも無い。レイラと、倒れているマノンだけがいる世界。自分のせいで、マノンを窮地に陥らせてしまった。守らないといけないと、腹を括ったのに、感情任せに暴れて、自爆して…

「マノン、ごめんね。私の、」

「レイラ姉守らないと、レンに殺される」

『お姉様!』

レンに呼ばれた気がすると、一気にレイラは現実へと引き戻された。

「…お姉さん、大丈夫ですかい?あれ、死んだ?」

レイラに水属性魔法で攻撃しても、体が霜に覆われようとも諸共せず攻撃を止め続けていた。体もボロボロ、おまけに腹には氷の氷柱が刺さっている。

ニヤリと笑うアレークだったが、右腕にカチャリと冷たい物が当たる。

「は?」

バン!と発砲音が響く。レイラはズルリとアレークの剣から退く。

「お姉さん、頭おかしいんじゃないの…?!普通、自殺行為でしょ、こんなの…このために、わざわざ自分から刺されにきたんですか?」

「んなわけないでしょう」

魔弾を改造していたせいで、アレークの右腕は半分取れかけていた。骨も砕かれ、弾丸も中に残っている。もう右腕の感覚は無い。

アレークの魔力が弱体化し、氷の鞭はただの鞭に戻った。レイラは、ゆっくりと後ろに下がり、鞭を身体から抜く。腹から血がどぶりと溢れる。

レイラはメイラにもダムダム弾をぶっ放す。大剣でカードするが、大剣には小規模なクレータが出来た。

「私もね、妹達を守らなきゃいけないのよ…同じ姉同士なら、命の削り合いしてでも守り抜こうじゃない」

「ふふっ、くくく!いいね、楽しいね、こういうの!」

マノンは止んだ攻撃を確認すると、ドームを抜け、慌ててレイラに駆け寄る。よろめくレイラを支えると、姉妹と十分な距離を取る。

「お姉ちゃん」メイラが跳び、アレークの隣に立つ。

「大丈夫…まだ左腕があるから」

そうメイラを安心させると、アレークは鞭を頭上に持ち上げた。

「お返しを差し上げますよ!さぁ、踊りましょうか!」

するとボディの部分が無数に分裂し、自我を持ったかのようにレイラとマノンに向かい串刺し、叩く、刺すという攻撃を仕掛けてくる。

「レイラ姉!一旦隠れよう!これじゃあレイラ姉が持たないよ!」

マノン達は避けるが避けても避けてもボディやテールが追いかけてきてキリがない。

「大丈夫よ!それよりマノン、援護頼んだわよ!」

「レイラ姉!あぁ!早くジョーイさん来てよ…!」

レイラは違う銃器に持ち返ると、また無謀にも突撃していく。

「待って、レイラ姉!」

「メイラ、次が来る!ガードして!」

「わかった」

メイラは大剣に魔力を供給すると、盾に変形する。

(考えろ、考えろ!マノン・ミラージュ!レイラ姉を守らないとレンに殺される!)

マノンが辺りをキョロキョロ見回すと、レイラが持ってきていた武器の中に、マジック・バーナーがあるのを見つける。マジック・バーナーは基本工業で使われる金属を接合するために、火属性のマジックストーンが込められている。良く見ると、レイラが持っていただけあり、改造されている。

「これなら…!」

マノンはバーナーを持ち、魔力を送る。

「レイラ姉、どいて!」

「マノン?」

「行くぞ!火炎放射!!!」

一気に火炎がメイラの盾に集中する。

「無駄」

メイラは更に盾の面積を大きくする。だが、マノンも攻撃を止めない。

マノンから見ても、盾から熱気が漂うのが解る。そしてマノンは氷の魔弾を放つ。

撃たれた魔弾は、盾に張り付き凍結し始める。パキパキと音が鳴り、そして

バキン!

「え、あ、やっちゃった」

高温からの急激な凍結に耐えられなくなった盾…大剣が割れる。

「大丈夫、私の水属性とメイラの金属性があればすぐ直せる、」

そこに鞭がアレークとメイラの首に巻き付き締め上げる。しかもただの鞭ではない。もしかしたら、この武器自体が鞭でもなく、レイラが作り上げた新たな武器なのかもしれない。

