チームバトル②
「ホーリーランスッ!」
アーシェスの手に収束された光の粒子が螺旋となりパスタ達を襲った。
まだパスタ達のチームとは距離が離れているが、このスキルは貫通力とそれ以上に射程距離が長いという事もあり牽制の意味を込めてスキルを放つ。
螺旋状の光は地面を削り回りに光の粒子を撒き散らしながら進む。
「――トリックカードⅢ♪」
それに対し、パスタは手に持っているトランプカードのような物を投擲する。カードはまっすぐにアーシェスの放ったスキルに向かい、直撃した。
すると、当たった箇所から薄い光の膜のような物が放射状に展開しアーシェスの攻撃を難なく防いだ。
「チッタちゃん! よろよろ~」
「はいにゃー!」
パスタのふざけたような声が聞こえ頭だけ熊の着ぐるみを装備したビキニアーマーの女性プレイヤーは持っている杖で地面を数回叩く。
するとその場所を中心に魔法陣が展開された。そしてその地面より四速歩行の動物のような物が1体出現する。
「あの変な装備のプレイヤーは魔導士のそれも召喚タイプか」
魔導士とはアナスフィでは魔法を使うベーシックなジョブのひとつである。使用できるスキルは主に魔法系に縛られている所謂遠距離タイプのジョブだが、スキルをひとつの属性にだけ絞るとスキル効果が上がるという特性を持っている。
そのため、この魔導士はいくつかのタイプに分けられるのが定石だ。
ひとつは純粋な魔法タイプ。これは火や水、土などの各種属性に分けられる。
もうひとつはバッファータイプ。これは自身や敵に対しバフデバフを入れるスキルを専門に入れるタイプだ。主にチームバトルをメインで戦うプレイヤーに多い傾向であったため、アーシェスはあの熊頭はこのタイプになると思っていた。
そしてもうひとつが召喚タイプである。主にゴーレムを召喚する事が可能なジョブだが、これは自身で召喚するゴーレムをクリエイト出来るため、かなり人気のタイプでもある。
「ねぇ、アーシェス。あれなんの動物かしらね?」
共に目の前の敵に対し走っていたリドリーからそんな声が聞こえた。確かにそう思うのも無理はないとアーシェスも考える。
あの熊頭が召喚したゴーレムは四速歩行というのは分かるが、なんの動物をモチーフにしているかがわからない。
妙に顔部分がデフォルメされているような気もするが、どうも構造がちぐはぐな感じがする。まるで子供の落書きのような造形だ。
「多分、猫じゃないかな?」
「違うにゃぁ!!! どうみても犬! これは敵を捉える猟犬なのにゃっ!!」
「えぇ! 嘘でしょ!? 犬の尻尾ってそんなロープみたいに細長くないわよ!?
あたなちゃんと犬を見たことあるの!?」
「なんて失礼な奴らにゃぁ!! やっちゃえ、ポン太!」
ポン太と呼ばれた犬のようなゴーレムはこちらの想像よりも素早い動きで襲ってきた。近くでみると思ったより大きい事が分かる。大体高さ2m、全長5mくらいだろうか。あのふざけた造形だがゴーレムの操作はかなり上手い。
「恐らく手動操作しているね、リドリーどっちがやる?」
「私がやるわ。アーシェスはあの道化をお願いっ!」
そういうとリドリーはさらに動きを加速し、ゴーレムに肉薄した。
「――深淵纏」
リドリーがスキルを使用すると濁った黒紫のような粒子が身体を纏っている。恐らく肉体強化系のスキルだ。暗黒騎士タイプのジョブに人気のスキルでよく使用されているのを見たことがある。
もはや捉えられない影のようになり目にもとまらぬ速さでリドリーに対しゴーレムは前足でなぎ払いを行った。
しかしリドリーはそれをなんなく回避しゴーレムの首に斬撃を放つ。
鈍に岩が削れるような音を立てながらゴーレムは後退した。
しかし、そのゴーレムの足元に何か不自然な物をアーシェスは見つけた。
それは一枚のトランプカード。
「不味いっ! リドリーッ!!」
「ッ!!」
アーシェスの声を聞きすぐにその場を離れたリドリー。そしてその直ぐ後に先ほどまでリドリーがいた空間に魔法陣が展開され、空気が歪み、その場に強い重力場が発生した。
「――アースプレッシャーか」
「これだから曲芸師と戦うのは嫌なのよ」
曲芸師。それはアナスフィ内でもかなりトリッキーなジョブとして知られている。
その理由はどのようなスキルを使うかまるで予想がつかないからだ。
パスタが使用したスキルはまだ恐らくまだ1つ。
カードかしたアイテムを元に戻すというスキルのみだろう。
曲芸師はアイテムやスキルなどをすべてカードへ変化させる特性がある。
つまり、最初にアーシェスは使ったスキルは恐らく事前に用意していた防御系のマジックスクロールであり、先ほど使った魔法は攻撃系のマジックスクロールをカード化した物だ。
もちろん、カード化するデメリットとして本来の威力の80%まで下がるという特性もあるが、やっかいなのは見た目が同じカードのため使われるまで何のアイテムかが分からないという事。
「アー君。まだまだこれからだよね、もっと遊ぼうよ」
新しい玩具で遊ぶ子供のような笑顔にアーシェスは彼女は本当に厄介な人だとつくづく思った。