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【5話】泥と宝石 3


 暗闇の中から、なにかがこちらに向かってくる。


 ライトに照らされたそ(・)い(・)つ(・)を見て、チカは全身の血が凍りついた。




 そいつは七色に光る宝石でできた銃を持っていた。


 けど、そいつのからだは泥まみれだった。


 そして、そいつには頭がなかった。


 そう。そいつの正体はマッドマンだった。




「ユウマがいるのは『きらぼし公園』よ。できるだけ早くきて」


「わかった。全速力で行くよ」


 通話がおわると、花(はな)子(こ)は日傘を剣のようにかまえた。


「は、花子ちゃん」


「逃げなさいっていってるでしょ。早く!」


「脚が……脚が動かないよ」


「じゃあ、そこから動かないで」


 花子が腰を落として、大きく脚を振りあげた。


「すぐに片づけるから」


 振りあげた脚を、花子はハンマーのように勢いよく地面に打ちつけた。


 それが相撲の「四股(しこ)踏(ふ)み」だとチカが知るのは、もう少しあとのことである。


 花子が四股(しこ)を踏むと、地面に金色の魔法陣が出現。


 あたりの景色が金色に染まった。


(え、なに?)


 景色が金色に染まったのは一瞬だけで、すぐにもとの暗闇にもどった。


 その直後にマッドマンがふたりに銃を撃った。


「きゃあっ!」


 思わずチカは目を閉じた。


 けど、いつまでたっても痛みは感じない。


 不思議に思って目を開けると、花子が、広げた日傘を盾にして、銃弾を防いでくれていた。


 だが、マッドマンの攻撃はおわらない。


 2発、3発、4発。


 連続で花子に銃を撃ち続ける。


「花子ちゃん!」


「心配しないで」


 絶望的な状況なのに、花子の声は落ち着いていた。


「すぐに片づけるっていったでしょ」




 その言葉の直後に、またも信じられないことが起こった。


 まるで小石を投げた水面みたいに夜空に波紋が広がり、そこに金色の穴が出現。


 その穴の向こうから銀色の鷹(たか)があらわれたのだ。


 鷹は、矢のようにマッドマンに急降下。


 そして――グサッ。


 するどいツメで相手の手首を攻撃。マッドマンの手から銃が落ちた。


「花子、いまだ!」


 鷹がさけんだ。しかも日本語で。


 武器をなくしたマッドマンに花子は一気に駆け寄った。


 折りたたんだ日傘が金色に輝いている。


 光をまとった日傘は、まるでSF映画に出てくるビームの剣だ。


 距離を詰めると、花子はマッドマンのおなかに日傘を突き刺した。


 それが勝利の一撃となり、マッドマンのからだはドロドロに溶け、シューシューという音を立てて蒸発した。


「思ったより到着が速かったわね」


「いっただろ。全速力で行くって」


 のばした花子の腕に鷹がとまる。


 花子はマッドマンが完全に蒸発をするのを見届けると、


「太郎、元のすがたにもどって」


「でも、あの子が――」


「いいのよ。彼女、スペシャルだから」


 鷹がおどろいたようにクチバシを開いた。


「すべてを見られたんですもの。いまさら隠す必要なんてないわ」


「わかった」


 花子の腕から飛びたつと、鷹はチカの足元に着地した。


「このすがたでは『はじめまして』ですね、土(つち)屋(や)さん」


 鷹のからだが銀色の光につつまれ、シルエットが人間へと変わっていく。


「もっとも、人のすがたなら、きのう見てるでしょうけど」


 銀色の髪に、黒いタキシード。


 銀色の鷹の正体は、なんと銀髪(ぎんぱつ)執(しつ)事(じ)の太(た)郎(ろう)だった。


「土(つち)屋(や)さん、あなたにはいろいろと話さなくてはいけませんね。まずは――」


 そのとき、


 グウゥゥゥ。


 タイミングよく(?)チカのおなかが鳴った。


 信じられないことが起こりすぎて、ショックでお腹が空いてしまったのだ。


「もしかして、おなか空いてますか?」


 グウゥゥゥ! 


 主人の代わりに、おなかがこたえた。


 しかも、さけぶようにはげしく。


「花子、この様子じゃ、話はあとにしたほうがいいかもね」


「そうね。大事な話のとちゅうで、そんな音を鳴(な)らされても困るもの」


 花子がもう一度四股(しこ)を踏むと、地面の魔法陣が消滅。


 さっきまで吹いていなかった風が、どこからともなく急に吹きはじめた。


「どうなってるの、いったい?」


「いままでわたしたちは〈フラスコ〉っていう結界の中にいたの。それをいま解除したのよ。どうせ行き先はおなじなんだから、このまま一緒に『ハーヴェ』にもどりましょう」


 花子が公園の出入口に向かって歩きだした。


 けど、買い物袋を持ってないことに気づき、すぐにベンチへ取りに行った。


「これ、夢じゃないよね……」


 夢じゃないよ。


 そうこたえるように、またおなかがグウゥゥゥと鳴った。



(つづく)



更新は毎日おこなう予定です。

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