ドリームマッチ計画 1
その日の昼休み。
ショウが図書室に向かっていると、
「ショウくん」
不意にうしろから声をかけられた。
ふりむくと、顔を真っ赤にしたチカが背筋をのばして立っていた。
「あ、あ、あのね、ショウくん」
ロボットみたいなぎこちない動きで、チカが近づいてくる。
動きがおかしいうえにチカの顔は真っ赤だった。もしかして、また風邪をひいたんじゃないだろうか?
「土屋、おまえ、顔が真っ赤だぞ。だいじょうぶか?」
「だ、だいじょうぶだよ。それよりショウくん、あのね――」
チカが上目遣いにショウを見た。
うるんだ目と緊張気味のかすれた声。
思わずショウもドキッとした。
「な、なんだよ?」
もしかして、これって告白じゃ……。
そう思うと、頭の中がカーッと熱くなった。
「あの、その、お米のことなんだけど」
「お米?」
予想外の言葉に、ヘンな声が出た。
「米がどうかしたのか?」
「あ、あ、あのね、お米が――ついてるよ」
あわてて口元を触ってみたが、なにもついていない。
「お、おでこについてるの。わ、わたしが……取ってあげるね」
チカは手をブルブル震わせながら、ショウのひたいにひとさし指を当てた。
ピトッではなく、ニュルッとした感触。
緊張なのか熱のせいなのかはわからないけど、チカの指は汗でぬれていた。
「取れたよ。うん、完全に取れた。それじゃあ、またあとでね!」
そういうと、チカは全速力(そこまで速くないけど)でその場から走り去った。
(ひたいに米って……。おれ、そんなにひどい食い方してるのかな?)
昼休みの廊下には、こどもたちの元気な笑い声があふれている。
そんな明るい空間の中で、ショウはひとり不安になるのだった。
★ ★ ★ ★ ★
その夜――。
午後11時。
チカは自宅ではなく、おとなりの202号室で、アルルと一緒にエンリルの帰りを待っていた。
両親には「花子ちゃん家でパジャマパーティーをするね♪」といっているので、よびもどされる心配はない。
「ところで、チカ。あなた、ちゃんとショウのひたいを触ってきたんでしょうね?」
『おすすめちゃんこ鍋100選』という雑誌を見ながら、アルルがたずねた。
「も、もちろん触ってきたよ」
チカは右手のひとさし指を握った。
いくら〝計画〟のためとはいえ、昼休みのことを思いだすと、いまでも心臓が飛びだしそうになる。
「ショウくんのひたいに触ったわたしの指をとおして、みんなでショウくんの夢に潜りこむ……だもんね」
「そう。だから、あなたがショウのひたいに触らないと、計画ははじまらないの」
アルルが『おすすめちゃんこ鍋100選』を閉じた。
「ねえ、アルル」
「なに?」
「もし、ショウくんが夢を見てなかったら、どうするの?」
アルルの計画を聞いたときから、ずっと心配していたことだった。
「心配ないわ。夢を見てないなら、見せればいいだけよ」
アルルがテーブルの上に置いてあるノートを取った。
「このノートは、わたしが考えた夢のアイデア帳。寝ている人に見せる夢のアイデアをたくさん書き貯めてるの」
「夢を見せるって……アルル、そんなことできるの?」
「あたりまえよ、わたしをだれだと思ってるの」
アルルが得意げに笑ったとき、ベランダの手すりに銀色の鷹がとまった。
エンリルが帰ってきたのだ。
チカが窓を開けると、エンリルは人間のすがたで部屋に入ってきた。
「アルル、計画の準備は?」
「すべて完璧よ。万が一ユウマが出たら、スマホで知らせるよう、ほかのシャサールにも連絡してあるわ」
アルルがスマホを手にした。
「すべての準備は整ったわ。チカ、エンリル、計画をはじめるわよ」
アルルとエンリルはチカをはさむようにソファに座り、チカの手を握った。
「ショウは寝ているみたいね」
「夢は見ていないみたいだから、アルルが考えた夢を見せてあげようか」
ふたりが目をつむったままいった。
ショウの夢に潜りこむには、ショウのひたいに触れた人物――つまりチカの手を握る必要があるのは知っていたが、まさか手を握っただけでショウが寝ているかどうかまでわかるとは思わなかった。
「チカ、いまから夢の世界に潜りこむわ。目を閉じて」
「う、うん」
チカはぎゅっと強くまぶたを閉じた。
「ドリームマッチ計画、始動よ」
その瞬間――。
からだから力が抜けて、チカの意識は夢の世界に落ちていった。
(つづく)
更新は毎日おこなう予定です。
※明日、12月6日19時にゴクハナの新エピソードを投稿します。




