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【13話】ショウの夢 4


 バッターユウマとの戦闘から一週間がたった。




 その日、いつもより早く起きたショウは歯みがきと着替えをすませて1階に降(お)りた。


 台所では、おばあちゃんが目玉焼きを焼いてくれていた。


「おはよう、ばあちゃん」


「おはよう、ショウくん。もうちょっとで焼けるから、待っててね」


 ショウはお母さんとおばあちゃんと3人で暮らしている。


 けど、母さんは仕事で毎朝はやい時間に家を出るので、朝食はいつもおばあちゃんとふたりで取っている。


 ショウの席には、すでに牛乳を注いだコップが置かれていた。


 毎朝、かならず牛乳を飲む。


 野球を辞(や)めたあとも、ショウが続けている習慣だった。


 もともとショウは牛乳がニガテだった。


 けど、からだを大きくするためにカズヤさんが、毎日、牛乳を飲んでいることを知って、マネするようになったのだ。


(なんか、おれ、最近、ずっとカズヤさんのこと考えてるな)


 おそらく一緒に野球をする夢を見たからだろうけど、もしかしたら、それだけじゃなくて〈将来の夢〉も関係しているのかもしれない。


 野球選手になりたい。


 ショウがその夢を持つようになったのは、まちがいなくカズヤさんの影響だった。


 カズヤさんの本名は瀬(せ)川(がわ)カズヤ。


 以前、ショウのおとなりに住んでいた5歳上のお兄さんだ。


 歳ははなれているけど、カズヤさんはショウを本当の弟のようにかわいがってくれた。


 自分も練習でいそがしいのに、試合でなかなかヒットを打てないショウのために、バッティング練習につきあってくれたこともあった。


 味方のエラーで試合に負けたことをショウが愚痴(ぐち)ったときも、


「他人の失敗を責める人間より、フォローできる人間になれ。そうすれば、おまえが失敗したときに、まわりがフォローしてくれる」


 そう諭(さと)してくれた。


 カズヤさんは野球選手としても人間としても尊敬できる人であり、ショウのヒーローだった。


 けど、そんなカズヤさんを悲劇が襲った。




 その日、ショウが一泊二日の野球遠征からもどってくると、


「きのうの夜、カズヤさんが交通事故にあったの!」


 顔を真っ青にしたお母さんから、そう告(つ)げられた。


 いそいで病院に向かうと、病室のまえにカズヤさんのお父さんが立っていた。


「おじさん、カズヤさんは!?」


「手術がおわって、さっき目覚めたところだよ。でもね、ショウくん、いまはあいつに会わないであげてくれるかな」


 お父さんは泣きだしそうなのを必死にこらえながら、いった。


 その直後に、


「いままで、なんのために生きてきたんだよ!」


 カズヤさんの叫びが病室から聞こえた。


「野球ができないおれに生きている意味なんてないんだ!」


 その声には、怒りと悲しさの両方が混ざっていた。


「なんのために、いままでがんばってきたんだよ……なんのために……」


 そのあとはもう言葉にならなかった。


 カズヤさんと彼のお母さんの泣き声だけが、締め切ったドア越しに聞こえてくるだけだった。


「脚が動かないんだ」


 うつむきながら、カズヤさんのお父さんがいった。


「世界最高のピッチャーになる。それを夢みて、いままで、あいつはがんばってきたんだ。それなのに下(か)半身(はんしん)不(ふ)随(ずい)で車いす生活を余儀(よぎ)なくされるなんて……」


 白い床にお父さんのなみだがこぼれた。


 ショウのなみだもこぼれた。


 そのあとのことは、なにも覚えていない。


 たったひとつ覚えているのは、


「こんなことなら、夢なんて持たなきゃよかったんだ」


 泣きながら漏(も)らした、カズヤさんの言葉だった。




 何日かたって、ショウはお母さんから事件の全貌(ぜんぼう)を聞かされた。


 事件の日、練習をおえたカズヤさんは帰り道で金属バットを持った野球部の先輩たちに襲われたのだ。


「ちょっと野球がうまいからって、調子に乗るなよ」


 そういって、先輩たちはカズヤさんをバットで殴りはじめた。


 カズヤさんはなにも悪いことはしていない。


 先輩たちの行為はカズヤさんのかつやくを恨んだ完全な逆恨みだった。


「やめてください、先輩!」


 カズヤさんは必死に逃げた。痛みをガマンして逃げた。


 ふだんなら、ぜったいにしない信号無視もして逃げた。


 ダメージでからだがフラフラしていたこともあり、カズヤさんは横断歩道のまんなかで転んだ。


 そして走ってきたトラックと衝突。


 衝撃で脊椎(せきつい)を痛めたのだ。


「ほんのちょっとケガさせるつもりだったんだ。ウソじゃないよ」


 事故のあと、先輩のひとりがともだちにそういっていたらしい。




 その後、カズヤさんは野球部を辞(や)め、学校にも行かなくなった。


 それから少しして、家庭の事情でショウはのぞみ町に引っ越すことになり、カズヤさんとのつながりはなくなった。


 だから、いま彼が、どこでなにをしているのかショウは知らない。


「ショウくん、だいじょうぶ?」


 おばあちゃんが心配して声をかけた。


 どうやら、かなり長いあいだ、カズヤさんのことを考えていたらしい。


「すごく深刻(しんこく)な顔をしてたけど、なにか悩みごと?」


「そんなんじゃないよ。算数のテストのことを考えてただけ」


 おばあちゃんを心配させないためにウソをついた。


「それならいいけど。あ、目玉焼きできたから、冷めないうちに食べてね」


 いつのまにかプレートに、タマネギドレッシングをかけた目玉焼きがのせられていた。


 そういえば……。


(目玉焼きにドレッシングをかけはじめたのも、カズヤさんがしてたからだっけ)


 それをきっかけに、ショウは、またカズヤさんとの思い出にふけるのだった。



(つづく)


更新は毎日おこなう予定です。

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