「くっ、棘が…!しかも、のこぎり状になってやがる…!」

「くるしっ」

アレーク達がもがけばもがくほど、棘は食い込み、外れにくくなっていく。

「これでお終いにしたいわね」

レイラは銃を向けると、姉妹の顔面目がけて撃つ。

バン!と命中すると、姉妹から悲鳴が上がる。レイラが放った魔弾は、金属で加工した火薬が仕込んであり、命中するとダメージも相当だが、燃えるように設計されていた。

姉妹は自由に動かせる手で火を払い、なんとか助かる。

「はぁ…はぁ…お姉さん、凄いね。そんなに私達のこと殺したいんだ?」

「当たり前でしょう…」

「はは、私も、お姉さんたちが死に行く様をゆっくり眺めていたいなぁ」

アレークは火傷で爛れた左側の顔で、あの独特な笑顔を見せる。

レイラの体は限界に近かった。魔力ももう少ない。それでも戦い、殺そうとするのはマノン達を守りたい一心と、マスタング商会のためだろうか。

マノンは、そんな自身の身を削り犠牲にしてまで仇を取るとするレイラを、もう見ていられなかった。

「レイラ姉、もうやめよう!」

「マノン、邪魔しないで。殺さないと気が済まないの」

「でも、殺しちゃダメだよ!レイラ姉は人を殺さないで!人を守る武器を作ってよ!人を殺すのは、私達がやるから!」

マノンの言葉にハッとし、レイラは慌てる。

「何言ってるの!マノンにだって、人殺しなんかさせないわよ!」

瞳がいつも通りのレイラに戻ってきている。マノンは続ける。

「徹底的に痛めつけて、アイツ等の方から逃げ帰るようにしてやろう!」

レイラは乱れていた呼吸を整え、憑き物が落ちたかのように眼を閉じた。

「そうね、そうかもね…私、ちょっと踏み外していたかも。ありがとう、マノン」

「ごちゃごちゃ喋るのはもう終わりですよ!」

アレークとメイラが、手を真っ赤に染め、あの金属の棘を首から外し、立っていた。首の肉は浅く抉れ、手ももう武器が持てるとは言えなかった。

「あんた達、もう帰りなさい。そんな状況で戦っても負けるわよ」

「それはそっちも同じでしょう…お互い瀕死の状態で、最期まで清く散って一緒に逝きましょうよ!!」

左手に鞭を氷で固定し、地面に向ける。

「さぁ、次も踊りましょう!」

「見せてあげる、私達の力」

アレークが鞭を下に向け、メイラも鞭に手を添える。地面の中に鞭が水状になり浸透する。マノンとレイラは背中を合わせ警戒する。

「きっと地面から出てくるはず…水圧でも、氷柱でも、当たったら大怪我、最悪即死ね」

「笑えないよ…」

「来る!」

レイラとマノンが避けると、水が回転のこぎりの様に地面を切り裂き、二人の切断を謀る。

「これからこんなのがいっぱい出てきますよ!逃げられますかぁ?!」

アレークは魔力を振り絞ると水の回転のこぎりを多方面から二人に仕向ける。

マノンが魔弾を放ち、氷漬けにし、罅が入り破壊されるが、また水が湧き出て回転のこぎりになる。

「なにこれ、無限に湧く!魔力限界なんじゃないの?!」

「二人分の魔力が供給されてるのかも!金属の粒子が混ざってるはずだから殺傷度も高いかも!」

そして後方から不穏な音がし、振り向くと巨大な金属の回転のこぎりがレイラ達に向かい襲ってくる。

「グワァ!何アレ!」

「水を含むと金が増える…なるほど。少ない魔力で、姉妹最後の悪あがきね」

水の回転のこぎりと、金属の回転のこぎりに挟まれ、レイラとマノンは逃げる策を練るが、間に合わない。

盾を作っても、あののこぎりに切断されて終わりだろう。受けて立つのは無謀だ。魔力ももう少しで尽きる。それなら。

レイラが、マノンだけでもと鞭を使い放り投げようとしたときだった。

アレークが突然メイラを突き飛ばした。

「え、おねえちゃん」

すると壊れた建物の瓦礫から沢山の金属の槍が生まれアレークの全身を串刺しにした。

レイラ達も何が起きたのか解らなかった。

魔力が途絶えたのか、回転のこぎりは止まり、消えていく。

「レイラ、マノンさん。遅くなりました」

「なんで、ジョーイが…?ジョーイが、やったの?」

「はい。娘を守るのも、私達の役目です」

ジョーイはグローブをしていたが、手に火傷を負っていた。まだ燃え続けている建物に、手を当てて魔力を供給したのだろう。しかも、あちこちの建物に。きっと、大量の魔力を使ったはずだ。

