第8話 これが非常識?!
俺がギルマスと領主様、そして、ウルク殿に対して、ある提案をしてから街を出て、1週間ほど経過していた。……俺の目的のためには、領主様の協力は必要不可欠だった。ウルク殿にお願いして、領主であるリースの御父君のエルク殿に謁見できた。ある条件を飲む代わりに何とか協力の約束を取り付けられた。条件を満たすための俺の能力は軽くオーバーしているから問題ないと思ったんだが…
「おま…お前本気…いや正気か!?いや何故出来る!!?」
「お義父さんから聞いていたが、君は何者だ!」
「お主等、落ち着かんか。わしは言ったじゃろ?こやつはわし等では測れんと」
「しか…しかし、お義父さん!いくら何でもこれは…」
「無茶苦茶だ!Sランク冒険者ですら不可能な、Sランク魔獣やモンスターの単独討伐を行うなんて!」
ここまで驚かれるなんてな……持ってきた魔石を渡した途端にこれだよ…
そういえば、ギルドの説明の中にあったな。通常ギルドで定めるランクというものは、ギルドに対する貢献度とパーティーで倒せた魔獣とモンスターのランクによって変わると。
つまり、通常6人パーティーで倒すようなモンスターをソロで討伐するということは、ギルドで考えられるランクを圧倒的に超過していることに他ならない。
まあ、ここまで驚かれるのは予想外だが、問題ない。少なくとも、俺に嘘をついたらそれだけの力が振るわれる危険性があることのアピールにもなる。
まあ、振るうつもりもないけどな…それよりも。
「ギルマス、それよりも。私のランクはどうなるんですか?約束は守ってくれるのですか?」
「あ?…ああ。まあ一体だけとはいえ、Sランクの魔獣を討伐するとは思わなかったが、これなら…」
「誰が一体だけって言いました?」
「は?」「何?」
「確かに、一体とはお主は一言も言っておらんが…何体狩ったんじゃ?」
「意思疎通が不可能そうな魔獣とモンスターは粗方ですかね?約束のSランクオーバーは10体ほどだけですが」
まあ、魔獣は俺の危険性を理解して近寄らなかったから、モンスターの方の数が多いけど。
モンスターは魔獣と違い、モンスター以外の生命体の存在を許さない。そのうえ、人々の恐怖を煽るような残虐性も兼ね備えている。まだ知性がある悪魔の方が対話出来る分だけマシだ。
今回相手した魔獣たちはSランクだが、知能も知性も低いため俺の実力を見誤ったから倒すことができた。
「……わしの予想を上回るとは思っておったが、お主Sランクを狩るのは大変だとリース達には言っていたそうじゃが?」
「材料費はかかると言っていた話でしょうか?確かにかかります。武器や防具にかけた材料費はとんでもありませんでしたし」
「…お主…一体何者じゃ?そのような高位の武具を持っている錬金術師なぞ」
「そこは秘密です」
というより、Sランクの厄介なところはAランク並みの身体能力に加えて、特殊能力があるから大変だ。しかし、特殊能力に対応した武装があれば問題にならない。
まあ、この時代の人たちに言っても信用されないだろうし…何より今は動けなくなるわけにはいかない。
「……仕方ないの。まあ約束…いや約定としてお主をSランク以上と考えて良いじゃろ」
「お義父さん!良いのですか?」
「婿殿よ。約定も守らないものだと思われて、こやつにとっての敵対者になりたいのか?」
「……いえ、それはありません。しかし、あの約定は……」
「?お前何を言ったんだ?」
「…ああ、ギルマスは知りませんでしたね。内容は『私がこれから何を行うにしても一回は協力する。ただし、人は死ぬようなこと以外』というものですよ」
「…なにをする気だ?」
何を?…現状は特に決まっていないが、今後俺が活動するときに一度も問題が起こらないとは思えない。色々と起こったときに公爵が協力者になれば心強いからな…
まあ、これからの俺が行うことに対しての事前準備になるかもしれないが……
「犯罪は起こしませんよ?ちょっと常識から外れた行為…って言っても、すでに外れてますかね?」
「……理解しているんだな?自分の力を」
「まあ、私程度でも皆様には異常に映る程度には…ね」
「お前程度…か。お前以上の実力者なぞ俺は知らん」
