ショウの夢 3
その日の夜――。
午後11時45分。
カラスからの報告を受け、アルルとエンリルはユウマの出現した場所に向かっていた。
ふたりが向かっているのは、のぞみ第2小学校の近くの河川敷。
夕方にエンリルがスマホを落とした場所だ。
「アルル、気をつけて。カラスの報告だとユウマは二匹いるみたいだ」
「二匹?」
闇の中でアルルが顔をしかめた。
基本的にユウマは単独行動が多いが、たまに数匹で一緒に行動することがある。
「種類は?」
「一匹は宝石のバットを持ったバッターユウマ。もう一匹は宝石のグローブをはめたボクサーユウマだ」
「どっちも厄介ね」
「ああ。厄介だ」
走りながら、エンリルはおなかに手を当てた。
ただでさえ力の強いユウマがバットを振りまわしたり、高速パンチを打ってくるのを想像したら、胃が痛くなったのだ。
情報通り、河川敷には二匹のユウマがいた。
ボクサーユウマには、髪を真っ赤に染めた二十歳ぐらいの青年の顔がついていた。
そして、バッターユウマのほうは……。
(えっ?)
泥だらけの少年の顔を見て、エンリルとアルルは息をのんだ。
鷹のごとく力強い目と、天にのぼる竜のように美しいかたちのまゆ。
バッターユウマについていたのはショウの顔だった。
「アルル、バッターユウマはぼくがやる」
パチン!
エンリルは指を鳴らして河川敷に〈フラスコ〉を張った。
「きみはボクサーユウマのほうを」
「わかったわ」
返事と同時にアルルは日傘をユウマに向けて、光弾を撃ちだした。
一方、エンリルはオオカミに変身すると、バッターユウマに飛びかかった。
「グルオォォ」
飛びかかったエンリルめがけてユウマがバットを振りおろす。
けど、これがエンリルの狙いだった。
バットが頭に命中する寸前、エンリルはヘビに変身して攻撃を回避。そのままバッターユウマの腕に絡みついて締めあげた。
ギチギチギチ
泥の腕にヒビが入る。
あまりの痛さにバッターユウマが口を大きく開けた。
声は出ない。けど苦しそうに歪むショウの顔を見て、胸が痛んだ。
夢なんて持つ必要あるんですかね。
エンリルの頭の中で、その声が聞こえた。
油断したつもりはない。
力を弱めたつもりもない。
けど、もしかしたら、ほんの一瞬、心に迷いが生じたのかもしれない。
バッターユウマがもう片方の手で、エンリルの頭をたたこうとした。
(あぶない!)
いそいで腕から離れると、エンリルは人間のすがたにもどり、バッターユウマと距離をとった。
「エンリル、だいじょうぶ!?」
人間のエンリルのもとに、いそいでアルルが駆け寄ってきた。
「アルル、ボクサーユウマは?」
「1ラウンドKO負けよ。トキさん仕込みのつっぱりでね」
見ると、アルルの背後で、いくつもの手形がついた泥のかたまりが蒸発していた。
「よし、ふたりで協力してバッターユウマを――」
その瞬間、バッターユウマがふたりに襲いかかってきた。
横に跳んで、バットを避ける。
つぎの攻撃にそなえて体勢を立て直した……が、バッターユウマは襲ってこない。
それどころか、バッターユウマはふたりに背を向けたまま、なにもない空間に向かってバットを振りおろした。
「まずい、〈フラスコ〉をこわす気だ」
その瞬間、ガラスの板をたたいたみたいに、なにもないはずの空間が割れて、あたりが金色の光につつまれた。
「逃がさない!」
アルルが日傘の先端をバッターユウマに向けた。
けど、それより先にバッターユウマは割れた空間を通って〈フラスコ〉の外――元の世界に逃げていった。
いそいでエンリルは〈フラスコ〉を解いた。
けど、どこにもバッターユウマのすがたは見えない。どうやら逃げられたみたいだ。
「エンリル、あの子って、たしか――」
「ああ。美空ショウくん。チカちゃんの夢に出てきた子だ」
「これからどうするの?」
「とりあえず『ハーヴェ』にもどろう。あいつだってかなりのダメージを受けているから、数日は動けないはずだよ。それに――」
「それに?」
「『黄金の意志団』に調べてもらいたいことがあるんだ」
夢なんて持つ意味あるんですかね。
エンリルの耳の奥では、いまもショウの声が鳴り響いていた。
(つづく)
更新は毎日おこなう予定です。




