5話【最後の電話】
――2028年7月7日(少女)
もう……繋がらないのかな……
どんなに願っても発信音すら鳴らなかった。
画面には――
【彦星様】
電話番号は、ない。
少女は静かにスマホを胸へ抱きしめた。
もう、声は届かない。
それでも、この名前だけは消したくなかった。
退院してからずっと青年を探していた少女。
だが――
青年と再会することは、二度と叶わなかった。
それどころか、存在すら確認できない。
まるで、最初から誰もいなかったように。
それでも、あの日々だけは確かに本物だった。
雨の七夕。
傘を差し一人で神社へ行く。
短冊を書く。
【あの人がくれた命を大切に生きます】
【来年も生きたい】と書いた二年前。
今は、その願いが叶ったことを伝えたかった。
空には天の川はない。
雨だけが降っている。
それでも少女は空へ向かって話しかける。
「四年前……雨の七夕の夜にね……」
「私の彦星様に会いたくて……スマホに願いを込めたの」
「そしたら……あなたに繋がった」
スマホに目を落とす。
「二年前……一目見て……やっぱり私の彦星様だなって……」
少女は大きく息を吸う。
もう届かないと分かっていても、伝えたかった。
胸にしまったままでは、前を向けない気がした。
「……好きでした」
待受画面には――
あの時の二人の写真。
七夕飾りを背に、笑顔で寄り添う二人。
たった一枚だけ。
それでも、一生分の宝物だった。
その瞬間――
止まないはずの雨が止む。
雲の切れ間から星空が覗く。
少女は涙を流しながら微笑む。
悲しい涙なのに、不思議と温かかった。
ちゃんと、お別れができた気がした。
「支えになってくれて……ありがとう」
「あなたがくれた命で、ちゃんと幸せになりますね」
それが、彼への一番の恩返しだと思った。
笹に短冊を結ぶ少女。
雨上がりの夜空には、天の川が静かに流れていた。
少女は再び顔を上げる。
そして、彦星に呟いた。
「あなたの事を絵本にしますね」
あなたがいたことを、忘れないために。
誰かの心にも、その優しさが届くように。
その時――
彦星がひときわ強く輝いた。
はっとして夜空を見上げる少女。
涙を拭い、やがて小さく微笑んだ。
「またね」
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
「良かった」「面白かった」と感じていただけましたら、感想・レビュー・評価・ブックマークで応援していただけると、とても励みになります。