…ゲームでも、ましてやリアルでも俺以上の奴らはいる。それを知っている俺は…
「恵まれているかもな…」
「ん?どうした?」
「いえ? 何でもありません。ところで、領主様」
「何かな?」
「リース様とライラ殿がこちらを見ていますよ?」
「む?二人とも何時からそこに?」
「婿殿、探知をパーティーの他のメンバーに任していたとはいえ、すぐに気づきなさい」
その点には同意だな。探知能力の低さは、自分の命の危険性を格段に上げる要因だ。エルク殿は実力はあるようだが、その点は未熟かな?まあ、探知役を他の者に任せていたのであればそれは仕方ないのかもしれない。でもなあ……
「お義父さん。私はパーティーでは後方攻撃型のポジションです。常時探知系統の魔法の展開をしていたら、マナが切れてしまいます」
「マナ回復量を上げる装身具をつければ補えるはずじゃろ?」
「身体的な速度が速いわけではない私が、暗殺や不意打ちに気づくためには、相当広範囲の距離の探知が必要です。そのマナ消費量を補うだけの装身具となると簡単ではありません」
確かに、マナの回復量を上げるアクセサリーや装備は簡単ではないな。MP…マナを使って戦闘を行うものにとって、それらのアイテムは喉から手が出るほど欲しい物だしな。
魔術師の高位職の魔導士は魔法攻撃力はかなりもんだが、魔法…というより、MP以外のHPやSPといった消費して発動するスキルは攻撃能力は無いからな。
ん?これは交渉材料としていけるか?
「むう。どうにかならんか?」
「そんな簡単に」「できますよ」
「なぬ?どういうことじゃ?アルト君」
「本日夜中、私がすることを見逃していただければ、できる限りになりますが、皆さんがご所望のアイテムをご用意いたします」
「いったい何をするんじゃ?」
「秘密…と言いたいところですが、後で屋敷で教えますよ。ただし、教えるのは領主殿、ウルク殿、ギルマスの3名のみ。例外は認めません」
「護衛も無しかの?」
「ウルク殿や領主様、ギルマスより強い人物がいれば別ですが?」
いるわけないけどな。この街内でこの3人より強い奴は現状いない。
というより、この中でウルク殿がとびぬけて強いな。ウルク殿かエルク殿とギルマスのタッグでどっちを敵に回すかと聞かれたら、俺は即エルク殿とギルマスを敵に回す。それ位差がある。まあ、権力などを加えるとまた違うけど。
「おらんの…まあ話を聞くのはわしら3人にするが、部屋の外には部下を待機させるがよいか?」
「構いませんよ。話を聞かれたくないだけですから」
「仕方ないの。お主を敵に回したら、この国が無くなってしまうかもしれん」
大げさな…エルフや亜人種の実力者の中には、俺に匹敵する怪物が何人かいるだろうに。それとも、この国って他種族との国交がないのか?ギルドにいるミンクさんは獣人の中のイタチ系統だが…この街にはドワーフやエルフもいるけど、その中で俺に匹敵する実力者となると、王族種ぐらいか?となると、この街にいないのは納得できるけど…
王族種は通常国から離れられないからな、例外はいるが。
「リースさん。後でジョン君とマルク君の所に行きますから、その時に訓練の成果を聞きます。期待していますよ」
「わかりました!」
「…お嬢様をできればあまりお待たせしないでほしいですが、お館様との約定がある以上仕方ありません。しかし、本当にあなたは何者ですか?私や騎士団長のルード、お抱え魔導士のメラ。そしてお館様や私たちを超えている実力者なんてこの国には多くありません。むしろ片手で数えた方が早いかもしれないのに…」
この国が俺が最初に転移したあのエリアに近いなら、普通はレベルが上がると思うんだが…まあいい、俺の敵になれるやつが少ないなら、比較的に自由に行動できる。他の奴等のレベルも上げて、そのうち俺の役割を果たさなければならないがそれは後回しだな。
「そのうち、ライラ殿たちも強くなりますよ。俺の訓練方法は成果が出ているものですから」
「成果?いったい何処で…」
「アルトさん。この街からいなくなりませんよね?」
「うん?」
なんだリースさんは…この街には当分いるつもりだが、何でいきなり?