アレークはもう虫の息だった。立っていられるのも、串刺しになっているからだろう。

メイラがとぼとぼと歩き、アレークに近付く。

「お、おねえちゃん…あ、あ、わたし、なおしかたわからないよ、おねえちゃん」

「はは…珍しい。メイラが泣いてるところ、初めてみた。長く一緒にいたのに」

「ふぇ」

メイラは頬に手を当てると、涙で濡れていた。

「あ、おねえちゃん…身体が!」

アレークの体が指先や足元から溶けていく。負傷していた右腕がぼとりと落ちた。

「や、だ、おねえちゃん。いやだ、しなないで!あ、加工すれば…あ、あ、でもでも、そしたら、おねえちゃん、あ、どうしよ、あ、は」

「ごめんね、メイラ。もう傍にいてあげられないや…これでも楽しかったんだよ?メイラといるの」

アレークは力を振り絞り、最期にメイラの涙を拭ってやった。拭いてやったが、変りに自分の体液が着いてしまい、思わず噴き出した。

「エリーニュ姉さん達の所に、行くんだよ。合流して、お人形作るの…手伝ってもらいな」

「お、おねえちゃん…あ、はっ、は」

「お姉さん方…最後の務めですよ。殺した相手が息引き取るまで眺めててくださいよぉ…それが、わたしの、美学なんで…」

「悪趣味な美学ね。いいわよ、見てて上げる」レイラが同情を含んだ声で言う。

胴体も解け始め、槍から崩れ落ち、もう体もバラバラになる。

マノンは、少し怖くなり、レイラにくっついた。敵なのに。敵が死ぬだけなのに、どうして心が苦しくなるのか、解らなかった。ただ、家族が死ぬ姿を見ているせいだから、と…メイラと自身を少し重ねた。

「メイラ…死ぬときは一緒とかふざけて笑っていたけど、メイラは、すこしでも、ながく…いきて…」

アレークはドロドロに溶け、槍から頭部が落ち、べちゃりと潰れた。もう固形体は無かった。

メイラは呆然とし、ただ溶けたアレークの死体とも言えない液体を見つめていた。

「いかないと…エリーニュお姉ちゃん達の所」

アレークに言われた通り、メイラはエリーニュがいる場所へ向かい走り始めた。マノンが呼び止めようとしたが、レイラに止められた。

「レイラ姉、あの子の事、保護できないかな…なんか、ほっとけないよ」

「気持ちはわかるわ。でもね、たぶん、あの子たち普通の人間じゃないわ。最期の死に方を見て、察する部分はあるでしょう?」

「それは…思ったけど」

「だから、仮に保護できたとしても普通に生活がおくれるかは解らないわ」

マノンは悲しくなって、レイラにおでこをすり寄せた。レイラは優しく抱きしめて、頭を撫でてくれる。

「あの、変人だった子のお墓、作ってもいいかな」

「勿論ですとも。街の復興が一息ついたら、静かな場所に作りましょう」

ジョーイも、少なからず罪悪感を持っていた。敵とは言え、レイラ達を守るためとは言え、まだマノンと似た年頃の少女を殺したのだ。

「…レイラ姉、体、もんのすごく冷たい」

「レイラ!貴女凍傷になりかかっているのでは?!しかも腹に大怪我まで!」

「え?あぁ、そうかも…なんか、寒いんだか熱いんだか解らなくなってきた。眩暈もする気がする」

「今すぐ瓦礫で風呂を作ります!マノンさん、魔法で水を湧かせてもらえますか?」

「わ、解った!」

ジョーイは瓦礫から使えそうな資材をとっとこ見つけると組み立て始め、魔力で構築していく。そしてマジックウォッチで連絡を取る。

「あ、兄さん?今レイラ達の方はひと段落着きました。はい、ラードナー家から医者をお借りしたく。あと火属性の従業員…そうです、彼を早急に私の方へ向かわせてください。湯を沸かしたいのです」

「ちょっと、師匠!無事なの?皆無事なの?!」レイラが叫ぶと腹からピュッと血が出る。

『は?皆無事だぞ。負傷者もいるが、大怪我負った奴も死んだ奴もおらん!ピンピンしてるぞ』

ピンピンまでは嘘だが、マスタング商会の皆は無事であった。

「よ、よかったぁあああ!」

安心したのか、レイラは大声を上げて泣き始めた。

この時、ジョンは何故レイラが大泣きしているのか解らなかった。そう、ジョンはレイラに無力化装置の件を、黙っていることを忘れていたのだ。

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