…いや、目的を果たした俺がこの街に居続ける理由が少なくなるのは事実だ。まさか、この子は直感的にそれを感じ取ったのか?
しかし、まあ…
「いなくなりませんよ?少なくとも、半人前の錬金術師を独り立ちさせるまではね」
「…よかったです」
「くっ…お嬢様納得されているとはいえ、半人前扱い…しかし、アルト殿に比べれば…いやしかし…」
…というより、この時代にきて一人前にあったことがないんだよなー
何て言うか、錬金術師として活躍しようにも、周りのレベルやら技術が低すぎてどうしようもないし…リース君と一緒にジョン君たちが成長すれば多少変わるだろうけど、このまま俺一人でやっていくのは難しいからな。
まあ、その対策も出来る目途が立ってきたけどな。
「リースさんは半人前といっても、才能のある半人前ですけどね。努力もできるし、何より目標を明確にし、それを実行しようとする意志の力がある。物づくりにおいて、目標の設定と意思は必要不可欠ですからね」
「ありがとうございます。でも、まだポーションがレアで作れなくて…」
「何を言いますかお嬢様!以前より格段に進歩しているのです。まず、自分でそのようにできていることを認め、それを誉め、その後頑張るべきです!何事も、できないことに対する反骨心も必要ですが、認めることも必要なのです!」
ライラ殿が、リースさんに対して叱るように説得するとは…まあ、言っていることは合ってるけどな。自分ができないと思うよりまずできることを認め、何ができないのか認識する。思い次第で人間の能力は変わるからな。
「…うんそうだね…ごめんねライラ。私は成長している!もっと頑張る!」
「その意気です、お嬢様!」
「じゃあ、次はレアのポーションが出来たら、コモンのハイポーションを目指そうか?」
「……え?」「はいぃ?」
「ははははは!そんなに驚くことじゃありませんよ?昔の方々は、レアのポーションとアンコモンのポイズンポーションが作成できたら、コモンのハイポーションの作成をするんですから」
事実、錬金術師の他の職業でマネできることの成長速度や要求される能力値に違いはあるが、成長過程や成長方法に違いはあまりない。まあ、方法に関しては、途中から錬金術師ならではの方法で出来るから、途中からは方法だけは違うけどな。
「…がが頑張ります…」
「うん。頑張ってくれ」
「お嬢様、材料の採取には私もお供します!」
…緊張してるな…集めるのが大変だと思ってるのか?
まだ、アレを教えていないし、当然かな?まあ、あの一件が片付いたら教えてやるか。
「じゃあ、領主様と話があるからまたね」
「はい、アルトさん。また」
アルトさんと別れた私とライラは、アルトさんがやってのけた偉業…というより、異常についてマルクとジョンに教えた。当然のことだけど、二人も驚いて椅子から転げ落ちた。
そして、私に言い渡された訓練の内容を聞いて自分たちの訓練もさらにひどくなると思ったのか、顔が青褪めていた。まあ、平気だよ!多分……
「自信ねえ。ハイポーションだろ?今俺が作ってんの青銅のグレートソードだぞ?一体素材が何になるんだよ…」
「僕は不安です。討伐しなくてはならないモンスターや魔物のランクが1ランクどころか、2ランク上がりそうです」
…否定できない!?確かに、ハイポーションの素材集めすることになると、どれくらいの強さの魔物やモンスターの生息地に行くことになるの?今の私たちじゃ無理じゃない?
「ご安心を、お嬢様!私とライカもお供します!例えゴブリンキングがいたとしても、私達で倒して見せます!」
「ありがとうライラ…でも、それじゃあなたに頼りすぎだし、まず色々考えてみる」
「てか、俺たち一応課題クリアしたから、アルトさんからご褒美もらえるはずだよな?」
「確かに、以前は魔法のスクロールを貰えましたし、今回のご褒美の内容によっては戦略の幅は広がります。アルト殿と話してから考えましょう」
「でも、アルトさん何か用事があるようだったし、場合によってはまたいなくなるかも…」
私たちは成長したい一心で色々頑張っているけど、それは私たちの都合だし。アルトさんにはアルトさんの目的がある。自分たちの都合でアルトさんを拘束し続けるわけにはいかないけど…どうにかアルトさんにはまだまだ色々教えてほしい。
「…やべぇ…否定できないぞ!?あの人何か叶えたいことがあるって言って、ご隠居様の無茶苦茶な条件あっさりクリアしたし、用事の内容によってはまた帰ってくるのが遅くなる!」
「…そうでしょうか?実際1週間ほど出かけるといって、居なくなっていたのですから約束事は守ってくれると思いますが?」
「マルク様。ジョンの言う事ももっともです。アルト殿と私たちは知り合って間もないですので、必ず居なくならないという保証がございません。そのことを考えると、多少迷惑をかけることになろうとも、声をかけて一刻も早く報酬をもらうべきです」
「……私は、迷惑をかけたくないけど…今声をかけないと後悔しそうだら二人に賛成」
…前から思ってたけど、教え子だからって貴族のジョンを呼び捨てにするのは本当はダメなんだよ、ライラ。まあ、気にしてないからいいけど…。いつもの私なら、慎重に考えるマルクと同じことを言ったと思うけど、ここで動かないと会えなくなる気がするから、ライラとジョンに賛成することにした。本当にこれは私の直感だけど、動かないと後悔する。
「…皆がそういうなら、本日の夜中に声をかけて、約束を取り付けるという形を取りましょう。実際、一切の不安がないわけではありませんから」
「よし!とりあえず、前に付加してくれた剣よりも良い報酬だといいんだけどな」
「僕としては新しいスクロールでしょうか?妨害系は前回貰いましたから、今度は補助系が良いんですが…」
「私は…何にしてもらおうかな?新しい武器?魔法?…どれも違う気がする」
「お嬢様、アルト殿に会ってから決められては良いかと。お嬢様はまだ未熟な錬金術師。ある程度のアドバイスは、ジョンやマルク様のご褒美を決められてからでもご相談されればよいかと思われます。未熟ということはまだ色々な道を決められて、色々試せるという事でもありますので」
まだ未熟だからこそ、色々試せるか…確かに、そうかもしれない。私はまだ決まったこともできないけど、色々試せるぐらい道はあるんだ、がんばろう。
…結局、夜中になるまでアルトさんはお爺様やお父様と話をしていて話せなかった。お爺様が険しい顔をしていたけど、お話を聞こうとしたら、はぐらかされてしまった。大抵のことはお爺様話してくれるのに……
家に泊まっていたジョンとマルク、そして、ライラにそのことを話した。アルトさんのことで何か良くないことが起きたのかな?
「ご隠居様が険しい顔をしていたのでしたら、お嬢様関係か領地に関係したこと考えるべきですが、アルト殿は悪い人間ではございませんし、お金は…はっきり言ってSランクの魔物やモンスターを討伐できる方ですから困ることがありません。領地の資金に手を付けてでも払わなければいけない報酬という可能性は低いでしょう。というより、皆様領地の運営関係の勉強はあまりされておりませんから、考えても浮かぶ可能性が低いので、もう一つの可能性から考えましょう」
「つまりリース関係で?うーん…アルトさんがいなくなるから俺たちの訓練ができなくなる?」
「まあ、その可能性はあり得ますが、公爵の立場を使ってどうにかできませんか?Sランクのモンスターや魔物を討伐したからと言って、公爵に逆らえるとは考えにくいでしょう」
「でも、アルトさんって貴族の立場を理解して、あえて無視をしている所あるから、わからないよ?」
「私としては、単独で1週間以内に10以上のSランクの討伐という所を考えると、小国程度なら一人で墜とせるかと考えられます。国が相手だとしても、アルト殿なら十分かと思えます」
「…だとしたら、公爵の立場があってもあまり関係ないかもしれないですね。単独で国を墜とせるなら、公爵家を一つつぶすことぐらいはできそうですから」
「元Sランク冒険者の姐さんが言うと説得力があるよな…やっぱり、今夜直接アルトさんに会って話そうぜ?ここで話しててもどうにもならないし」
「「「賛成」」」
そうして、私たちがアルトさんに会うため行動を始めようとしたころ、アルトさんは屋敷から出ていたことをメイド長から聞いた。急いで追いかけた先で、あんな異常なことに会うと今の私たちには想像もできなかった。